9、初めての野営で世間話
旅仲間で野営する時、どんな話をするのかな?とちょっと考えてみました。
人が集まる時と場所は、情報を得る良い機会ですよね。
日が暮れはじめると、道横に馬車を止めてみんなが馬車を降り始めた。
「暗くなる前に野営の準備だ。」
サージェスさんがそう言い、自分達の荷物から棒や布を取出し始める。
俺も慌てて降りて、サージェスさんに何をすればよいか尋ねた。
「あぁ、初めての野営なのか。」
「はい、故郷から出てきたときはどうしたらいいのか分からず、適当に原っぱで寝てただけだったんで。」
「え?・・・良く無事だったな・・・。」
サーッと蒼褪めた顔でサージェスさんが呟く。
「いやぁ、運が良かったんですかね。」
適当に笑ってごまかす。
実際には一度も野営なんてしていないけど、物凄く辺鄙な超絶ド田舎から出てきたってことになっているから、野営していないわけがない・・・たぶん。
「あ、魔物除けの結界石は使っていたのか?」
「いえ、そんな物があることも知らなかったので、何もせず。」
「魔物に食って下さいって言ってるようなモノだから、二度とやるなよ?」
「え、はい。今は結界石持ってますから大丈夫です。」
真顔で心配されてしまった、嘘をついているので本当に申し訳ない。
焚火用の枯れ木の枝を集めたり、近くの川から水を汲んできたりしているうちに、いつの間にか寝床用のテントが作られていたい。
「この中で寝るんですか?」
テントの側に立っていたダナンさんに声をかけると、彼はちょっとだけキョトンとした顔をしてから、あぁ、と一言零して教えてくれた。
「初めてなんでしたね。そうです、この中で皆で雑魚寝です。テントを囲むように結界石を置いてあるので、テント内は安全ですが、焚火の場所は結界外なので夜間の見張りが必要なんです。」
「焚火を消さないために、でしたね。」
「えぇ。一度消えてしまうと、また火をおこすのが面倒なのと、火があることで魔物への牽制にもなるんです。魔物は火を嫌うものが多いので。まぁ、頭の良い魔物は逆に火があれば人間がいると知っていて、襲い掛かってくるものもおりますけどね。」
「えぇ?だ、大丈夫なんですか??」
「ペイルからカナンまでの街道で出る魔物は、みんな火が苦手だから大丈夫ですよ。」
「そうなんですね、良かった。夜の見張りは俺が担当なので、ちょっと不安になりました。」
「そうか、たしか夜遅くまで起きていらっしゃるのは平気なんでしたね。」
「えぇ。昔から夜型人間と言いますか、夜更かしの多い生活してきたので。」
「え?真っ暗な夜中になにしてたんです?」
急にダナンさんの顔色が曇り、訝しげに視線を向けてくる。
夜はゲームやってました!イベント参加とかすると数時間かかることもあって、大変なんですよね~・・・とか馬鹿正直に答えられないし・・・。
「えっと、星を眺めるのが好きで。ついつい夜ずっと起きてて星を眺め続けちゃうんです。」
どこのロマンチストだよ!!っと自分で自分にツッコミを入れたいが、この世界には電気が無い。
夜中などどこにも灯りが無く真っ暗なのが当たり前。
見れるものなど星くらいだ。
咄嗟に吐いた嘘としては、これ以上のものは無い・・・多分。
「おや、ずいぶんとロマンティックなご趣味ですね。」
ダナンさんはクスクス笑って言う。
すみません、顔に似合わない趣味で、嘘の趣味だけど。
俺は苦笑いしつつ頭を掻く。
「似合いませんよね。」
「いえいえ、素敵だと思いますよ。私なんて子供のころから夜はお化けが怖くて・・・布団に入ってすぐに寝る癖をつけたせいで、今でもまわりが暗くなってくるとすぐに眠くなっちゃうんです。だからこういう野営の時にあまり夜の見張り番とか出来なくて。」
今度はダナンさんが申し訳なさそうに頬をポリポリ掻いて言う。
「お化けとか出るんですか?」
