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二日目

[キミと買い物に行きたい]


あのとても奇妙な契約を交わてニ日。

朝食を食べ、少しの間箒のメンテナンスに出かけ帰ってきた。そしていつも通りの家に入る。

だが目の前に広がったのは、いつも通りの風景ではなかった。

俺はこの世のものとは思えないことを目の当たりにしたのだ。

暗い色の家具が多い室内に、異質に輝く金。

目の前に広がっていた光景は金貨、それも山積。

一体普通の魔法使いがいくら働いたら、手に入れることのできる金額だろうか?

俺だってこんなに持っていない。いいや、こんなに持っていないだけで結構な量は持っているつもりだった。そうそれは、誰にも負けないと思えるほどには……。


だがその前にいる忌まわしき敵は、その倍近い量を易々と出して見せたのだ。

真逆負けるとは思っていなかった。


「な、なんだこの金貨の山は……、」

「やっと帰ってきたー。ローガン買い物に行かない?」

「はあ?」

「この家はつまらなすぎるよ。黒い家具しかないし、なんなら家具も机と椅子しかないじゃないか!それに……」

「なんだ?」

「昨日料理していて思ったけどさ、なにもかも高価そうなんだよ! 使ってて冷や汗が止まらない。」

「失礼だな。だが魔王の屋敷が安っぽいのも、なんか嫌だろう?」

「た、確かに」

「そうだろう?」

「でもさ! この家具の少なさは、問題だよね。うん。後、キミ趣味悪いよ」

「そうなのか……」


確かに言われてみれば、殺風景な気がする。まて、俺の趣味が悪かったのか……。なんか認めるのは嫌だな。

数十年前、一生懸命に選んだ記憶があるのに。

いいや、ちょっと待て。それよりもだ。


「俺とお前が一緒に買い物……」

「そうだよ!」

「いや、お前が一人で言ってくるといい」

「えっ」

「俺は買い物がとにかく苦手だ。人がラワラワといる空間に行きたがる脳みそが、理解不可能だ」

「へー」

「だから一人で行ってくるといい」

「でもさ、ココはキミの家だよ」

「そ、そうだな?」


何を当たり前のことを……。


「キミの家に置く家具は自分で選びたいでしょ?」

「まぁ」

「だから一緒に行こうよ!」

「嫌だな、」

「どうせ暇なんだから。一人ぼっちでしょう?キミ」

「……まあな」

「よしッ決まりだね!」

「まて、まだいいとは」

「よし行くよー」

「俺の話を聞け!」


そして俺はアレよコレよと流され続け、外着に着替え箒に跨っていた。何故だ?

しかも俺の着ているローブはカラフルで、魔法で色を変えた事が明らかだ。すげー派手。

“待て、家具の色だけならば魔法で変えられるのでは”と気づいた時は、時すでに遅しの状態であり外で箒に跨っていた。久々だ、こんなにも頭を抱えたくなったのは。

隣で当たり前かのように、スペアの箒に跨るハンナ。あれ?


「おい、お前箒乗れないではなかったのか?」

「え〜そんなこと言ったけ」

「はぁ、」

「よくわかんないけど、しゅっぱーつ!」


ハンナは勢いよく地面を蹴って、俺も着いていくか思った時、ドサッと鈍い音が鳴る。

俺は敵襲かと思い辺りを見回すと、地面とキスをしているハンナの姿が目に入った。

……これはある意味敵襲だな。

勇者とは思えない情けない姿。俺は笑いを堪えながら、ハンナの元へと歩いて行った。勿論震える足で。


「フッ、お前……とても無様だが大丈夫か?」

「う、うん。とても口の中が苦いこと以外はね」

「そうか」

「さっきから地味に震えてるの辞めてくれるかい?」

「善処しよう」

「……やっぱり転移で行こう! 魔法使いらしくさ」

「嗚呼そうだな」


箒で飛ぶのも結構魔法使いらしいと思うが……。

俺達は杖を一振りしてその場から姿を消した。

そう俺はその時、見て見ぬ振りをした。俺の折れた箒を……。せっかくピカピカに磨いたのに。朝方の俺の努力がもっと悪い方向に転んだ。俺はものすごく気分が沈んだ。


そんな俺の隣で、ハンナは反省もせずに

“飛べないの忘れてた”とブツブツと言っていた。鳥頭なのかもしれないな、勇者サマは。



「ほぉココか」

「うん、」

「目がチカチカするな」

「家が暗すぎるんだよ」


目の前に広がるのは魔法使いで賑わう街の商店街だった。チカチカとする色とりどりの煉瓦と店。きっと魔法で維持しているのであろう不思議な形の建物はとてもこの世のものとは思えない形をしている。俺の知っている時代からは随分と変わったらしい。

まるでお伽噺に出てくる建物みたいな感じだ。


それに久々に外に出たらかもしれないが、本当に目がチカチカする。

ふとハンナの方を見ると、そこには別人がいた。赤髪の癖毛ショートカット、翡翠の瞳を持った青年。

あれ? コイツ誰と思っていた時、

「さぁ行こうか! 買い物だよ!」


と言うもんだから余計困惑した。だが確かにコイツは新聞にも載るほどの有名人だ。確かに素顔では街中を歩けないだろう。

顔が世に出回っているもの本当に面倒くさいのだな。


「どこから行くのだ?」

「んーまずはソファーかな。」

「わかった」


どことなくウキウキとしている歩き方に、キラキラとしている瞳のハンナを見るのは楽しかった。

コイツを殺せる、と言う事実に俺がもっと胸を躍らせたのは言うまでもないだろう。



俺はとてつもなく驚いた。家具とはこんなにも種類があるのか……。

丸いものや四角いもの、カラフルなものから落ち着いているもの、艶があるものやふわふわとしているもの。

逆に沢山ありすぎでよくわからない。五つぐらいに絞ってほしい。これは世の母親が大変だな……。

いや、もうハンナに選んでもらおうか。


「ねェ、ローガン!コレはどう?」

「好きに選べばいい」

「いいのかい?完全なる私の趣味になるよ」

「嗚呼」

 

