──死んでた。しかもクソみたいな理由で。
気がつくと、真っ白な空間に立っていた。
床も天井もない。
あるのは、ぼんやりと漂う光と、俺の意識だけ。
「……え、ここどこ?」
俺、酒井悠。
17歳の高校生で、そこそこ真面目な陰キャオタクだ。
さっきまでコンビニで新作カップ麺を買って、帰り道を歩いていたはずなんだが……。
「おっはよー!起きた?魂くん!」
「だれ!?」
振り返ると、金髪ロングのゆるふわ美女がぷかぷか浮いていた。
見た目はきれいなお姉さん。
でも胸は残念だった。
いや、別にいいけど。
たぶん。
「わたし?女神エレン! うん、神。ほんとだよ?」
「今ね、ヒマつぶしで魂スキャンしてたら、ちょうどキミがぽっくりいってたから拾ってみたの!」
「いや、待って待って。俺死んだの!? え? なんで!?」
「えーっとねぇ……落ちてきたスマホ拾おうとして、前のめりに顔面から地面ダイブ → 後頭部強打 → 昇天コース!」
「何それひどっ!?そんなアホみたいな死因アリかよ!?」
「うん。歴代でもトップ10に入るわね。むしろ私は好きよ、そういうの!」
「やめて、そんなランキング入りたくない……」
「ま、でも仕方ないじゃん?現世リタイアしちゃったし!
だからさ、転生しよ? 異世界! ファンタジー! 剣と魔法と、ドラゴンと、なんかよくわかんないスライムとかいる世界!ゲーマー魂燃えるでしょ?」
「いやテンション高っ!?俺まだ死の実感に浸ってる最中なんだけど!?」
「じゃあさ、ファンタジー世界で美少女に囲まれる人生ってどう?
スキルゲットして、自由気ままに冒険!オタクの夢じゃない?」
「…………いいな、それ。なんかもうどうでもよくなってきた俺の死因……」
「でしょ?さすが私、“説得力のある適当さ”が売りなんだから!」
……やばい、この神、ノリが完全に俺寄りだ。
っていうか、何かもうこのノリでいい気がしてきた。
「OK、乗った!異世界転生、してみますか!」
「いぇーい!じゃ、まずはステータス配分からね~。“知力、魔力、力、運”を1〜5で割り振ってちょうだい!10ポイントまで!再振り不可、人生一発勝負!」
「よし、知力3、魔力2、力1、運4で!」
「運極振り気質か~、好きだわ~。私もガチャ10連でSSR3枚引くタイプだからわかる!」
「うわ、女神がガチャ中毒……」
「よし、じゃあその流れで!ねえユウくん、わたしに聞きたいことあるでしょ?」
「ある!!……あの、俺、魔法とか使えるの!?ファイアーボール!とかドッカーンってやつ!?」
「もちろん!使えるよーー!!異世界だもん!魔法使えなきゃ始まらないでしょ!?しかも、もしかしたらレア魔法かもよ!?」
「マジかよおおおおおおお!!!やった!!!俺、火力職になる夢が……!!」
「ただし~!どんな魔法かは、転生してからのお楽しみでーす☆」
「え?」
「適性ってのがあるからね?私がノリで“これ面白そう~”ってやつ選んどいた!たぶん使える、たぶんレア、たぶん……ね?」
「いや適当すぎるだろうがああああああ!!」
「まーまーまー、ユウくんは“運”に振ってたし!引きが良ければ最強、悪ければ地獄!これぞ異世界ライフ☆」
「死因より不安なんだけど今の説明!!」
「ふふっ、苦労して成長する系って人気だよ?
あと、女の子に助けてもらいやすいし!」
「お前……“神”って名乗ってるけど、絶対ろくな神じゃないだろ……」
「バレたか~!でも信仰者は多いよ?」
「信仰されてんのかよ!!」
「はいはい!じゃ、初期装備、ドーン!」
パチン、とエレンが指を鳴らすと、目の前にいかにもショボそうな装備一式が現れた。
小汚い杖、ボロボロの短剣、少しほつれたローブ、そしてやけに目立つマフラー。
「こちら、“エレン印の冒険者セット”でーす!杖は《魔力制御入門くん》、短剣は《折れかけの小剣》。ローブは《ちょっぴり魔力がこもった旅装》。そして……マフラーは特別製!」
「このマフラー、なんか……ELENってロゴ、くっそ目立つんだけど」
「そこがチャームポイント!名前は“女神エレンより、愛をこめて♡”!」
「センスの暴力……」
「でもちょっと嬉しいでしょ?ね?ね?使いなよ、恩人だし!」
「……わかった、ありがたくダサく着るよ。恩人だし」
「うんうん!それでこそ!さーて、そろそろ転送しよっか!」
「ちょ、なんかもうちょっとこう……心の準備的な──」
「いってらっしゃーい!」
女神の笑顔に見送られ、俺は光の渦に包まれて、異世界へと投げ出された。
──この時の俺は、まだ知らなかった。
“スケルタル・ラビット”とかいう骨ウサギを召喚するところから始まる、
ツンチョロ吸血姫とのカオスな冒険が始まるとは――。