吸血姫と戦闘エプロン、俺の理性が試される件について
──棺が、音もなく開いた。
重く、静かに。
中から立ちのぼるのは、黒く濃密な魔力の波。
ユウ「……やば、これ絶対ヤバいやつじゃん……」
中にいたのは、少女だった。
肩にかかる、艶やかな銀髪。
光の加減で白銀にも、淡い紫にも見える神秘的な色。
瞼を閉じたその顔立ちは整っていて、どこか儚げな印象をまとっていた。
透き通るような白い肌は、人間とは思えないほど滑らかで、まるで光そのものをまとっているかのよう。
小柄ながら、スタイルは整っていて──
特に、胸のサイズがやたらと目立っている。
(……なんだこの爆乳……あの適当女神のまな板ボディとは真逆すぎんだろ……)
『……ちょっとぉ? まな板まな板言うなっての……ラッキースケベ中で鼻の下伸ばしてても失礼じゃない?』
『てか、胸のデカさで感動すんなや!そこ!?そこなの!?』
「いや違っ、これは事故だから!不可抗力だから!!」
「ていうかツッコミがリアルなんだよあんたはッ!!」
少女の瞼がゆっくりと持ち上がる。
紅い瞳。まるで宝石のような深紅で、微かに光が揺れている。
その瞳が、まっすぐに俺をとらえた。
「………………ん……」
幻想的なその一瞬は──彼女が自分の身体を見下ろしたことで終わりを告げる。
「………………」
「な、な、なにこれ……」
「なーーーーーーーんであたし、裸なのよぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」
バッと立ち上がるや、怒りの魔力で周囲の空気がビリビリ震える。
「ちょっと貴様ッ!!あたしの体をどこまで見たのよッ!?見たわね!?このスケベッ!!この変態下僕ッ!!」
「いやいやいや!!俺だって事故なの!あんたが勝手に棺から──」
「ってか下僕じゃないし!!」
『ふふ~……神様の粋な転生特典だね~?』
「お前は神名乗んなマジで!!」
パニクる俺の手が、無意識に装備袋を探る。
そして取り出したのは──伝説の(?)戦闘用エプロン、《ブラディ・キュウジ》
「とりあえずこれ!!これだけでも着てくれ!!」
「……は? なにこれ、エプロン……? 黒革にフリルって、趣味悪くない?」
「ドロップ品!!俺の趣味じゃないって!!防御+1、攻撃+1!バフ付き!!今最適な装備だから!!」
クロエは睨みつけたあと、渋々受け取る。
「……チッ、しょうがないわね……。今はこれしかないんだもの……」
バサッと装着──
「……ちょ、ちょっと……これ、胸のとこキツいんだけど……。サイズ感おかしくない?」
(うお……裸エプロン……!)
(なんか思ってたより破壊力すげぇ……)
(っていうか異世界転生って……最高かよ……!)
(神様ありがとう!!……あ、でもエレンに感謝は……んー……)
『……チッ』
「舌打ちした!? 今完全に聞こえたぞ今の!!」
クロエはため息をつきつつ、エプロンの裾をギュッと握った。
「……とりあえず……名前くらいは教えなさいな。下僕?」
「だから下僕じゃねぇってば!!……俺はユウ・サカイ。死霊術師。まだ冒険者未満」
「ふぅん……ユウね。あたしはクロエ。クロエ・ノクティア=ブラッドローズ」
「吸血鬼の姫にして、次代の夜を統べる者──だそうよ」
「“だそう”って!? 自分で言ってるのに不安げ!?」
「……封印前の記憶が曖昧なのよ。名前と……力の感覚くらいしか、残ってない」
(……ちょっとだけ、寂しそうだった)
「ま、とにかく──今はあんたに頼るしかないみたいね。下僕?」
「だから勝手に決定事項みたく言うなよォォ!!」
──こうして、封印から目覚めた吸血姫と、
巻き込まれ体質の俺との、“最悪”な出会いが幕を開けたのだった。