第5話:心VS努
予想よりちょっと遅くなったけど更新。
プロローグも少し追加しましたので確認してみてください。
今回はバトルが入っています。表現などおかしくないか心配です。
その後。
訓練場の中の少し高くなっているリングの上には心と努が2人で立っていた。
この訓練場は周りが観客席のようになっており、自動で観客席と訓練場の間をシールドで覆っているのだ。このシールドはかなりの強度で、学生レベルではとても壊せる代物ではない。藤歌学園にはこういった訓練場がいくつも設置されている。流石は日本最大の魔導士育成機関だ。授業などで使うこともあるらしい。
「模擬戦のルールは、どちらかが敗北を認めるか場外に出た時点とする。もちろん武器は非殺傷での」
魔導媒体は殺傷、非殺傷の2つの設定から選ぶことができる。普通訓練や犯罪者の逮捕などは非殺傷で行われる。これは魔力によるダメージで気絶させるものである。殺傷設定は言葉の通り、肉体的に相手を傷つける設定である。よほど緊急の場合でしか使うことができないし、許されない。
一心の説明に返事をした二人はお互いに戦闘態勢をとる。心を見据え腰を落とし、いつでも動ける体制の努に対し、心は自然体。若干右足を前に出し半身になった状態である。
「行くぞ!「ガリウス」!」
努が右耳のピアスに手をかざしながら言うと、一瞬ピアスが輝き、その手には銃身が30センチ程になるリボルバー式の銃が握られていた。通常のハンドガンよりもかなり大型の銃である。
「銃型の魔導媒体ですか。珍しいですね。吹き荒れろ「仙奈」」
心がポケットから出した扇を開きながら言うと、その扇が輝き、心の体を隠すようにその大きさを増した。扇に描かれた桜の模様が特徴である。
「でかい扇だな、心ちゃん。手加減はしないけど、いいよな?」
「望むところです」
努の問いかけに返事を返した心。心の顔にも努と同種の笑顔が浮かぶ。
「準備はいいかの?それでは・・・開始!!」
2人の様子を確認した一心の声が訓練場に響いた。
開始の合図と共にまず動いたのは努である。
努は右手に持ったガリオスを心に向け、トリガーを2回引く。それと同時に自らは距離を取るように後ろへと跳躍する。一瞬で展開された魔力弾が心に向かっていく。
一方心は努のその行動を見て瞬時に開いていた仙奈を折りたたみ、身体強化の術式を展開、魔力弾を回避する。
「っ!」
それと同時に前方で展開される大きな魔力反応に気付いて目を向ける。そこには距離をとった努がガリオスに魔力を溜め、トリガーを引こうとしていた。
それを確認した心は仙奈を開き自分の体の前に展開させ防御の術式を展開する。扇の前に大きな魔法陣が出現、それが盾のように射線上に展開された。
「くらえっ」
その言葉と同時にトリガーを引き、ガリオスの銃口から砲撃魔法が展開された。その砲撃、緑色の魔力の塊は一直線に心に向かっていき、着弾と同時に大きく爆煙を発ててその姿を飲み込んだ。
「努も意外とやるな。きちんと銃型魔導媒体の特性を活かして戦術を立ててるみたいだな。」
観客席で見学していた響は率直に感想を漏らした。
銃型魔導媒体は特徴として魔力を媒体に集めるだけで自動で射撃魔法へと変換し、トリガーを引けば射出してくれることだ。
そのため術者は身体強化や防御といった他の術式に集中できる。さらに連射もできるので、手数を多くできるし、流す魔力量によって先ほどのように砲撃もできる。
その代わり、流された魔力を勝手に射撃魔法へと変換するため応用がきかないといった欠点がある。
「ただ単にあいつが馬鹿なだけよ。魔力はあるのに術式を組み上げるのが苦手で、だから楽のできる銃型を選んだの。」
その説明にまたも「なるほど」っと納得する響。やはり彼が馬鹿であることは最早否定できないらしい。
「心ちゃん大丈夫でしょうか?」
煙で姿の見えなくなった心を心配するように、響に声をかける棗。
「大丈夫だよ、棗ちゃん。心はあのくらいじゃやられない」
兄である響は異常なくらい落ち着いていた。なぜこんなにも落ち着いているのか。理沙や棗は疑問に思ったが口には出さない。その落ち着きは、響自身の経験や今の戦闘を客観的に分析したものだと言えるかもしれない。しかしそれ以上に、響の眼からは心に対する信頼が読み取れた。
