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雷の覇者  作者: 悠奏多
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第6話:賭け

今回は少し短めです。

「結局負けちまったな、努?」

 

「ぐぬぅっ」

 

 模擬戦を終えて観客席へと帰ってきた努に響は声をかけた。その言葉に何も反論できない努は声を詰まらせる。

 

「「模擬戦で俺の実力を見せたるぜ」とか言ってなかったっけ?」

 

 ニヤニヤしながら努のものまねをする響。

 

「兄さん、もうその辺にして・・・ってああ! 努先輩!?」

 

 注意しようとした心はしかし、途中で黒いオーラを纏って隅に行き、のの字を書く努を見て中断する。気のせいか、そこだけ空気が黒く歪んで見える。どうやら響の言葉が努の心を抉ったらしい。

 

「いいんだ、いいんだ。俺はどうせ体力しか取り柄がない馬鹿だから……」

「そんなことないですよ、努先輩! 努先輩だって……」

 

 

「さてと、次は俺らの番だぜ、理沙!」

 

 落ち込む努とそれを必至に励ます心を見て満足したのか、響はその場を放置して理沙へと話しかける。隅の方では尚も落ち込む努を心が励ましている。勝者に励まされる敗者。心は自分が励ますことが逆に努を落ち込ませていることに気づいてはいない。

 

「あんた、ほんとにいい性格してるわね?」

 

 そこまで分かっていながら放置し話を進める響に対し、頬を引きつりながら声をかける。まだ付き合いは短いものの、理沙は響がどのような人間かを悟り始めていた。

 

「だろ? よく言われるぜ! 人生楽しむのが一番」

 

 ビシッっと親指を立てながら満面の笑顔を浮かべる響。棗は苦笑するしかできない。

 

 理沙は「だめだこりゃ……」と頭を抱えている。まともな人が来たと思ったら問題児なのである。理沙にとっては、これから自分に掛かる負担を思い浮かべると憂鬱になる。いっそ自分も放置しようか、そんな考えが浮かぶが、理沙はなんだかんだ言いながら世話を焼くのである。彼女がこの班一の苦労人かもしれない。

 

「そんじゃ、いっちょ行くか!!」

 

「頑張ってくださいね。響先輩」

 

 と声をかける棗に対し、「おうっ!」と言いながら右手をあげて観客席を出ていく響。その後を若干疲れた顔の理沙が付いて行った。

 

 

 

 

「棗ちゃん? どうだった? 私の試合。」

 

 一通り努の説得を終えた心が棗に声をかけたのは2人が出て行ってすぐのことだった。心の後方には、まだ顔色が悪いもののなんとか気力を取り戻した努がいる。

 

「お疲れ様、心ちゃん。試合すごかったよ。心ちゃんって強いんだね」

 

 正直な感想を述べる。努はこれでもかなりの高ランクであり、学園中でもトップレベルの実力者である。魔導士全体で見ても高ランクであろう。その努に勝ったのだから心も実力者である。

 

「いや~、それほどでも」

 

 照れながら率直な感想を言った棗に返す。あまり普段こう言った素直な感情に触れる機会がなかった心は、どういった返事をすればいいのか迷った。小さいころから大人の世界に身を置いてきたのだ。同年代がいなかったわけではないが、そこまで仲がよかったわけではない。

 

「謙遜するこたねぇぜ、心ちゃん。何といっても俺に勝ったんだからな!!」

 

 その心の返事を謙遜ととった努が声をかける。

 

「努さんもお疲れ様です。ケガしてませんか?」

 

「大丈夫だ。精神はズタボロだが、体は無傷だ」

 

 ケガの有無を尋ねた棗に、そう言って返す努。その言葉に心と棗は顔を見合わせ苦笑する。先ほどまでの状態を思い出したのであろう。

 

「そ、そうですか。ケガがなくてよかったです」

 

 苦笑交じりで答えた。

 

「あ! 兄さんたちが出てきたよ」

 