「いや、私は一度も見たことありません。でも、アンデット系モンスターは実際にいますからね。幼いころは良く親に『早く寝ないとお化けやアンデットモンスターが襲いにくるよ』と言われていたので、その影響ですかねぇ。」
なるほど、子供を早く寝かしつけるための手段だったわけだ。
子供のダナンさんが震えながら布団を被って、必死に眠ろうとしている姿を想像すると、なんだか可愛らしくて微笑ましい。
「お~い、飯が出来たぞ。」
商隊のダナンさんの連れの人からそう声がかかり、二人で焚火がある方へと向かった。
夕飯として出されたのは、やはりあの硬い黒パンと何かを煮込んだスープだけだった。
これが肉屋のオヤジが言っていた干し肉を少しと野菜を少し入れて煮たスープだろう。
宿屋でも食べたから味の想像は付く。
パンとスープが入った器を手渡され、礼を言って受け取る。
皆、硬い黒パンをちぎって、スープに浸して食べ始めた。
あぁ、なるほど、硬いからそうやって食べるのか。
俺も皆を真似て、パンを一口大にちぎってスープに浸し、水分を含んだ黒パンを口に入れる。
笑えるくらい素材の味しかしない。
やっぱり塩は使われていなかった。
この世界の人達は、基本的に一日2食で、朝と夜しか食事をしない。
昼間は何も食べられないから、こんな味のしない食事でもありがたくて美味しく感じる。
「そういえば、ペイルの肉屋のオヤジさんが、今度カナンでお祭りがあるって言っていたんですけど、どんなお祭りがあるんですか?」
何も話題が無いのも寂しいので、俺の方から皆に話題を振ってみた。
「ん?祭り?・・・あぁ、2ヶ月くらい先にある剣術大会だな。」
それに商隊の仲間の一人がそう答えてくれた。
「剣術大会?」
「毎年恒例で、かなり大規模なお祭りだぜ。主催者はこの辺の領主であるマーチェス男爵様で、剣術大会で上位3名までに入れると、希望者は領の騎士団に入れてもらえるんだ。だから毎年結構な人数が参加するんだよ。」
「去年も結構盛り上がったよな。」
他の商隊員が話に加わる。
「お前のは賭けに盛り上がってただけだろ。」
脇腹を小突かれながらそう言われ、隊員は照れくさそうに笑い、話を聞いていた皆も笑った。
「賭けもあったりするんですか?」
俺が興味を持ってそう聞くと、それにはサージェスさんが答えてくれた。
「やめておけよタロー、賭けなんてやらないのが一番だ。」
「でも、去年は優勝者を当てたヤツが1人しかいなくて、ボロ儲けだったらしいじゃねぇか。」
また別の商隊員がそう言って話に加わってきた。
「結局あの時独り勝ちした奴、いくらもらったんだっけ?」
アイナさんも話しに乗ってきた、いい感じだ。
「確かあの時は優勝当てたヤツが800,000コール貰ったって騒いでたぜ。」
800,000コールというと800万円!!凄いな。
「凄いですね。」
俺も驚き思わず声が漏れる。
「でも、アイツたしか当たった当たったで大騒ぎし過ぎて、盗賊に狙われ金盗られたんじゃなかったか?」
ガンボさんが自分が知っている情報を出してきた。
マジか、街中にも盗賊が潜んでるってことだよな。
「いや、ギルドに殆ど預けた後で、10,000コールだけ持ってたところを襲われたらしい。盗られたのは10,000だけだったって聞いたぜ?本当はその金で嫁にデッカイ宝石がついた指輪を買ってやるつもりだったらしいが。」
「じゃあ残りの790,000コールは無事だったのか。」
「でも本人が死んじまったら、預けた金は自動的にギルドのものになっちまうからなぁ・・・。」
皆の会話を聞いてギョッとなる。
ギルドではお金を預かってくれるのはわかった、まぁアイテムBOXがある俺にとってはお金を預ける必要性ゼロだからいいんだけど。
それはそれとして、ギルドに預かってもらったお金って、本人が死んだらギルドのものになっちゃうのか?家族とかに受け取る権利はないのか??
あと、その人死んじゃったのか??
