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21.怪人、自己認識する

 一年A組の女子2チームは、片方は早々にトーナメントから姿を消したが、もう片方は躍進を遂げた。

 その残った片方に、瑠菜が居る。

 優勝候補とされていた最強のC組チームを何とか撃破した瑠菜と麗香達はその後も快進撃を続け、遂に決勝へと辿り着いた。

 C組を破ったのは勿論、瑠菜と麗香、そしてチームメイトらの実力があればこそなのだが、彼女らは一様に、泰時の分析と戦術が見事にハマったと口を揃えて賞賛していた。


(いや……僕はちょっと知恵を貸しただけなんだけどな……)


 そんなことを考えながらも、泰時は瑠菜達が白星を積み重ねて決勝戦に辿り着いた際には、少しばかり感無量な気がしないでもなかった。


「凄い……本当に凄いよ、叶邑くん。きみの分析、戦術、全部大当たりだったよ」


 決勝戦開始直前の体育館コートで、瑠菜が本当に嬉しそうな笑みを湛えて泰時の手を取った。

 同時に麗香が横合いから泰時の肩をぽんと叩いて、こちらも惜しみない称賛を送っている。


「あのさ、叶邑君……この球技大会が終わったらさ、ちょっと色々とお話させて貰えない? うちの女バスってさ、個々の技術は結構イイ線いってるらしいんだけど、いっつもここぞって時に負け続けてるんだって……先輩達、本当に悔しそうでさ……」


 麗香はどうやら、泰時を女バス専属の参謀に招きたい意向を抱えているらしい。

 自分の様なスポーツ素人に、そんな大それた真似が出来るのかと逡巡した泰時だったが、よくよく考えればヒストリーハッカーの知略はスポーツに於いても十分に通用する。

 運動系部活に入って毎日汗を流すのは余り趣味では無かったが、時折知恵を貸してやるぐらいならば、然程の負担にもならないだろう。


(でも、あんまり過度に期待されてもなぁ……)


 どんなに最善を尽くしても、負ける時は負ける。その責任の一端を、将来人類の敵に廻る自分なんぞが背負っても良いものだろうか。

 少しばかり複雑な気分になりながらも、泰時は決勝相手の分析結果と取るべき戦術について、コート脇に集まった瑠菜と麗香、そしてチームの女子らに対して手短に説明した。


「……ありがとう、叶邑君。これだけ明確に個々のやるべきことが分かっていたら、何も迷うことは無いね」


 麗香が真摯な表情で、泰時の顔を真正面からじっと見つめてきた。

 泰時は何とも居たたまれない気分で思わず視線を逸らしてしまったが、その先には今度は瑠菜の安堵した様な笑みが待ち受けていた。


「例え負けても、わたし達に悔いは無いから……ここまで残れただけでも凄いことなんだしね」


 泰時に満足そうな視線を流してから、瑠菜は長い髪をポニーテールに結い上げ、そしてチームメート達と円陣を組んだ。

 どの顔も気合に満ちているが、それ以上に、この球技大会を本当に楽しんでいる様子が伺えた。


(……頑張ってね)


 泰時は、静かに踵を返した。もう間も無く、男子サッカーの一年生決勝が始まる。

 瑠菜や麗香達が最後の勝負に臨むその瞬間を直接目にすることが出来ないのは残念だが、彼女達ならきっと納得のゆく戦いを演じることが出来るだろう。


「叶邑! さぁ、いっちょキメてやろうぜ!」

「叶邑くーん! 頑張ってー!」


 決勝のグラウンドに足を運ぶと、チームメイトや応援の女子らが次々と声をかけてきた。

 泰時は軽く手を振る程度に応じてから、センターラインでの挨拶へと向かった。決勝の相手は一年C組――清史郎の居るクラスだ。


「叶邑君、君との勝負を心待ちにしていたよ」


 男子バスケットボールのスーパールーキーとして早くも校内に多くのファンを作りつつある清史郎だが、彼の目はただひたすら、泰時だけを見ていた。


(はは……特装戦志団と猟道衆の前哨戦ってな訳かな)


