2、世界と勇者をお救い下さい
今回は別の人物のお話です。
世界を救うのは勇者のはずなのに、世界と勇者を救ってくれとはこれいかに?(笑)
◇◇時は少し遡り、山田太郎が中央広場で買い物を始める5時間前、アルベルタ神界にて◇◇
これぞまさしく!というような、それはそれは誠に見事なスライディング土下座を決められ、その勢いのまま両足首をガシッと掴まれた。
相手のいきなりの行動に、驚きで固まりながらも開放を求めて声をかける。
「いきなり何をする。離せ。」
「上神様!!平に!平に伏してお願い申し奉ります!!何卒!何卒!私、いえ、この世界と勇者をお救い下さいませ!!」
「は?待て待て、一体いきなり何の話だ。」
「はっ、わ、私はこの世界を創造した低位第一階位の神、アルバと申します。ずっと順調に育成を促し見守っきておりましたが、今この世界でとても困った事態が起きてしまい、頭を抱えているのでございます!!・・・あの・・・・実は・・・」
このアルベルタという世界を創造したという男神アルバは、頭を足元に擦り付けながら、大号泣しつつ今起きている困りごとについて語り始めた。
その内容は聞けば聞く程呆れ返って、空いた口が塞がらなくなるような、しょうもない理由により、世界の理が破綻しかけているというものだった。
「まさか、まさかこのような事態が起きるなど、私自身も夢にも思っておらず、かといって創造神である私自身は、この事態に一切関与も干渉も出来ません。もう、どうしたらいいのか・・・!!」
大の大人の男の姿でオイオイと号泣しながら縋り付かれるなど、全くもって嬉しくない。
「お願いでございます!お願いでございます!どうか、どうかこの世界に、そして勇者に、あなた様の御慈悲を!!」
気持ちは分からないでもないのだが・・・。
「なんで私がそんな事をしなくてはならない?」
「創造神である私は、余程の事情や理由が無い限り、自らが創造した世界に関与や干渉することが出来ません。その点、何にも縛られず、この世界とは何の関わりもない野良神様なら、私と違って直接関与出来ることも多くございます!!そんな野良神様が、今このタイミングでこの世界を通りかかって下さったのはまさに奇跡!!!大神様達のお導きに違いありません!!!次に別の野良神様がこの世界を訪れて下さったとしても、何百億年、いや何兆年先になることか!!」
「それはまぁ、そうかもしれないけれども・・・。」
野良神、それは数多いる神々の中で僅か2%にも満たない、極々少数しかいない変わり者の神・・・と言われている。
全くもって心外だ。
殆どの神がこのアルバ神のように、自ら世界を創造し、その世界の成長を促し見守っているのだが、別にそうしなくてはいけない、という決まりがあるわけではない。
ただ、そうする神がなぜか大半だというだけだ。
私のようにあちこち自由気ままに放浪し、他の神々が創造した色々な世界を渡り歩く神が、極端に少ないというだけで。
だいたい野良神だなんて、随分失礼な呼び名だと思うのだ。
普通に渡り神でも、冒険神とかでも良いと思うのだけど。
まぁ、そんな話は置いておくとして、実際アルバ神のいうように、次にこの世界を私のような所謂野良神が通りすがるなど、下手したら何兆年どころか、何京年、何垓年先になるかもわからない。
何しろ野良神そのものが極端に少ないため、こうして困りごとが起きている今、タイミングよくこの世界を通りかかるなどほぼほぼありえない。
・・・なんて運の、というか間の悪い・・・自分の運と間の悪さを呪いたくなってきた。
おかしいな?私こう見えてもかなり幸運の数値、激高なはずなんだけど・・・。
ちょっと虚ろな目で虚空を見上げている間も、アルバは必死の形相でワーワーと泣き縋ってくる。
「お願いでございます~!!上神様~!!何卒御慈悲を~!!」
「えぇい!鬱陶しい!!離せ!!」
「お願いを聴き届けていただけるまで離しません!!お願いでございます!お願いでございます!上神様のお手を煩わせるお詫びとして、高額バイト料をお支払いします!!そして役割を果たしていただくその時まで、この世界で好きにお過ごしいただいて構いません!!世界構造や歴史が変わってしまうようなこと以外であれば、何をしていただいても構いませんので!!何卒~!!」
高額バイト料だと?
