第3話:友との出会い
ようやく3話。
まだしばらくは更新スピードは早いです。
2-A教室
私の名前は真田 理沙今日は学園長から聞いていた転校生が来る日。はたしてどんな奴が来るのやら。まともな奴であって欲しいと願っている。
そこに
「理沙っち、理沙っち! 今日ね、今日ね、このクラスに転校生が来るんだってさ~! ねぇねぇ聞いてるぅ~?」
彼女の名前は橋本 薫。噂とかニュースが大好きな女の子である。ボーイッシュなショートカットの髪型がよく似合う活発な子である。入学当時からの付き合いで、まだ1年ちょっとしか一緒にいないが、それでも親友と呼べる仲である。
「はい、はい聞いてるから! 少しは落ち着きなさい、薫。転校生のことは学園長から聞いてるわよ。なんでも風紀委員に入って私と同じ班になるみたいね」
と、腰まで届くかという長さの自慢の赤い髪をいじりながら椅子に座って私は言った。この髪は私の自慢の一つで、私の憧れの人に似せて伸ばしたのである。
「え?理沙っちと同じ班ってことは、努っちと棗っちとも同じ班ってこと? これで4人になったね。あれ? 風紀委員って5人で1班じゃなかったっけ?」
「妹も一緒に転校してきて、風紀委員に入るみたいよ。だからこれで5人」
「なるほど~。これで理沙っちの班も本格始動ってわけだ」
「そうね。先月から私たちだけ3人で組まされてたのは転校生のためだったみたいね」
「でも、理沙っちたちは優秀だから3人でも十分だったんじゃない?」
「そんなことないわよ。約1名体力バカがいるせいで、私たち2人が迷惑してるんだから」
私は同じ班の一人を思い浮かべながらため息を吐く。ホントにあいつの相手は疲れるのだ。
「アハハ、大変だね。そういえば、その努っちは今日はどうしたの?」
「あいつのことだからどうせ「はい、みんな席に着いてね~」って先生来たみたいよ」
「そうだね。じゃあまた後で」
そう言って薫は駆け足で席に戻って行った。教壇には担任の教師が出席簿を持って立っている。転校生が一緒じゃないところを見ると、廊下で待たされているのだろう。
せめてまともな思考の持ち主であってほしい。私はこの時そんなことを考えていた。
「はい、じゃあホームルームを始める前に、今日は転校生を紹介をしたいと思います。じゃあ、神楽坂君入ってきて~」
先生の言葉に耳を傾けつつ、転校生のことを考えていた私は、思考を中断して前の教卓の方へと意識を向けた。
2-A前廊下
「今のところ特に怪しい気配はないか……しかし、流石は日本最大の魔導士育成機関だな。なかなか大きな魔力をもった人が多いな。リミッターをかけているとはいえ、今の俺達と同じ位か」
先生に「呼ばれたら入って来てね」っと言われ廊下に一人待たされていた響は、魔力探査の術式を誰にも気づかせずに展開し周囲を調べていた。この手の探査魔法は勘のいい人なら気付かれるのだが、誰にも気づかせない辺り響の実力と経験が窺える。
そして、年齢の割には大きな魔力反応に一人で関心の声を洩らす。よほど才能のある学生を集めたらしい。将来はこの中から七聖クラスの魔導士が出てもおかしくはない。
「こういう探査系の魔導は心の方が得意なんだけどな……」
そんなことを考えていたその時、「・・・思います。じゃあ、神楽坂君入ってきて~」っという声がきこえた。
「よっしゃ、それじゃ行きますか」
一人で気合を入れ直し、教室のドアを開けて中へと足を進めた。
2-A教室
黒板の前まで進んだ響は教室を見まわして、改めて自分が学校に来たことを実感していた。生徒の視線が自分一人に集まる。今までも経験してきたが、その経験のどれにもあてはまらなかった。
「じゃあ神楽坂君、自己紹介をお願いします」
とある程度響の簡単な紹介を終えた先生が笑顔で言ってきた。響は「はい」っと返事をして一歩前へ出る。
そして
「ただいま紹介されましたが、俺の名前は「バコンッ」……」
