吸血姫のプレゼントが尊死級だった件について(なお女神の実況付き)
ロザリオの地下墓標・第3層。
冷気というより“死の気配”が、肌に貼りつくような不快さで俺たちの背中をなぞってくる。
ようやく見つけた小部屋に入り、俺は少しほっと息をついた。
「さて……火ぃ起こすか」
拾った木くずと、以前使い損ねていたサバイバルセットの火打ち石を取り出す。
爆発スクロール事件の教訓を活かす時がきた!
「ガリ……ガリ……よしっ、ついた!」
「ふふん、やればできるじゃないの、下僕」
『うぉ~っ!ユウくん成長してる~!学習してる~!』
「いちいち実況すんなっての!!」
焚き火の炎が部屋を暖かく照らす。
その横で、クロエがふわっとあくびを漏らした。
「……眠い?」
「べ、別に……ただちょっと疲れただけよ」
(いや、さすがに今日は色々あったもんな……)
「休もうぜ。背中貸すよ」
「ふふっ、あんたにしては気が利くじゃない。じゃあ、貸しなさい、下僕」
(これ、俺が主でクロエが従じゃないんだっけ……?)
ふたりで焚き火のそばに座っていると、クロエが何かを取り出し、俺にぽいっと投げてよこす。
「……これ、受け取りなさい」
「え? なにこれ……?」
手のひらに収まる、小さな銀の指輪。
ちょっと歪んでるけど、丁寧に磨かれてて、どこか温もりがある。
「手作り……?」
「そ。魔法じゃなくて、自分の手で作ったの。……あんたのために、ね」
「マジか……すげぇ……」
(前世も含めて、家族以外の異性からプレゼントなんて初めてかも……)
「ふ、ふん……そんなに喜ばれると……べ、別に嬉しくないけど……」
「ありがとな、クロエ。超嬉しい。マジで大事にする」
『うぉぉぉ!爆誕、下僕指輪契約!?感動展開キターーーッ!!』
「黙れっつってんだろ適当女神!!」
クロエはそっぽを向きながら、そっと続けた。
「そ、それで……指輪を受け取ったってことは、あんたは……その……」
「あたしの“正式な下僕”ってことで……いいでしょ? げ、下僕としては光栄なことなんだから……っ!」
「なにしろこれ、吸血鬼の王族――このあたしが、直々に作ってあげたものなんだから。感謝しなさいよね!」
(……なんか、めちゃくちゃ照れてるけどツンツンしてて……これがクロエなんだよな)
「はいはい、ありがとうございますお姫様。正式な下僕として、精一杯尽くさせていただきます!」
『ユウくん、契約成立おめでと~☆ 指輪プレゼントとか、もうプロポーズじゃん!?』
「ちゃうわ!!」
クロエはまたそっぽを向いたまま、でもほんのり耳が赤くなっていた。
焚き火がパチパチと音を立てる。
そろそろ眠ろうかと体勢を整えると、クロエが隣にすっと寄ってきた。
「……くっつくわよ。寒いから」
「はいはい、寒いからねー」
(テンプレ台詞すぎて逆に安心感すらある)
『うぉっ!またきた!“くっつきイベント:夜間限定ver.”!!』
「実況すんなエレン……!」
「……なに、ひとりでニヤけてるのよ。気持ち悪いわね、下僕」
「な、なんでもないです!」
「……おやすみ、ユウ」
「おやすみ、クロエ」
──ふたり、くっついたまま目を閉じる。
ほんの少しだけ、距離が近くなった夜だった。