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雷の覇者  作者: 悠奏多
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第1話:任務

「何でこんなことになったんだか」

 

 一人の少年疑問を口に出して言う。その言葉は気だるそうで、やる気がまったく感じられない。

 

「俺の予定では後1周間は惰眠をむさぼっているはずだったんだが……」

 

 心底残念そうに言った少年は両手いっぱいに持った荷物を、まだ誰も使った形跡がない玄関に置く。玄関から見える廊下には届いたばかりの荷物が入った段ボールが並べられていた。

 

「過ぎたことを言っていても仕方ありませんよ」

 

 鈴のような声の少女が言う。脱いだ靴を整えながら少年に対し今後の予定を確認する。

 

「とりあえず、明日は学園に編入するわけですから、今日はもうご飯を食べて早めに寝ましょう」

 

「んで、その飯は誰が作るんだ?」

 

「私が作っていいんですか?」

 

 少女は満面の笑みで少年を見る。その眼は悪戯をする前の子供のように輝いている。少女の家事能力を知っている少年は深いため息を吐く。やる気のなかった表情が、さらに増したように感じた。

 

「だよなぁ~。お前に家事は任せられないよなぁ、はぁ~」

 

 もう一度深いため息を吐き、少女の申し出を断りながら、少年は調理道具が入っているはず段ボールを開け、キッチンへと向かって行った。

 

 頭の中で何故このようなことになったのかを思い浮かべながら……

 

 

 

 

 約10時間前……

 ここは魔導協会の中でも極一部の限られた者が入ることを許されたところ。魔導協会本部の地下に造られた施設である。ここの存在を知っている者でさえ、指揮官クラス以上の魔導士である。

 

 そこに、

 

 カツン、カツン、カツン

 

 左右の壁に付いている蝋燭だけが光源の薄暗い通路に、2つの足音が響きわたる。足音は重なっており、注意して聞かないと2人とは判別できない。徐々に足音が近づいてきて、蝋燭の明かりで顔が判別できるようになった。そこには1組の少年少女が無言で歩いていた。

 

 そのうち一人は、まだ少年とも言える顔立ちの男。しかしその眼には迷いがなく力強い意志が感じられる。

 

 もう一人は少女。身長は男の肩位で、ツインテールに縛った髪に、白いリボンが特徴である。どことなく雰囲気が男と似たところがある。

 

「兄さん、今度の任務って何なんだろうね?」

 

 そこで沈黙と薄暗さに耐えられなかったのだろう、若干の緊張を、その声音に乗せながら少女が男に声をかけた。どうやら二人は兄弟だったらしい。尋ねられた兄は頭を手で掻きながら答える。

 

「さぁな。姉さんからの呼び出しだから、あまり良い予感はしないな。俺としては前回の任務の疲れもあるし、もうちょっと寝て過ごしたかったけどな」

 

「もう、そんなこと言ってここ1週間ほとんど寝て過ごしてませんでしたっけ?」

 

 ジロッと横目で兄を睨む。それに対し兄は全くの無視。まるで気にしていないかの様に返事を返す。欠伸をしているあたり、兄の神経の太さがうかがえる。

 

「それだけ疲れてたってことだよ。それにな心。寝る子は育つんんだぞ。お前ももう少し寝ろ。そうすれば毎日毎日風呂上りにやっている特定部位が大きくなるマッサージもやらなくて済むんじゃないか?」

 

「特定部位って・・・///っ! 兄さん!! そこは関係ないでしょ! っていうか何でそのことを知っているんですか!?」

 

 心と呼ばれた少女は自分の胸の前で腕を組み、少し後ずさりながら兄に問いただす。その目は実の兄を見る目ではなかったが。

 

「そりゃお前、愛する妹のことなら悩みから黒子の数まで何でも知ってるぞ。ハッハッハー」

 

「ハッハッハーじゃないですよ。そんな事ある訳ないじゃ『最近の我が妹の体脂肪率が大台の……』!! ワーワーワー/// 分かりました、分かりましたからー。それ以上は言わないでくださーい。うう、兄さんの意地悪」

 

 涙目になりながら兄の言葉を止める心。どこでそんな情報を手に入れるのか、心底疑問に感じながらも、この兄なら何でもできるような気がしてしまい結局お手上げするしかない。

 

「まだまだだな、我が妹よ。」

 

 言いながら満足そうにほほ笑む兄に心は批判気に視線を送りながら、さらに一歩距離をとる。

 

 話しているうちに目的の部屋の前まで来たらしい。2人の前には身長の2倍はありそうな扉が立っていた。少し昔のデザインで木製の頑丈そうな扉である。少し押すと以外に軽く扉が開く。そのまま一気に扉を開け中に入る二人。

 

 っとそこに、

 

「相変わらず仲が良いな、お前たちは」

 

 赤いまるで灼熱を思わせるような髪をなびかせながら、長身の女性が近付いてきた。

 

 スラっと伸びる足に出るところは出る、引っ込むところは引っ込む、世の女性の憧れのようなプロポーションをした女性は、その兄弟を待っていたのか壁に背中を預け、腕組みをしながらこちらを見ている。

 

「姉さん!!」

「お姉ちゃん」

 

 兄弟は二人同時に声をあげた。

 

「こーら、響、心。ここではその呼び方はダメだって言わなかった?」

 