突然の物音に自己紹介が中断される。静かだった教室の一番後ろのドアが思いきり開かれたのだ。
そこには「ふぅ、ぎりぎりセーフ」などと言って、額の汗を拭いているツンツンヘアーの男が立っていた。制服の上着を手に持ち鞄は投げ捨てられ、膝に手をつきながら荒い息を整えている。今まできっと走っていたのであろう。
「なーにが『ぎりぎりセーフ』なのかな? 黒沢 努君」
とびきりの笑顔をしている先生。先ほど響に向けた笑顔とは全く違う笑顔。はっきり言って怖い。この先生は怒らせないようにしよう。響が心の中でそう決意したのもしょうがないことであろう。
「あっ、え~と・・」
その教師の笑顔を見て、怯える努。続く言葉が出てこないのか、返答を詰まらせている。今度は冷や汗をぬぐっくているようだ。
「今ちょうど転校生の紹介をしてたところなんだけど?」
「あっ、そうッス。転校生、転校生! 俺達と同じ班を組むって聞いてた転校生の紹介に間に合ったって意味ッスよ」
いかにもとってつけたかの様な理由である。クラス中の白い視線が努に突き刺さっているような気がする。クラスの反応を見るに、これがいつものことのようだ。
「ふ~ん。じゃあ、黒沢君は遅刻っと。あとで職員室に来るようにね! わかったら席に着きなさい」
「あ~い、とほほ」
クラス中から苦笑が漏れているなか、響は(あいつと一緒の班になるのか? 大丈夫か?)などと考えていた。
さらにその中に頭を抱えてうつむいている赤い髪の少女がいたことはご愛敬である。
その後無事に自己紹介・ホームルームも終了し、響は今クラスメートに囲まれていた。転校生恒例の質問タイムである。次々と質問されているが、流石の響きでも聖徳太子ではないため質問内容が把握できないでいた。そこに
「はいはい、そんないっぺんに質問しても響っちが答えられないよ。ここはクラスを代表して、私こと橋本 薫が質問しちゃうよ」
薫が名乗り出て、なんとかその場を収める。彼らも響が困っているのに気づいたのか、一歩引いて薫に質問を任せるようだ。響にとっても願ったり叶ったりで止めるようなことはしない。
「では、第一問。響っちはどこの学校から転校したきたの?」
「いや、訳あって学校には通っていなかったんだ。だから、転校というよりは編入だな。ちなみに訳は話せないぞ」
訳は機密事項なので話せない。もし話したりしたら響たちの素性が割れてしまう可能性もある。まぁ、今更魔導士学校に通う必要がないのも理由の一つだが。
「わかりましたですよ。続いて第2問、響っちには妹がいると聞いたのですがホントですか?」
「ああ、本当だ。1-Aに今日編入している。名前は心だ。この教室にも顔を出すと思うが、仲良くしてやってくれ」
「心っちですか~。わかりました。続いて第「ちょっと待った!」はい?」
「その響っちとか心っちっていうのは何だ?」
先ほどからの薫の言葉づかいに疑問を覚えていた響は思い切って質問し返すことにした。今まで自分をそんの風に呼ぶ人間がいなかったので戸惑っていたらしい。
「なにって、愛情表現ですよ。私は友達には皆に「っち」をつけてるのですよ」
薫は当たり前のことのように返答する。その返答に響は周囲を見た。クラスメート「諦めろ! それだけは直らん」っという表情を一瞬で読み取った響は「……そっか、好きに呼んでくれ」と潔く諦めた。響は無駄なことはしない主義である。
「じゃあ、ラスト。響っちって室内なのに左手だけ手袋してるよね?どうして?」
その質問はクラスメートのほとんどが気になっていたのか、皆しきりに頷いている。響にとってはあまり触れてほしくない話題なのだが、答えない訳にはいかないと判断、返答を返す。
「……昔にちょっと大きな火傷をしてな。あまり見せても良いもんじゃないから、普段から隠してるんだ」
火傷と響は言ったが、これは嘘である。他の人に必要以上に気を使われないための。隠し事をする罪悪感がないと言えば嘘になるが、正直に言ったところでどうにかなるわけではない。