別にお前がいなくなったら捨てるからな……。


「私がいなくなったら捨てるとか言わないでね」

「嗚呼、それも善処するよ」

「フフッ、それは良かった。できれば現実にして欲しいけどね」

「約束はできないな」

「いいよ別に。魔王と勇者なんだから、それにきっと叶わないしね。」

「そうだな……」


「次は、アレを見よう!」

気を取り直したハンナ。俺は諦めて、ハンナの後ろをついて行った。

家に帰ってから後悔するとは知らずに……。



「買い物楽しいかい?」

「そうだな」

「おっ、珍しいー。認めるなんて!」

「沢山のものを見るのは楽しいな」

「フフッ俺は良かった!」

「次はどこに行くのか?」

「本屋かな」


二人は友達のように道を歩いていた。

二人を見た人はコレが、勇者と魔王とは思わなかっただろう。

だってその姿は、ただの仲の良い魔法使いだったのだから。



「凄いな、」

「本当だね〜」


これぞ魔法図書館と言わんばかりの風景。

浮いている本に、分厚い本棚。

どこかレトロな雰囲気を漂わせている。


「どんな本を読みたいのかい?」

「んー、過去を変える代償みたいな」

「そんなのに興味があるのか。」

「まぁね」


俺はこの時、ハンナの事をよくわからないと思った。過去を振り返るタイプじゃないと思っていたからだ。

ハンナが手に取った本を俺は読んだことがあった。

内容は、過去を変える事は三大禁忌の一つであり苦しみながら死ぬ……みたいなないのようだった気がする。長生きしすぎて、記憶力がなくなってきたみたいだ。

三代禁忌とは、『過去改変』『人体蘇生、錬成』『契約破棄』の三つだったと思うが、正しいのかは覚えてはいない。

俺は自分の顔よりも、手よりも大きな本を手に取った。とても古い本だ。


二人は各々好きな本を見ながら、気がつけば人通りが少なくなるまで本屋に入り浸っていた。



俺は家に着いてから柄にもなく後悔をした。魔王である俺が頭を抱えたのだ。ちなみに本日二日目だ。相当の事があったと思うだろう? そう、本当に大変な事が起こったのだ。

家の中がとてつもなく、それはめちゃくちゃにカラフルになったのだ。

ふわふわとした家具が多く、俺の家とは思えない程明るい家になったのだ。まぁ決めていいと言ったのは俺だから文句は言えない。

その代わりにハンナが居なくなったら全て捨てようと小さく決意した。

ゆっくりと腰をかける。どこを見てもカラフルで明るい部屋ではのんびりできなぁと、ため息をつく。

そしてなんだかんだ言って、物が多い気がする。こんなにも生活する上で物は必要ない。

だがやはり文句は言えない。


「ローガン、夕飯だよー」

「嗚呼今行こう」

「ほらほら、手を合わせて」

『頂きます』



「ローガン本当によかったの?」

「何がだ?」

「本当にこんな家で」

「嗚呼、俺はいい。こだわりがないからな」

「フフッそっか〜、でもそうならあからさまに嫌そうな顔と声をしないでもらえる?」

「…………」


「買い物楽しかった?」

「まあまあだな」

「じゃさ、人と一緒にいるのは楽しい?」

「…………」

「意地悪だったねこの質問、やめようか」

「すまない」

「キミが謝ることじゃないよ。こう言う時は、お礼を言うのがいいんじゃない?」

「感謝しよう」

「それでいいよ」


ハンナはクルリと持っていたフォークを回して、ウインクをしてきた。とてつもなくうざかった。もう本当に。


俺はまたまた無視した。

心のどこがで人の暖かさを知ってしまった事を。

俺を無視をした。

誰かと笑う幸せを知ってしまった事を。


「勇者が人と笑うならば、魔王は孤独でいなければならない」


とローガンは寂しそうに笑った。


「じゃあ、私はキミと笑おうかな。巻き込み事故だよ」


とハンナは笑いながら言った。

ローガンはそれに賛同するでも、反対するでもなく小さく“そうか”と呟いた。

ローガンの瞳がぐらりと一瞬揺れた気がする。


「そう言えば……」

「なに?」

「この山はなんだ?」


俺の指が指した先には、キラキラと輝く金貨チョコとクッキーとパイと……まぁ沢山のお菓子が山積みになっていた。まるで、ハロウィンで世の子供が貰っていた量だ。


「ん? 私のおやつだよ」


あっさりと返事をするハンナ。


「嗚呼、そうか」

「明らかに呆れた顔をしないでよ、大丈夫大丈夫! しっかりと食べ切るから」

「そうか」


とんだ甘党だな。

俺は突っ込むのを諦めた。理解してはいけない生物なのだ。


「はぁ」

俺は大きくため息をついた。俺は後五日、保つのだろうか……。

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