「あの・・・その方、亡くなったんですか?」
「あぁ。盗賊に襲われて死んじまったのさ。間抜けだよなぁ。まだ小さい子供がいたってのに。」
「ギルドに預けたお金って、家族が受け取ったりは・・・出来ないんですか?」
「その家族が本当に金を預けたヤツの身内かどうかなんて、証明できないだろ?だから基本的には本人が死ぬとギルドへ預けていた金はギルドのものになっちまうのさ。自分に何かあった時に家族に渡してくれって、事前にギルドに申請しておけば家族に渡してもらえることもあるらしいが、証明が難しいからその申請自体が通ることが滅多にないんだ。」
「・・・そう、なんですか。」
じゃあ、残された奥さんやお子さん・・・今どうしてるんだろう、大変だろうな。
改めて、現代社会の仕組みの凄さを感じる。
もし俺に何かあっても、俺の貯金は家族が受け取れる・・・と言ってもたいした金額ではないけど。
通帳だったり印鑑だったり、住民票とか免許証とか保健証とか、身内だと証明出来るものがあれば、必ず受け取れる。
そしてそういう証明となる物がきちんと作られ、発行されている。
でもこの世界にそんな仕組みは無いから、自分が家族だと証明することすら難しいだなんて・・・。
「第三者に家族であることを証言してもらってもダメなんですか?」
「結託して金を横取りしようとしている可能性があるからな、そういうのはなんの証明にもならないんだよ。」
アイナさんがそう言って、はぁ、とため息を吐く。
「アタイもさぁ、親父が子供のころ死んじまってるから、母一人子一人で結構苦労してきたんだ。あの時親父がギルドに預けてたお金が少しでも受け取れたなら、もう少し違っていたのかなって思っちゃうんだよね。」
そうか、やっぱりそんな風に思っている人がいるんだな。
「ギルドに預けたって、それは冒険者ギルドでも商業ギルドでも同じなんですか?」
俺が気になったことを尋ねると、今度はスーミさんが答えてくれた。
「どっちに預けていても同じよ。絶対的な身元保証がされている証拠がない限り、本人以外の人は受け取れないの。」
「お金を預かってくれるのは冒険者ギルドと商業ギルドだけなんですか?」
その問いにはサージェスさんが答えてくれた。
「あぁ、商売をしているヤツは商業ギルド、俺達みたいな冒険者は冒険者ギルドっていうのが一般的だが、王宮に努めている文官や王国騎士団員は、国が管理している王国金庫に金を預けてるんだ。そこは王国内の貴族が金を預けているところで、平民は利用できないんだ。」
「王国金庫に預けた場合は、本人が亡くなった後でも家族が受け取れるんですか?」
「あぁ。何しろ王宮に努めるってことは、それだけ優秀で身元もしっかりしているってことだし、貴族には必ず家紋があって、その家紋を刻んだ指輪がある。しかもその指輪は王国側から下賜される物で、指輪が本物かどうか王国金庫で見分ける方法があるらしい。さらに指輪だけだと本物さえ持っていけば誰でも受け取れてしまうため、金を預けている本人が自分の死後、金を渡してもいい家族や身内を3名まで選び、王国金庫にその3名を連れていき、王国金庫の役人立ち会いのもと、特別なアイテムで本人証明の証を作るそうだ。」
サージェスさんの説明を聞いて、今度はアイナさんがサージェスさんに尋ねる。
「でもさ、その本人証明の証を誰かが持ち出して、指輪と一緒に持っていったら、真っ赤な他人でも金が受け取れちゃうんじゃないのか?」
「そもそも本人証明の証が物なのか紙なのか、それすらわからないから、本人意外が持ち出すことは不可能なんだとさ。」
「誰かがうっかり喋っちゃったら?」
「それは無い。本人証明の証を作る時に、どんな物か、どんな内容か、他言しないと魔法契約させられるんだ。」
また聞き慣れない言葉に俺が聞き返す。
「魔法契約ってなんですか?」
「えっ、魔法契約を知らないのか?魔法契約ってのは、約束を違えようとすると、実行前に全ての身体機能が停止し、そのまま即死魔法が発動して確実に死んでしまうという、とても厳しく怖い魔法だよ。絶対に約束を守らなくては行けない時にだけ使われる特別な魔法さ。」
「そ、そんな恐ろしい魔法があるんですね。」
「約束を破らなければ無害な魔法だよ。」
「でも、人間誰しもうっかりってあるじゃないですか。うっかりで死にたくはないなぁ。」
自分がやらかしそうなアレコレを想像し、ちょっと身震いした。
「契約魔法を使うなんてのは、相当ヤバい内容を知った時くらいのもんだ。俺たち平民じゃ、そんなヤバい内容に関わること自体がないよ!」
サージェスさんはそう言ってハハハハハハハっと豪快に笑う。
でも俺勇者なんですよ〜、下手したら誰よりもヤバいことに関わらなくちゃいけないかもしれないんです〜・・・なんて言えないしな。
出来るだけヤバいことには首を突っ込まないようにしよう。
なんと言っても必要最低限のクエストだけクリアして、最短で大魔王討伐コースだしな!
