序章
[キミと話をしたい]
勇者は魔王を討伐した。
それは、日が短い季節のことだった。
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魔王とは、闇の魔法の頂点に立つもの……つまりは王である。
だが魔王とは生まれた頃から魔王なのではなく、生まれ何かしらの原因があり魔王になる。大体は闇の魔法にどっぷりハマり、勇者を殺して魔王になる。
勇者とは、魔王を倒すために生まれたとされる魔法使いのことである。
だから魔王と勇者も元は同じ生物なのだ。ただ生き方が少し違うだけで……。
そんな二人はよく夜と昼で表されていた。
夜の魔王と昼の勇者。闇の魔王と光の勇者。二人は完璧に真略の存在として表されてきた。
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闇の夜空の下。私は勇者のシナリオ通り魔王の討伐に成功した。
ー
魔王は死に際にこう言った。
“お前が近くにもっといたのならば、友人になりたかった”と。
その言葉を聞いて何かが心のどこかで引っかかった。その時の魔王の声や、顔。何か愛しい者もを見るかのような声色に表情。
勇者の私と友達になりたかった、と彼は言った。敵である私に死に際にそう言ったのだ。
私はどうしてか分からないが、勝手に唇が私もだよと動いた気がする。
確かに、初めて戦って楽しいと思った。楽しくて、燃える戦闘をしたのは初めてだった。同等の魔法のぶつけ合いは初めてだった。だけど私はその相手を今、この手で杖を振って殺した。
何故? と聞かれたら、勇者だから と答えるだろう。私は彼に、個人的な恨みがない。だって彼の噂話には、勇者以外、勇者の仲間を殺したと聞いた事がないのだから。自分の知り合いが被害に遭ったわけではないのだから。だけど、周りが悪い奴だと言うのを鵜呑みにして私は魔王を殺ろす。
全て私の意思では無かった気がした。
そんな内容のない人間だ、私は……。
人の口車に乗らされ、手のひらで転がさせる。
そして私は気づいた。
この足枷になっている“勇者”を捨てられたならば、私はどれだけ幸せだろうと。
自らを自らで縛りあげ、自分の意志を持たぬままに私は彼を殺した。
偉大なる勇者として。正義の代名詞として。
対等に話してくれる、友達が欲しい。
私は手に力を込めた。バキッと鈍い大きな音共に杖が二つに折れ曲がっていた。
きっとそれは十二月で、空気が乾燥していたからだろう。その季節にぴったりなクリスマスツリーが真ん中に立っていた。モノクロの家具に大きなカラフルなクリスマスツリーが浮いていた。
そのキラキラとした輝きが私にとって、とてもとても憎かった。
ー
気がついたら、私が彼を殺す三ヶ月前に戻っていた。
魔王の住む屋敷の周りの森の中。私は目を覚ました。手にはボロボロの紙。何かを書けと言わんばかりの真っ白な白紙。
私はそこへ契約を書いた。私は手に契約書となった紙を握り、顔を上げた。これからの未来に私は目を輝かせる。
これから知れるであろう魔王について心を躍らせる。
私はゆっくりと魔王の屋敷へと足を運んだ。
これは私が、魔王の事を知る話だ。
魔王をあの闇から救い生きる理由を教える、そんな物語になると私は思っていた。
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