表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/42

死者の従者と、眠れる姫の棺

転送陣の前に立ったまま、俺は硬直していた。


空気が違う。

この場所だけ、世界の“深層”に繋がってるみたいな……そんな感覚。


 


「やば……ここ、絶対なんかあるだろ……」


 


スケルタル・ラビットですら足元で震えてる。今にもローブの中に隠れそうな勢いだ。


 


そのとき──マフラーがふわっと浮いた。


 


「……え?」


 


首元が勝手に引っ張られる。

ローブも微かに光を放ち、俺の身体が――魔法陣の中心に引き寄せられた。


 


「お、おい!待っ、これヤバいやつだろっ!!」


 


『おめでと~☆当たりです♪』


 


「いやお前だろおおおエレェェェン!!」


 


世界が光に染まり、俺の意識は深淵の奥へと引きずり込まれた。


 




 


目を開けると、そこは今までの階層とはまるで違う場所だった。


 


「……うわ、ここ……マジで雰囲気ヤベぇ……」


 


壁一面に古代文字のような模様。

空気が重い。寒気とは違う、魔力の圧に押しつぶされるような感じ。


 


さすがに警戒して、俺は即座に魔法を唱える。


 


「白骨の魂よ、跳ねよ──《スケルタル・ラビット》!」


 


ポフッ。


……召喚された骨うさぎは、即逃げた。


 


「いや、ビビりすぎじゃね!?そろそろ補助魔法覚えねぇ!?役立てよお前も!!」


 


そんなツッコミを入れてると――ギィィィ……と通路の奥から重たい足音が響いてきた。


現れたのは、黒鉄の甲冑に身を包んだアンデッドの騎士。

無言でこちらに剣を構え、ジリジリと詰め寄ってくる。


 


(またかよ!?こないだのより明らかに強そうなんだけど!?)


 


氷魔法で牽制しようと詠唱に入る。


 


「氷よ、鋭き牙となれ――《アイス・スパイク》!」


 


しかし、地面から突き出した氷の槍は、まるで紙くずのように踏み砕かれた。


 


「うっそ、また効かねぇの!? いやもういろいろ足りてねぇよ俺!!」


 


俺は逃げながら、ふと腰に差した短剣を見た。


 


(……前もこれでなんとか勝てたよな……まさか、今回も……!)


 


「うおおおおぉぉぉぉッッ!!!」


 


叫びながら、渾身の一撃を騎士に叩き込む!


 


──ギィィィン!!!


 


短剣がアンデッドの身体を貫き、同時に魔力の火花が弾けた。

黒煙をまとって、騎士は崩れ落ちる。


 


「……倒した……!マジで……また短剣で……!」


 


俺はその場に立ち尽くして、手にした《折れかけの小剣》を見つめた。


 


「……これだ、間違いねぇ……!」


「この剣、見た目はショボいけど……俺専用のチート武器だったんだ!!」


 


「女神から最初に渡された、地味にして最強の武器!そういうやつ!!」


 


「うおおおおッッ!!やっぱ異世界って最高じゃねぇか!!」


 


『え、えへへっ……よ、よかったね~……(よし、黙っとこ)』


 


「エレン、ありがとう……マジ感謝してる!お前、最高だよ!」


「もうこれ、愛じゃん!結婚しよ!!」


 


『えぇ~!?ちょっとぉ~照れるじゃん~☆(あぁぁ~責任感じてきたぁぁ~!!)』


 


そんな小芝居を経て、俺は倒れた騎士のそばに落ちた“何か”に気づいた。


 


「ドロップ……か?」


 


拾い上げると、黒革にフリルのついた……謎のエプロンだった。


 


【装備品:《ブラディ・キュウジ》】

→ 防御+1

→ 攻撃+1(刃物操作がスムーズになる)


 


「なにこのセンス……しかもエプロン!?俺、これ着るのかよ!?」


 


『うんうん、似合う似合う♪それ、あの騎士くんが昔使ってたやつじゃな~い?料理も戦闘も担当してたんだよきっと!』


 


「何担当だよその設定!?しかも戦闘エプロン!?バトルシェフかよ!!」


 


そうツッコミながらも、なんかフィット感が良すぎて結局装備してしまった俺は、奥の広間へと歩を進めた。


 


──そこに、それはあった。


 


魔法結界に守られた部屋。

中央には、荘厳な黒き棺。


まるで時間が止まったような空間に、俺は自然と足を止めた。


 


「……これが……“封印”……?」


 


マフラーがわずかに震えている。

体の奥から、ぞわっと何かが突き上がるような感覚。


 


そして──


 


──『……だれ……か……いる……?』


 


まただ。頭に直接響く“声”。


少女のような、か細い、でも確かに届く――声。


 


「お、おい……今の……?」


 


その瞬間、棺の表面が、光を帯びて脈打ち始めた。


 


俺の中で、何かが静かに目覚める音がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