一人ウンウンと頷きながら、今後の自分の方針を改めて確認する。
そういえば·・・・
「あの~、大魔王って、やっぱり人間を滅ぼそうとしてるんですよね?」
よく考えたら、俺大魔王の事何も知らねぇ。
「大魔王?そうだなぁ、この辺は魔王城があるデモンバルダ大陸からは遠いから余り実感は無いが、デモンバルダにある大魔帝国に隣接した国は、いつも大魔王の命を受けた魔人族が率いる、魔族や魔物の脅威に晒されてるって聞くぜ。」
商隊員の一人が、自分の聞き知った噂話を始めた。
「最近じゃ、隣国にも魔族が出没するようになって、大魔王軍と戦闘があったって話だ。」
「魔物だけでも厄介なのに、魔族が加わってるとなると、国を挙げての討伐になるよな。」
隣に座っていた別の商隊員は、自分の予測を口にする。
「まだ魔人族が出てきてないだけマシだろうけどな。」
「魔人族なんかが出てきちっまたら、Sランク超えの冒険者じゃないと太刀打ちできねーだろ。」
「いくらエリート揃いの王国騎士団でも、さすがにSランク超えの冒険者程ではないからな。」
彼らの話にまた疑問が湧いてくる。
「国の危機なのに、王国の騎士団じゃダメなんですか?」
「王国騎士団は確かに強いけど、本当に強いのはSランク以上の冒険者だ。でも、Sランクは世界で16人、SSランクは7人、SSSランクに至ってはたった3人しかいないんだ。いくら強くても、大群連れた魔人族の軍勢相手に戦うのは、ムチャってもんだぜ。」
「でもよー、5年前には世界でたった一人、EXランクの冒険者が誕生したって噂を聞いたぜ?そいつならもしかしたら戦えるんじゃねーか?」
「あー、俺もその噂聞いたことがあるな。」
そんな凄い奴がいるのか。
その冒険者、仲間になってくれないかな?
「その人はどんな人なんですか?」
興味が湧いて聞いてみる。
「全身黒ずくめの格好で、顔には黒いゴーグルと黒い大きな鋼鉄のマスクをしていて、頭から真っ黒なフード付きローブを身に纏っているから、誰もそいつの素顔どころか、肌の色も髪の色すら見たことがないらしい。髪が生えてるのかハゲてるのかさえ、知ってるやつはいないそうだ。長剣を2本携えてて、それとは別で見たこともない武器も2つ携えてるらしい。剣術も魔術も使えて、たった一人でSランク超えの天災級の魔物を討伐してくるそうだ。」
Sランクの魔物がどの程度強いのかは知らないが、彼らの話しっぷりからすると、尋常な強さではないんだろうことは予測がつく。
「名前はなんていう方なんですか?」
「冒険者ギルドに登録されてる名前はクロって名前なんだと。全身真っ黒だし、適当に偽名で登録したんだろうって言われてる。」
「そうそう、それでその冒険者クロのことを知ってる奴らからは、黒の旦那って呼ばれてるらしいぞ。行動一つ、言葉一つ、何か少しでも気に入らないことがあると、ためらいなく相手を瞬殺する冷酷無比な男らしくて、周りからは物凄く恐れられてるって話だ。」
仲間に、なってくれないかも。
というか、仲間にしたら殺されそう(涙)
「そういえば、今度のカナンの剣術大会に出場するかもって噂もあったな。」
え?カナンに来るの?ってか、カナンに居るの?
ヤダ怖い、出会いたくない。
まだ美人でエッチな遊び人のお姉さんを仲間にしてないし、胸がデカぷりOh!の女戦士と出会ってないし(アイナさんも良い線行ってるけど、もう少しボリュームがほしい)、ドジっ子な回復担当少女とも出会ってない。
ツンデレな美人魔法使いも仲間にしたいし、ボクっ娘メガネ女子も捨てがたい!
俺はいつの間にか自分が思い描く、理想の女の子だらけパーティーを想像し、鼻の下を伸ばしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
最後は妄想に走ってニヨニヨしてますが、カナンに到着したら、冒険者登録もですが、早く冒険仲間を見つけないとですよね。