響の返答に薫は「それは変なこと聞いてゴメンなのですよぅ」と口調が落ち込んでいた。
「気にすんじゃねーよ。俺は気にしてねーし。気にするってんなら、これから友達としてよろしくしてくれ。それでチャラだ」
笑顔でそう答える響に薫も笑顔になり
「わかったのですよ~。これからよろしくです」
と言いながら二人は握手した。それで質問タイムがお開きになった。
質問タイムが終わり「ふぅ~」と一息をついていると「お疲れ様、響君」と後ろから声を掛けられた。
振り向いてみると、赤くて長い髪が特徴的な女の子と、ツンツン頭の遅刻してきた男がいた。
「おお、遅刻男だ」
「誰が遅刻男だ!! 俺の名前は黒沢 努。努でいいぞ、転校生」
響がつけたあだ名に本気で怒りながらも自己紹介する努。まだ体が熱いのか、制服の上着は脱いだままである。
「この馬鹿は放っておいて、私の名前は真田 理沙。理沙でいいわ、響君」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは~」などという声が聞こえてくるが華麗にスルーし、
「俺は神楽坂 響だ。俺も響でいい。よろしく頼むよ、理沙」
微笑みながら挨拶をする。
「え、ええ、よろしく、響」
軽く頬を赤くしながら返事をする。
「さっそく本題に入るけど、響は風紀委員になるのよね? 私はあなたと同じ班になるわ。その挨拶ってわけ」
「ああ、学園長から聞いてるよ。そっか、理沙が同じ班か。改めてよろしく」
「ところで、もう一つ。おそらく嫌な情報があるけど聞いとく?」
「……だいたいさっきの騒動で想像はつくけど、一応」
「……あそこの馬鹿も同じ班になるわ」
理沙は教室の隅を指さす。そこにはさっきまで騒いでいたが無視され落ち込んだ努が床にのの字を書いていた。
「…………」
「…………」
終始無言の2人。そして
「お互い苦労するわね、これから。」
「まぁ、他4人でフォローしてくしかないな」
などと妙なところで共感した2人は硬く握手をするのだった。
昼休み
「へ~、じゃあ、響は妹さんと2人で暮らしてるんだな。うらやましいぜ。家なんか頑固親父と住んでるんだぜ、まったくもうちょっと華が欲しいよな」
その後説得により、なんとか機嫌を直した努と改めて自己紹介をして、努、理沙、薫の3人で昼食を食べていた。
「じゃあ、響っちのお弁当は心っちの手作りってわけだ。いやぁ~、愛されてるね、お兄さん」
響は手作り弁当を持参していた。ちなみに昨日の夜のうちに簡単なものを作って冷凍しておいたものである。
余談で、努と理沙は購買から買ってきたパンを、薫はお母さんが作った弁当を食べている。
「ん? いや、これは俺が作ったものだが?」
弁当のおかずを口に運びながら答える響。その答えに目を開いて驚く一同。はっきり言って響の弁当は美味しそうなのである。普通は女の子が作ったと思われても仕方がない。
「響って料理できるの?」っと代表して理沙が聞くと、
「ああ。簡単なものは一通りできるし、難しいものもレシピ見たりしながらつくるぞ。心は料理がって言うより家事全般が壊滅的に才能がないからな」
「壊滅的ってどんなのよ?」
「掃除をすれば家具が壊れ、洗濯をすれば服が布に戻り、料理をすれば毒物を作る。模様替えをすれば引っ越しでもできるんじゃないか? いや、模様替えは家事じゃないからセーフかな……ぶつぶつ」
などという響の言葉に3人の中の響の妹像がものすごいことになっていることに響は気が付いていない。理沙なんかは、厄介な人が増えるかもと考え顔を青くしている。
「ま、まぁ、今日の放課後になれば嫌でも見れるしな」
「そうね、それまでは考えないようにしましょ」
「報告待ってるのですよ」
3人は自分を納得させた。
キーンコーンカーンコーン
時は過ぎて放課後。ホームルームを終えた3人は訓練場へと向かっていった。
次回はもう一人の班員が登場します。
明日か明後日には更新できるかと。