 心は言いながら観客席の前列まで移動する。努は「どれどれ」と体を前に出して見た。ちょうど心の後ろから背の高い努が覗きこむ形になる。棗は心の隣に駆け寄り、模擬戦が見える位置に移動した。

 

「心ちゃん。やっぱり響先輩も強いんですか?」

 

 棗は心に聞いた。その瞳には興味の色が見て取れる。棗の疑問の答えが気になるのか、努も心の方を向きなおし耳を傾ける。

 

「そりゃ強いよ! 私は何回やっても勝てる気がしないかな」

 

 棗の言葉に当り前のように即答する。過去に行った模擬戦の様子を思い出し、事実を述べる心。

 

「でもよ、魔導士ランクは同じなんだろ?」

 

 棗の質問に答えた心に努が聞く。心も響も魔導士ランクはA。学園長の言葉を思い出した棗も頷く。

 

「たいていは、魔導士ランクが同じならそんなに勝率に差は出てこないと思うんだが。相性の問題か?」

 

 通常、魔導士のランクは個人の強さだけを示すのではなく、魔法の発動速度、規模、魔力量など様々な能力を総合してランクにしている。上位のランクになると指揮能力といったものも加わってくる。

 そのため、戦闘になると魔法の連携や相性によって低ランクの魔導士が高ランクの魔導士を倒すというのは結構有り得ることである。

 その点で、努の疑問は響の正体を知らない者にとって当然の疑問であり、棗も同じことを思っていた。

 

 それに対して心の返答は、努や棗の予想していた答えとは違っていた。

 

「いいえ、兄さんと私とでは「経験」がまるっきし違います。私がどんな手を使ったとしても兄さんはそれに即座に対応して打開してしまいますから」

 

(????)

 

 当然、努と棗の頭の中は混乱している。まるで長年闘っていたかのような言葉。この時、棗と努は心の言葉の意味を理解することはできないだろう。「経験」がいかに重要か、強力な武器になるか、それは達人の領域。理沙を含めた3人がそのことを理解するには、もう少し時間が必要だった。

 

「心ちゃん、それってどういう「あ!始まるみたいだよ」……」

 

 棗がそのことを聞こうと思ったとき、心の言葉に遮られタイミングを失った。納得していない2人はしょうがなく視線をリングに向けるのであった。

 

 

 

 リングにはそんなやり取りとは関係なしに、2人が立っている。様子から、響はそんなことないが、理沙はやる気十分のようだ。どうやら先程の挑発が効いているようである。

 

「さて理沙。お前の実力を見せてもらおうか?」

 

 尚も響は偉そうに言う。完全に上の立場からの言葉。自分は負けない、自身で溢れ返ったような言葉を理沙に向ける。

 

「それはこっちのセリフよ、響!そんなに偉そうにしてて負けたら恥ずかしいわよ?」

 

 挑発には乗らない理沙。理沙とて戦闘前に自分の感情のコントロールの大切さは分かっている。これ以上余分な感情はいらない。

 

「安心しろ理沙、俺は負けないからそれだけは有り得ない」

 

 しかし即答する響を見て、あえなく失敗する。

 

「ムカァ。そんなに自身があるなら響、賭けをしましょうか?」

 

 自信満々な響を見て提案した。それだけ自信があるのなら絶対に断れないはず。そんな確信が理沙にはあった。

 

「ああ、かまわんよ。それじゃ勝った方が負けた方に1つ命令できるっていうのはどうだ?」

 

 これまた即答で返す響。

 

「いいわよ、乗った。拒否権はなしね。絶対あんたに吠え面かかしてやるんだから」

 

 賭けの内容を少し考え、問題ないと判断、賭けに乗ることにする理沙。その自信ごと徹底的に叩き潰す。それ以外考えていなかった。

 

「あえて言おう、『それは不可能である』と」

 

 火に油、いや爆薬を放り込むように挑発する。ブチィっと何かが切れる音がしたような気がする。理沙の周囲の空間が、何故か歪んでいるような気がする。この後、しばらく無言の睨み合いが続いた。


次回、響VS理沙になります。お楽しみに……

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