「高額とは一体いくらくらいだ?」
別にお金には全く困っていないが、楽して儲かるならそれはそれで有りだろう。
「こちらの世界の共通貨幣、金貨を1日20枚!毎日バイト料としてお支払い致します!!」
「こちらの世界でしか使えない貨幣だけもらってもなぁ・・・。」
腕を組み「ウ~ン」と考え込む。
正直、この世界の金などこの世界でしか使えないのに、沢山もらってもあまり意味は無い。
だが、わざわざくれるというのを断る理由はない。
しかし、こんなに面倒なことを引き受けるにしては、あまりにも対価が少なすぎる。
「お前が私に対して要求している内容と、対価の釣り合いが全くとれていないのだが?」
「で、では、神界通貨で5億ディル!いえ、10億ディルお支払い致します!!」
「毎日?」
「え?いや、あの、さすがにその金額を毎日は無理なので・・・今回の案件に対して一式で10億ディルということで・・・。」
「あり得ない。」
「えっ」
「お前の創ったこの世界は、その程度の価値しかないというのか?」
私が睨むように問い正すと、アルバ神はシャッと背筋を伸ばして正座し、首を左右に大きく振った。
「いいえ!いいえ!そんなことはございません!!この世界は私が初めて神と認められ、初めて創った世界にございます!大切に大切に慈しみ、見守ってきた世界でございます!!」
「だが10億ディルの価値しかないのだろう?」
何度も言うが、事実として私は金には全く困っていない。
私が彼に問うているのは、彼のこの世界を守りたい、この世界を救いたいと思う、その覚悟がいかほどのものかという事だ。
「・・・本当は、お金に換えるなどあり得ません!!何よりもどんな物よりも大切なのです!!でも、創造神である私は、余程特別な事情が無い限り、この世界に直接関与や干渉する事が出来ません・・・。ですから・・・。」
アルバ神はぐっと膝の上の手を握りしめ、バッと顔を上げて言い切った。
「私の今ある全ての財を、上神様へ捧げます!!この世界以外の全てを!!そして、私の全神力の半分を捧げます!!!」
「そうか。ならばお前の持てるもの全てと、お前の全神力の半分と引き換えに、今回に限り特別にその役割を引き受けてやろう。もちろん、先ほどお前が言った通り、それらとは別で毎日この世界の金貨20枚の支払いをすること、あと役割を果たす時が来るまでの間は、この世界で自由に好き勝手に過ごさせてもらうぞ。」
「は、はい!!!よろしくお願いします!!あぁ、これでこの世界は、勇者は救われます!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございますぅ~~!!!!」
再びアルバ神は土下座し、またしても大号泣し始める。
まぁ、自らが手掛けて初めて創造した世界の理が、物凄くしょうもない理由で破綻しかけている状況なのだから、どんな手を使ってでも何とかせねばと思うわな・・・。
「そうそう。貰い過ぎはお前の魂核に、天命に、天星にキズが付く。故に私からお前に、そしてこの世界に3つの奇跡を与えよう。」
「え?・・・」
「お前に1つ、この世界に2つ。どんな奇跡を与えるかは、全てを見極めてから私が決める。」
「あ・・・あぁ、寛大なるご恩情、誠にありがとうございます!!ありがとうございます!!」
再びアルバ神はブワァ~っと大量の涙を流しながら、土下座してくる。
いや、マジで貰いすぎは良くないんだって。
バランス取らないと、こっちにも悪影響来るからさ。
お前も神なんだからそのくらいのことは知ってるだろ~って・・・、あ~・・・こいつ比較的最近神になったばかりの新米神だったな・・・。
まぁ、比較的最近と言っても、人間達の感覚でいくと40億年くらい前のことだけど。
神に至るまでの試練や経験で、その事は学んでるはずだが、ま、今は自分の創造した世界のピンチでそこまで頭が回っていないんだろう。
「ところで、お前も神であるなら知っていると思うが、私がこの世界に干渉するためには、仮初の身体が必要だ。」
「はい!すぐに準備致します!」
「その仮初の身体は、この世界で最強の身体でなくてはならないぞ。」
「最強、あ、そうですよね!わかりました。」
目をキラキラさせながら、元気いっぱいに嬉しそうに答えるアルバ神に、私は呆れ顔をしながら問う。
「お前、絶対に意味分かってないだろう。」
「え?役割を果たすためですよね!」
ハキハキと答えてくる姿に、軽く頭が痛くなってくる。
「まぁ、それもあるが・・・そうではなく。」
「???」