そんな響の様子に口を出せない2人は訓練場に視線を戻した。ちょうどその時、訓練場内でも変化が起こり始めていた。
努は煙の巻き起こる着弾地点を警戒しながら見ていた。普段の努であれば、勝ったと思い油断していたかもしれない。しかし今日は違った。確かに自分の魔法は命中した。だが、あれで倒せるとは思わない。そんな予感のようなものがあったのだ。
ゴウッ
突如その中央の煙が音を立てて周囲に霧散した。
そこには体に風を纏った心が無傷で姿を現した。
「マジかよ!?」
努が声をあげる。純粋な驚愕。確かに倒せるとは思っていなかったが、ダメージは与えられると思っていた。しかし、結果は無傷。そこに努は驚いたのだ。
「今度はこちらから行きますよ、努先輩」
微笑みながら声をかける心。
「……やっぱ、そうこなくっちゃな」
驚愕から立ち直った努は嬉しそうに顔を輝かせる。
「行きます」
そう言いながら開いていた扇をそのまま自分の右側へと振りかぶり、左へと振りぬく。それと同時に扇の先端に10個の魔法陣が浮かび上がり術式を展開する。
「エアスラッシュ!」
展開された魔法陣から放たれた10の刃は様々な軌道をたどって努に向かっていく。一見無秩序に見える刃の軌道は心によって制御されているものだ。逃げ道をふさぐように迂回しながら努に迫る。
「ふっ」
それを努はさっきとは逆に前へと出る。後ろへ下がればまた刃が迫ってくる。なら突破するのは前方。自分に命中する風の刃を的確にガリオスの魔力弾で相殺しながら距離を詰める。
「流石ですね。なら、これならどうですか?」
瞬時に判断した努の判断能力を褒めつつ、それを見た心は開いたままの扇を頭上へと持ち上げそれを地面に向かって扇ぐ。
地面に一瞬魔法陣が浮かび、その先の地面の砂が巻き上がり風と共に努へと襲いかかる。
前方広範囲への風と砂の魔法、「サンドウイング」である。
「ちぃっ」
それを見た努は跳躍。その直後砂と風の波が努のいた場所を吹き飛ばして行った。その威力は想像以上。しかし、今それを気にする余裕はない。着地後そのままの勢いで心に向かっていく。
そしてガリオスとは逆の、左耳のピアスに手をかざしながら叫ぶ。
「来い!カリム!」
その瞬間彼の左手には逆手持ちに短剣が握られていた。シンプルな見た目に、金の装飾が良く栄える。努の2つ目の魔導媒体「カリム」である。
努はそのまま勢いで心へと切りかかろうとして
「なにっ」
突然努の足もとに魔法陣が現れ、そこから伸びたロープのようなもので縛られていく。振りほどこうともがくが、一向にほどける気がしない。
「設置トラップ型の拘束魔法「トラップバインド」です。煙の中にいる時に周辺に仕掛けさせてもらいました」
手に持った仙奈を折りたたみその周りを薄い風の刃で覆い努の首に突き付ける。
「私の勝ちですね♪努先輩」
満面の笑顔で言う心。その笑顔を見ながら敗北を確信する努。
「そこまでじゃ!!勝者、心!」
一心が試合の決着を告げる声で模擬戦が終了した。
試合後、拘束魔法を解除してもらった努は
「俺が格闘戦に来ることを読んでたのか? それにいつバインドを設置したんだ?」
疑問を口にした。設置トラップ型の拘束魔法、心はそう言ったが、トラップ型の拘束魔法は対象が範囲に入らないと発動しない。その分拘束力は強く、一度捕まったら簡単には抜け出せないのが特徴だ。
「はい。銃型の魔導媒体は応用が利きませんから。もう一つ魔導媒体を持っている可能性を考えました。そして持つのなら、銃の弱点を補うために近距離戦闘用の魔導媒体かと思いまして、エアスラッシュを前方に回避させるように放って格闘戦を誘ったんです。バインドは先輩の魔法で煙に紛れている時に、周りに設置させてもらいました」
心がスラスラ説明する。そんな心の様子に、呆気にとられたような表情をする努。努からすれば、そこまで考えながら戦闘を行っていた心が信じられないといったところであろう。
「なるほど、まんまとはめられたわけだ。やれやれ、俺の完敗だな。強いな、心ちゃんは」
「いえいえ、努先輩も強かったですよ。またお相手お願いします」
笑顔で答える。その笑顔を見た努は「お、おう!」とどこか照れながら答える。それを期に努と心は訓練場を降りて行った。
模擬戦第一試合、心VS努
結果・・・心の勝利
初バトルの回でした。どうだったでしょうか?
感想やアドバイスお待ちしております。