第4話:班員集合
最後の班員登場。ぜひご覧あれ
「来たようじゃの」
そう言って訓練場に入った響たちを出迎えたのは学園長である一心である。その傍らには心と心より少し小柄の女の子が立っていた。おそらく彼女が響の班の最後の一人だろう。青がかったショートカットの髪、それでいて同じショートカットの薫とは正反対に穏やかな印象を抱かせる。スカートの前で組まれた手や姿勢からも窺える。
「兄さん」
「待たせたな、心」
響は自分のことを呼びながらこちらに駆け寄ってくる心を出迎えてやる。心の機嫌が良いことから、クラスや友達にも馴染むことができたようである。内心では心配していた響も、妹の表情を見て密かに安堵していた。
「いえ、それより兄さん。そちらのお二人が?」
「ああ、同じ班を組むことになる、真田 理沙と黒沢 努だ。理沙、努こいつが俺の妹で心だ。よろしくしてやってくれ」
「神楽坂 心です。兄がお世話になってます。これからよろしくお願いします。真田先輩、黒沢先輩」
心が礼儀正しくお辞儀しながら自己紹介をする。そんな心の様子を見て、先程まで抱いていた妄想の心と現実とのギャップに目を見開いて驚いた二人は、挨拶を返すのに間ができてしまった。
その不自然な間に疑問に思った心が首を傾げて考える。そんな表情を見て我に返った2人は咄嗟に挨拶を返す。
「あ、あなたが心ちゃん?聞いてた話のイメージとは大分違うのだけど。私は真田 理沙よ。理沙でいいわ」
「だよなぁ。まさかこんなに可愛い子だなんて……俺は黒沢 努だ。努でいいよ、心ちゃん」
理沙の返答に頷きながら努も自己紹介をした。2人の挨拶を聞いて、また兄が余計なことを言ったのかと心は当たりを付ける。
「わかりました、理沙先輩、努先輩。兄さんが私のことを何て言っていたのか気になりますけど」
挨拶を返す心だが、目線は兄響のことを射抜いていた。兄が自分を弄るのはいつものことだが、初めての学校、初めての先輩にいきなり悪いイメージを持たれるのは心外だ。
「事実しか言ってないぜ? それより心、あっちの子を紹介してくれないか?」
そんの心の視線を慣れたもので、完全にスルーしながら話題を変える。目線で一心の隣にいる子を指す。
「あ! そうでした。棗ちゃ~ん、こっちこっち。この子が姫咲 棗ちゃん。私達と同じ班になる子だよ」
急に自分の名前を呼ばれて慌てて駆け寄って来る棗。そんな棗に抱きつきながら、心は紹介した。抱きつかれた棗は困惑しながらも振り解いたりしない。心もそれが分かっているから抱きついているのだろう。
「えっと、えっと。姫咲 棗です。響先輩のお話は心ちゃんから聞いてます。これからよろしくお願いします」
礼儀正しくお辞儀をしながら自己紹介した。見た目だけでなく内面も穏やかな子らしい。
「うん、こちらこそよろしく。棗ちゃん……でいいかな? これからも妹と仲良くしてね」
「あ、はい。もちろん……」
下げていた顔を勢いよく上げ、返事を返す。その時、響の顔を見て突然言葉を止める棗。途端に何かを思い出すように人差し指をおでこに当て考え出す。
「どうしたの棗ちゃん?」
そんな棗の様子が気になり、響が問いかける。するとそれまでの考える仕草をやめ、視線を響に戻しながら、おずおずと口を開く。
「あ、えっと、失礼ですけど先輩? 今まで何処かでお会いしましたか?」
「? いや、たぶん初対面だと思うけど?」
棗の疑問に響は答える。響の様子は本当に覚えがないといった表情である。
「そう……ですよね、すみませんでした。昔お世話になった人にちょっと雰囲気が似てる気がしたもので……」
そう言って頭を下げる棗。響はその棗の様子に慌てて、言葉を返す。
「いいって、いいって。気にすんな」
と言う響だが、尚も棗は頭を下げる。どうやら初対面の人を他人と勘違いしたのを、相当失礼だと思っているらしい。
「棗、あんた相変わらず堅苦しいわね。」
「でも理沙ちゃん。失礼なこと聞いたのは私だし……」
理沙は昔から変わらない棗に呆れたように声をかける。理沙に声をかけらた当の本人は俯いてしまう。