キョトンとした顔で首を傾げる姿に、これは全く理解していないなと判断した。
「・・・はあ~・・・いい。私が自分で用意する。この世界の存在数値と神力数値、それと最高硬度と最高魔素の値を教えてくれ。あと遺伝子核種と細胞構成パターンも。」
「え、あの、私の方でご用意しますけれど・・・。」
「いい。自分で好きに造る。私の外見はそのままに、この世界に合わせ、この世界で可能な限り最強のボディにする。」
「あ!なるほど!確かに私の技量では、神々の中でも1・2を争うほどの美貌神と謳われる、上神様のお姿を再現は出来ませんからね~。ハハハハハハッ」
だから違う・・・そういう意味じゃない・・・。
「・・・・。いいから、早く数値を教えてくれ。」
「あ、はい!」
これはちょっと・・・アルバ神の管理・監督を行っている直属の上神様へ「もう少し細かなところまで見守り、指導をされるべきではありませんか?」と、進言しておかないとダメかもしれない。
「うん、まぁこんなモンだろう。」
出来上がった仮初の身体をチェックしながら、私はその体に自分が持っている装備の中でも、普段使いにしているものを着せていく。
ここは一番力の弱い新米の神が創った世界だ、最強のボディといっても、これが限界だろうという程度の物になった。
「う・・・・美しい・・・・」
アルバ神が両手を組み祈りを捧げるがごとく、私が作った仮初の身体の前で放心している。
「まぁ・・・美しく、見えてしまっているんだろうな・・・。」
何しろ私はCHA(魅力・カリスマ性)の値が昔から異常数値なのだ。
他の神々と比べても、あり得ないほどぶっちぎりな異常数値っぷりで、私のCHAの高数値に影響を受けることがない古くからの知り合い神や友伸、上位神様達以外は、私の姿を見た瞬間、私をなんとしてでも手に入れたくなるそうだ。
怖っ。
まぁ、そこはさすが神と言うべきか、どの神々も己の自制心でもって暴れ狂う私への欲求を抑え込み、襲ってくるようなことはまず無いのだが、それでも中には私の強烈な魅力に抗えず、早くどこかに去ってくれないかと懇願されることがある。
私自身は自分の姿を見ても「まぁそれなりにイケメンを目指して頑張って来ただけあって、結構イケてると思う。」程度なのだが。
これが人間相手だとアルバ神のように、私の姿を見た途端放心状態になったり、酷いとこうして祈りを捧げ始める。
先ほどまでは自分の世界のピンチでそれどころでは無かったが、世界と勇者が救われるとわかって安心したのだろう。
急に私の姿に魅了され始めてしまった。
「創造神アルバ、私のこの世界での仮初の身体にも名前は必要か?」
「・・・はっ!す、すみません。あまりにも神々しいお姿に見惚れ・・・・あぁ・・・神々しい・・・。」
仮初の身体から視線を外し、漸く我に返りかけて、本体とも言うべき私を再び目にし、またどこかへ意識を飛ばしてしまったアルバ神。
ペシッと頭を叩き正気を取り戻させてやる。
「コラ!私の話を聞いているのか!」
「す、すすす、すみません!!お姿を目にしてしまうと、どうしても心惹かれてしまうので、目を閉じさせていただきます!」
「あぁもう好きにしろ。で?この仮初の身体に名前は必要か?」
「あ、そうですね。上神様の御名をそのまま名乗るなど出来ませんし。」
「別に役割の名前だけで良いならそのままでいいのだが。」
「いえ!ここはいかにもそれらしい、立派なお名前を付けるべきかと!!」
「ならお前が好きに名付けろ。」
「えぇ?!よ、よろしいのですか??」
「別に構わん。ふざけた名前や、おかしな名前でなければ何でも良い。」
「わ、わかりました!!では上神様のこの美しいお姿にピッタリな名を、全力で考え付けさせていただきます!!」
いや、そこはそんな気合い入れなくていいよ・・・。
「はぁ・・・・好きにしてくれ。私はそろそろこの仮初の身体に魂の欠片を移し、下界へ降ろすぞ。名前は決まったら教えてくれ。ではな。」
私は魂のほんの一欠片を仮初の身体に移し、本体である私自身はこの世界の外へと移動した。
このまま今日は故郷へと帰ろう。
本体と仮初の身体が離れても、全く何も問題はないし。
欠片と云えど、魂に距離は意味を成さない。
一旦自宅に戻り、のんびり過ごすとするか。
なんかドっと疲れた・・・。
この時の私は「さっさと終わらせて、旅の続きをしよう」とのんきに考えていた。
この後に、とんでもなく面倒なことが待ち受けているとも知らずに・・・・。
最後までお読みいただきありがとうございます。
頑張ってコツコツ続きを書いてまいります。