 泰時は妙な因縁を感じつつも、しかしスポーツという場で互いに切磋琢磨出来ることには、決して悪い感情は抱いていなかった。

 こんな穏やかな時間を過ごすことが出来るのも、今の内だけだろう。

 そう思うと、この貴重な時期を無為に流してしまうのは何だか勿体無い様に思えてきた。


(兎に角、今日だけは全力を尽くそう。僕に期待してくれた皆の為にも)


 自分でも、柄にも無いと思った。が、それでも構わない。

 そう思わせるだけの明るい気分が、今の泰時の中には広がっていた。


◆ ◇ ◆


 そして、この日の球技大会は全ての試合が終了し、順位が決定した。

 泰時の所属する一年A組は男子が見事に優勝を果たし、女子も2チームのうちの一方、即ち瑠菜と麗香が所属するチームが矢張り同じく優勝の栄誉を勝ち取った。

 閉会式後の教室は大いに盛り上がり、中には感激して泣き出す生徒も居た。

 やがて、誰がいい出したのかは分からないが、クラス全員で祝勝会をやろうという空気が流れ始めた。


(ちょっと前までは、あんなに緊張感が漂ってたのにな……)


 内心で苦笑を漏らしながら、泰時は帰り支度を進めていた。

 自身のハッキング技術で瑠菜を孤立から救った際、女子の間では一時期、お互いを牽制し合う張り詰めた空気が充満していた。

 そしてその緊張感が私刑ハッカーの登場で緩むと、今度は一部の男子が泰時に目を付け、瑠菜との仲を牽制する様な動きが見られた。

 しかし、今はどうだ。

 どの顔も一様に喜びの色に染まり、これまでに無い程の一体感に染まっている。


(たかだか球技大会で優勝しただけってのに……こんなに変わるもんなのかなぁ?)


 実は後で知ったことなのだが、球技大会のクラス成績は後々の内申にも大きく響くらしく、その事実を知っている生徒は本当に真面目に、そして真剣に取り組むのだという。

 それだけに、今回の優勝の立役者となった泰時に対するクラスメイトらの印象は劇的な変化を遂げたらしいのだが、泰時はそんな裏があったなどとはこの段階ではついぞ知らないままだった為、何故こんなにも自分への態度が変わったのかが結局分からず仕舞いだった。


「え……叶邑、もしかして帰る準備しちゃってる?」


 球技大会直前、泰時に、物凄く申し訳無さそうにゴールキーパー就任を申し入れてきたサッカー部のクラスメイト男子、龍川哲平(たつかわてっぺい)が心底驚いた様子で慌てて歩を寄せてきた。


「うん……そのつもり、だけど」


 哲平が何をそんなに慌てているのか全く理解出来ず、泰時は怪訝な顔で静かに頷き返した。

 すると今度は麗香がその端正な面に驚きの色を乗せて、瑠菜と一緒になって駆け寄ってきた。


「ちょちょちょ、ちょっと叶邑君! 主役抜きでの祝勝会だなんて、あり得ないっしょ!」

「そ、そうだよ叶邑くん……っていうか、もしかして今日の男女同時優勝、叶邑くんの貢献が一番大きいってこと、自覚してないの?」


 半ば呆然とした表情で問いかけてくる瑠菜に、泰時は困り顔で頭を掻いた。


「いや、僕が居ても、空気悪くしちゃうだけだし……」

「んなこという奴が居たら、俺がぶっ飛ばしてやるよ!」


 幾分興奮気味に、哲平が叫びながら教室内をぐるりと見渡した。

 多くの男子は哲平に同意する様にうんうんと頷いているが、一部の、特に瑠菜のカレシの座を狙っていた連中は引きつった表情で目を逸らせている。


(やっぱ、僕が行くのは拙いんじゃないかなぁ)


 泰時は尚も渋ったが、その左右に瑠菜と麗香がにじり寄ってきて、泰時の腕を絡め取ってしまった。


「大丈夫。叶邑君は、うちらが守るから」

「叶邑くんのことを悪くいうひとが居たら、わたしも黙ってないしね」


 そんな訳で、泰時は半ば拉致される格好で祝勝会に連れて行かれる運びとなった。


(あれ、何か既視感が……)


 そういえば、魅璃華の誕生会の帰りにも、似た様なことが無かったか。

 どうやら自分は、何かと引っ張り回される傾向にあるらしいと改めて認識せざるを得なかった。

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