「2人は結構仲が良いんだな? それと棗ちゃん。俺は全然気にしてないし、言葉使いとかもあまり気にしないからいいよ?」
「ええ、私たちは家が近所っていうこともあって幼馴染なのよ。響もこう言ってるし、もうちょっと肩の力抜きなさい」
理沙は響の疑問に答えながらに言う。2人に諭されて、流石に態度を改めないとと思ったのか、それまで下げていた頭を上げ、恥ずかしさからか顔を赤らめる。
「うう、わかりました」
了解の返事をしながらも結局敬語の棗。「そういうところが……」などと響の隣でぶつぶつと理沙が言っていた。
「どれ、一通り自己紹介も済んだようじゃの。そろそろ本題に入るぞ?」
自己紹介のタイミングを見計らって声をかけてきた学園長に従い、響たち5人は整列する。左から順に、響、理沙、努、心、棗の順である。5人の前に出てきた一心が言葉を発する。
ちなみに響達と学園長が義理とはいえ親子の関係であることは秘密になっている。
「今日この訓練場に集まってもらったのには訳があっての。今日から班を組むお前らはまだ互いの実力を知らんからの。その確認を含めて模擬戦を行おうと思う」
「よっしゃ~。久々にバトルができるぜ~。燃えてきた~」
学園長の言葉に努のテンションが上がっていく。指の骨をポキポキを鳴らしながら、いかにもヤル気十分です、と言わんばかりである。
「うむ。資料によると、響が魔導士ランクAで近距離戦が得意。心も魔導士ランクはAで中遠距離戦が得意。真田が魔導士ランクAで近距離戦が得意。黒沢が魔導士ランクAAで中遠距離戦が得意。姫咲が魔導士ランクAで遠距離・広域殲滅・サポートが得意。違いはないかの?」
その確認に5人は「はい」っと返事を返す。一心が述べたのは前回のランク試験までの結果である。まぁ、響と心はリミッターがかけられているため、本来の実力とは程遠いのだが、それでも一般の学生に比べればかなり高ランクに相当する。
「お前、魔導士ランクAAもあるんだな」
響が努に対し疑問投げかける。その言葉には純粋に驚きが込められていた。学生の身でAAランクを取るのはほんの一握りである。
「へっヘーン、どうだ?少しは見直したか?響」
努は自慢げに胸を張る。
「こいつはただの体力馬鹿なだけよ、響」
そんな努の態度が気にくわなかったのか理沙が横から口出しする。その言葉に「なるほど」っと納得する響。3人のやり取りを聞いている心と棗は苦笑している。
「なんだと!? なら模擬戦で俺の実力を見せたるぜ」
気合を入れる努。自分の頬をパンッっと良い音を鳴らして叩く。
ちなみに魔導協会で活動している魔導士の平均ランクはB~Aであり、高校生でAやらAAランクの理沙や努、棗は魔導士全体の中でもかなり優秀な部類に入る。まぁ、響や心は別格だが……
「模擬戦の相手じゃが、まずは心と黒沢。次に響と真田という順で行う。流石に姫咲に1対1で模擬戦は無理じゃろ。姫咲は模擬戦後の治癒などで力を見せなさい。それでは15分後に始めるぞ」
その言葉に返事をし、一同は模擬戦の準備に取り掛かった。
「なぁなぁ、心ちゃんはどんな魔導媒体を使うんだ?」
準備体操をしながら努が響に声をかける。
「心は扇型の魔導媒体だな。得意な属性は風だ。風を起こして攻撃したり、扇に風を纏って近距離戦闘もこなすぞ」
響はサラッと答える。模擬戦とは言え、これから対戦する相手の情報を洩らすのだ。ましてや相手は自分の妹。流石に教えてはもらえないと思っていたのか、努ですら呆然としている。
「に、兄さん!? 何で対戦相手にそんな情報を与えるんですか! 努先輩! 先輩のも教えてくださいよ!」
普段の響の行いを諦めていたとは言え、流石に今回ばかりは響の答えにツッコム。
「どうせすぐに分かることだろ、心?」
「そうだぜ心ちゃん」
響と努は結託して心をからかう。こんなときだ力が合わさるのだから不思議である。その最中で響は心にしか気づかれないようにウインクする。
(まさか、このくらいのハンデで負けたりしないよな?)