 ニカっと太陽のような笑みを浮かべながら、女性は言った。なだめるような言い方には2人への思いやりが含まれているような気がする。

 

「あっと! 七聖『瞬雷』神楽坂 響 只今出頭しました、副隊長」

 

「同じく、その補佐、『風精』神楽坂 心 只今出頭しました」

 

 副隊長。そう、この女性が七聖の副隊長にしてその一人「獄炎」のくれない あかりである。

 

「御苦労。今日ここにお前たちを呼び出したのは他でもない、お前たちには任務に就いてもらう」

 

 話し方が変わる灯。それを受け、響と心の2人の雰囲気が変化する。張りつめたような緊張感が生まれる。

 

「はい、それは聞いています。ところでその任務内容は何なんですか?」

 

「今回の任務は少々特殊でな。潜入及び防衛任務になる。そのため割と長期になってしまうがな」

 

「潜入と防衛……ですか? しかも七聖がでるような。それなら末席の私たちよりも『金剛』様や『荊姫』様に任せたほうがよろしくないでしょうか?」

 

 任務の内容を聞き、思った疑問を口にする。

 

「うむ、無論他の七聖も出向く予定である。しかし今回の任務は防衛場所が複数ある。境界点は知っているな。今回の任地はその境界点である藤歌学園になる。他の七聖もそれぞれ境界点へと向かってもらう」

 

 境界点。それは魔界と現界とのバランスと保つ封印術式がある地点のことである。かつて起こった人魔大戦、その際、初代七聖が魔界と現界を別つために世界に5つ大規模封印術式を残した。それが境界点であり、アメリカ、イギリス、ロシア、南極、そして日本に存在する。正確な場所までは公にされていない最重要機密なはずだが……

 

「藤歌学園って親父「ギロッ」一心さんが学園長をしている、日本最大の魔導士育成学園ですか?」

 

 途中「獄炎」に睨まれ、言い直しながら尋ねる響。

 

「そうだ。その境界点に今回「闇協会」が何らかのアプローチがある可能性があることが判明した」

 

「闇協会ですか!?」

 

 闇協会とは、魔法を悪用する魔法犯罪者や強力な魔力を持つ子供を誘拐し、勢力を伸ばしている組織である。その大義や活動場所などあらゆる情報が一切不明で、魔導協会が前々から追っている組織である。闇協会という名前も魔導教会が勝手につけた名前である。

 

「『無影』からの報告、さらには『水鏡』の占いにも似たような暗示が出ていた。そこで、お前たちを生徒としてその学園に送り込み、秘密裏に境界点の防衛及び闇協会の排除をお願いしたい。一応、教師として送り込むことも考えたんだが、自由に動けないだろう。そこで適任だったのがお前たち兄弟だったわけだ。ちなみにこれは隊長である『神風』との協議の結果であり、お前たち特に響には拒否権はない」

 

「強制ですか!? ……分かりました、七聖が瞬雷、その任謹んで拝命いたします」

 

「同じくその補佐、風精、謹んで拝命します」

 

 少し考えた後、なかば諦めた表情で承諾する響を横目に苦笑しながら、心も承諾した。

 

「そうか、そうか。お前たちなら引き受けてくれると思っていたよ。任務中は正体隠蔽のために響には3重の、心には2重のリミッターがつくからそのつもりで。住居はこちらで手配済みだから、そこで二人で住んでくれ。あと任務は明日からだからすぐに準備して現地に向かってくれ。そのほかの細かいところは書類に目を通しておけ」

 

「「は??」」

 

「強制したくせに・・・」とか心の中で考えつつも口には出さずに任務の概要を聞いていた2人は、同時に素っ頓狂な声をあげる。

 

 リミッターをかけるのは当然である。七聖の正体はできるだけ隠蔽される物である。そのため、無意識に強大な力を使うのを防ぐためにリミッターが必要なのである。一般の魔導士は七聖の正体は知らない。ただ彼らが扱う特別な魔導媒体だけを知っており、誰がその使い手なのかは知らないのである。よほど緊急の場合のみ七聖は自らの正体を明かし現地の魔導士の指揮権を得るのである。ゆえに、彼らが驚いたのはリミッターのせいではない。

 

 ちなみに魔導媒体とは魔導を発動する助けになるためのもので、一般的には武器の形をしている。なくても魔導は使えるが、発動速度、制度、威力が低下する。

 

「明日からですか!?」

 

 流石の心でも困惑した表情で尋ねる。それも当然、明日から引っ越せと言われても準備の時間などに余裕がないのだから。

 

「そうだが?」

 

 ニヤニヤしながら返答する美女。明らかな確信犯。2人の反応を見て、内心で楽しんでいるのだろう。

 

「急すぎるだろ!オイ!?」

 

「事態は一刻を争うかも知れんだろ」

 

「親父がいるじゃねーか。ふっざけんじゃねーー!!」

 

 その後言い争いになった姉と兄を止めるに止められなかった妹は、最終的には炎のともった拳(比ゆではない)を顔面にくらって気絶した兄を引きずって任務の準備をした。

 

 

 その後目を覚ました兄と共に任地に、これから過ごす住居へとたどり着き冒頭に戻る。

 

第1話です。前の小説に比べると、設定やら世界観が変わっています。この後も随時更新していく予定です。

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