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3.怪人、その学力について

 サウンドハンマー、アースバインダー、ウェザードルイド――泰時の脳裏には、共に日本政府と戦った猟道衆の幹部達の名が次々と浮かんできていた。

 と、同時に猟道衆の首領であった最強の猟鎧兵メビウスハンドラーの恐ろしく冷徹な眼差しも、記憶の中にしっかり焼き付いている。

 あれ程の戦力を誇りながら、それでも猟道衆は特装戦志団に敗れた。

 最初の内は完全に圧倒していた猟道衆だったが、次第に押し返され、最後には壊滅の憂き目に遭った。

 特装戦志団は熾烈な戦いの中で成長を遂げ、更に幾つもの強化を繰り返し、遂にはメビウスハンドラーを超える力を手に入れた。

 あの三人の団結力は本当に凄かった。敵として見ていたヒストリーハッカーも、彼らのお互いを支え合う心の絆は少しばかり羨ましいとさえ思った。

 もしも、泰時があの三人に助けられていじめ地獄から抜け出すことが出来ていたら、きっと違った人生になっていたのではないかとも思ったが、元々が陰キャのぼっちな泰時が、瑠菜や他のふたりと何らかの接点を持つことなどあり得ない話だった。

 ところが今、どういう訳か隣同士の席に配置されるという、彼の記憶には無かった事態が生じ、思わぬ形で瑠菜との接点が確立されてしまった。


(え? どういうこと? どういうこと?)


 当初はひたすら混乱の極みの中にあった泰時だったが、すぐに思考を切り替えた。

 ヒストリーハッカーの能力と記憶、知識が託された時点で、既に歴史が狂い始めている。その最初の影響が、この様な形で現出したのではないだろうか。

 そもそもヒストリーハッカーは過去の自分に全てを託すことで、未来を変えようと目論んだ。つまり、ヒストリーハッカー自身が歴史の改変を望んだのである。

 であれば、瑠菜との思わぬ接点が生じたというこの現実も、或いは偶然ではなく必然の結果だったのかも知れない。

 だが、彼女が将来泰時を殺しにやって来る恐るべき敵だという認識は、今の時点ではまだ消えていない。

 泰時としては最大限に警戒すべき相手であった。

 そんな泰時の決意を嘲笑うかの様に、周囲は彼と瑠菜の間に何かと繋がりを持たせようと動いてくる。

 例えば席替えの翌日、数学の小テストが実施された。


「今回のテストはー、皆さんの今の段階の実力を各自で認識して貰う為のものですー。なので、敢えて難しい問題も入ってますがー、出来なかったからといって苦にすることはありませんよー」


 数学の担当教諭がそんな説明を加えてから、小テストが実施された。

 そして採点は、隣同士で答案を交換して行うことになった。当然、泰時の採点者は瑠菜である。逆に泰時は瑠菜の答案を受け取る格好となった。

 採点の結果、瑠菜は10点中、8点。数学担当教諭が説明した通り、難度が高い問題は間違えてしまっていたが、それ以外はパーフェクトだった。

 流石に、学年トップ3の学力を誇るだけのことはある。

 秋真高校では入学後、一週間以内に現時点の学力を推し量る一斉実力テストが実施されるのだが、その時に瑠菜は学年三位という結果を叩き出し、一躍時のひととなった。

 これ程の美貌に加えて頭脳明晰ともなれば、俄然注目度も高まる。それ以降彼女はクラスの内外を問わぬ人気者となり、更には上級生からも告白されることが何度も続いたのだという。

 そんな彼女は将来、内閣官房直属の武装治安隊『特装戦志団』に抜擢されるのだから、当然の結果だといわざるを得ない。


(凄いよなぁ……やっぱ僕なんかとは、そもそも地頭が違うんだろうなぁ……)


 そんなことを思いながら採点後の答案を瑠菜に返した泰時。

 ところがこの時、瑠菜は愕然たる表情で泰時に彼の答案を返してきた。何事かと思いながら受け取った泰時だったが、自身の答案に赤ペンで記された点数を見た瞬間、しまったと内心で大いに焦った。

 泰時が叩き出した点数は、10点満点だったのだ。

 この結果は、当然といえば当然だった。ヒストリーハッカーの記憶と知能は人類のほぼ頂点に近い高度なものである。今の泰時からすれば、高校生程度の学力テストなど完璧にこなすことが出来る。

 が、本来であればそんなものは徹底的に隠し通すべきであろう。もし今この段階で学力が抜きんでていることを示してしまえば、いきなり注目の的になってしまう。

 ところがこの日の泰時は何もかもが迂闊だった。

 隣に瑠菜が座っていることで、今後どうやって静かに暮らしていけば良いのかと、そのことばかりに気を取られてしまっていて、手を抜くことをすっかり忘れてしまっていたのである。

 その結果が、これであった。


(ヤバい! 満点取っちゃった!)


 瑠菜ですらろくに解答出来なかった超高難度の二問を、泰時は難無くクリアしてしまっていた。

 途中の計算や解法も全て完璧に完璧過ぎた為、瑠菜がその美貌に驚きの表情を張り付けているのも、当然といえば当然だったかも知れない。


「叶邑くん……きみって……実は、物凄く頭の良いひと……?」

「え? あ、いやぁ、たまたまですよ、たまたま……」


 泰時は苦しい弁明に追われた。

 たまたまで、あれ程に隙の無い解法を記すことなど出来る筈も無い。それは自分でもよく分かっている。

 しかしここで下手に騒がれては、後が面倒だ。


「たまたま、ちょっと好奇心で調べた解法が、頭に残ってただけ、です。はい……」

「へぇ……そうなんだ……」


 一応それっぽい弁解で切り抜けたつもりの泰時。

 瑠菜は口では納得した台詞を吐いているものの、その表情には相当に強い疑念の色が張り付いていた。


(ヤバい……目ぇ付けられた、かも……)


 誤魔化しの乾いた笑みを漏らしながら、泰時は全身の血が引いてゆくのを感じた。

 10年後に自分を殺しに来る最強の宿敵に、こんな段階で注目されてしまうなど、自殺行為も良いところであろう。


(やっちゃったよ……やっちゃったよ……あー、どうしよう……)


 それ以降、この日の授業中はほとんど身が入らなかった泰時。

 尤も、今の彼の頭脳であれば今後三年間の授業など一切受けなくとも、余裕で卒業可能な知識は既に完成されているのではあったが。

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