響の言いたいことは心には正確に届いていた。響はこんな時でも修行のため、あえて情報を漏らしたのである。それが分かったら心としても、これ以上何も言えない。本来の実力は心が上とは言え、現在はリミッター付き、しかも相手は自分より高ランクである。はっきり言えば、心にそんな余裕はない。だからと言って負ければ、兄にどれだけ弄られるか分かったものではない。
「む~~~、そうですか、いいですよ~だ」
しょうがなく頬を膨らませながら拗ねる心。その姿を見た努が(う、可愛い)などと思ったのは別の話である。
「ちなみに俺は刀を使う。得意属性は雷だな」
響は突然自分の情報までも暴露する。心は、やはりっとため息をついた。兄が妹だけに試練を課すわけがない。当然自分の情報もばらすに決まっている。心の考えは見事的中していた。
「「え!?」」
なんな響の言葉に反応する声が2つあった。理沙と棗である。しかし2人が驚いた理由は、それぞれ別のものからきたものだった。
「あら、響? そんなこと私の前で言っちゃっていいのかしら?」
冷静さを取り戻した理沙が聞き返す。
「ああ、ちょうどいいハンデになるんじゃないか?」
そんな理沙に対し、ニヤニヤした響が返す。その言葉を聞いた理沙は「なぁぁ!?」っと顔を赤くして眼を見開いた。ここまであからさまな挑発を受けたのは初めてなのである。当然怒りもそれに比例し大きくなる。
「いい度胸してんじゃなぁい、響? 教えたことを後から後悔しても遅いわよ?」
こめかみをピクピクさせながら理沙が言う。
「できるものならやってみろよ」
その言葉に火が点いたのか、理沙は「フンッ」っとそっぽを向き入念にストレッチをしだした。
それらの騒動を聞きながら棗は響のさっきの言葉を思い返していた。
『ちなみに俺は刀を使う。得意属性は雷だな』
棗は考える。5年前、妖魔に襲われていた自分と理沙を助けた七聖「獄炎」と一緒にいた男の子を。確かあの男の子は自分のことを「雷牙」と呼んでいた。当時魔導協会のデータベースで調べたところ、確かに「雷牙」と言う名持ちは存在した。しかしそれだけだ。それ以上のことは調べることができなかった。
(確かあの子も刀を使って、雷を放っていたよね?)
同じ条件に当てはまる人が世界に何人いるのか、そんなこと棗には分からないが、それでも考えずにはいられなかった。
(今日初めて会った時も、なんか初対面って感じがしなかったし・・・)
そんなことを考えてた棗を後ろから突然の衝撃が襲った。
「キャ!」
「棗ちゃん? どうしたの?」
心が後ろから棗に抱きついてきたのである。黙っていた棗を心配して声をかけてくれたらしい。
「心ちゃん!? どうしたの?」
「もうすぐ始めるってさ、行こ? 棗ちゃん」
そう言いながら棗は心に引っ張られ、思考を停止した。
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次回は模擬戦が始まります、心VS努
今日の午後には更新できると思います。