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雷の覇者  作者: 悠奏多
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第13話:初挑戦

 

 朝・・・


「う、う〜〜ん……」


 ぼやけた視界を手で擦りながら彼女は眼を開ける。

 そして時計を確認し、普段はまだ寝ている時間であることを認識し、ベットから起き上がる。


 寝ぼけた思考の中でも漠然としながら学園の制服に袖を通す。

 着替えが終わるころには意識も覚醒してきて、ハッキリと物事を考えられるくらいにはなっていた。


 部屋の隅に置いてある自分の身長ほどもある姿見で、制服姿の自分を映しだし身だしなみを整えていく。


 2階の自分の部屋から出て階段を降り、リビングに入る。

 そこには普段自分が起きた時にはもう家を出ている父と母の姿があった。


「あら? 今日は珍しく早いのね? 理沙」

「おや、本当だ。いつもは私たちが出かける時に起こさないと起きてこないのに」


 リビングに入ってきた娘をみて驚きながら声をかける2人。

 母の名前は明美あけみ、父の名前は輝義てるよしである。


「おはよう、父さん、母さん。今日はちょっとお弁当を作ろうと思ってね」


「あらあら、理沙がお料理なんて、それこそ珍しい。そう言えば昨日大量に食材を買ってたわね。もしかして男でもできたの?」


「何!?おい理沙。その男はきっと悪い奴だぞ!!騙されるんじゃない」


 理沙の言葉に女の感を働かせる母と、それを聞いて狼狽する父。


「そんなんじゃないわよ! ただちょっと約束しただけで、響とはそんなんじゃ……」


「聞きました、アナタ? 響ですって。それってこの前転校してきたって子じゃない?」

「お父さんは許さないぞ〜〜」


 自ら墓穴を掘る理沙、それをネタにからかう母。父に限っては泣きだす勢いである。

 母の明美のほうはそうでもないが、父の輝義は娘に対し過保護である。

 昔から何かと、理沙のまわりに男の気配があるだけで、理沙に詰め寄ってくる始末である。


「もう、違うって言ってるでしょ! ほら、さっさと行かないと仕事に遅刻しちゃうよ。今日は昨日出現した妖魔の報告書出さなきゃって言ってたじゃない」


 実は、明美と輝義は魔導教会で働いている魔導士であり、明美は「光麗こうれい」輝義は「豪砕ごうさい」の二つ名をもつ優秀な魔導士で、理沙たちの住んでいる地域を統括する魔導教会の最高責任者でもある。2人それぞれが魔導士ランクSとかなりの実力者である。


 ちなみに、二つ名を持っている魔導士のことを「名持ち」と言い、他の魔導士からは一目置かれる存在である。


「フフ、それもそうね。それじゃお母さんたちは行くけど、火の扱いには気をつけるのよ。ほらアナタ。行くわよ」

「理沙〜〜。いつまでも私のそばに居てくれぇ〜〜」


 本人たち、特に父を見ていると、そうとは思えないが……

 母に首を掴まれて引きずられていく父。

 その姿は何とも哀れなものである。


「まったく、母さんたちは……さてと、材料は昨日買っておいたし、後はこのお料理本通りに作れば問題なしね」


 言いながらも頬が緩むのを抑えられない。

 なんだかんだ言いつつも、母は応援してくれるし、父の過保護も慣れてしまえば自分のことを思ってのことである。

 そんな両親のことを、理沙もまた信頼しているし大好きなのであった。


 昨日材料を買う時に一緒に買っておいた本を袋の中から取り出す理沙。


 タイトルには「誰でも簡単、必殺手料理」と書かれている。

 料理で必殺してどうするのか、っと言う突っ込みは最早言うまい。


「よし! やりますか。まずは何を作るかね……アイツは何が好きなのかしら?」


 お料理本をめくりながら考える理沙。

 そしてあるページでその手を止めて、少し眺めてから勢いよく立ちあがり作業に取り掛かる。


 そのページにはこう書かれていた。


「男の子ならこの料理で間違いなし!!これであの子のハートもゲット確実!!」




 2時間後……


「で、できた……」


 理沙の手元には1つの弁当箱が。そして水筒が握られていた。

 キッチンには野菜の皮や調味料などが散らかっており、壮大なバトルがあったことがうかがえる。


「時間は……ヤバッ!? もうこんな時間!」

 時計を見て見ると、もうすぐにでも家を出なくては学校に間に合わない時間にまでなっていた。

 理沙は自らの朝食を口に放り込むと、無造作に転がっていた鞄を持ち学園へと向かって行った。





 ガラガラ


「はぁ、はぁ、セーフかしら。ふぅ」


 時刻は始業5分前。

 教室の中は談笑するクラスメートの声で一杯だった。

 そんな中に扉を開けて入ってきた理沙は、荒れている息を落ち着かせながら言った。


「おお、おはよう理沙っち。理沙っちがこんな時間に登校なんて珍しいね?」


 ダッシュで教室に駆け込んできた理沙を見て薫が声をかける。


「はっはっは! どうした理沙? 俺よりも遅いなんて。寝坊でもしたか?」


 すでに登校していた努が胸を張って言う。

 努が理沙よりも早く登校しているのは相当に珍しい。

 まぁ、遅刻していないことだけでも珍しいのだが。


「くっ!? 屈辱だわ、努なんかに言われるなんて。アンタと一緒にしないでよ! 私はちょっと用事があっただけよ」


「ふむ、用事だと言っても遅刻はしちゃいかんだろ。ギリギリで間に合ってはいるが」


 屈辱から握り拳をつくって肩を震わせていた理沙に響が声をかけた。


(むかぁ〜! こいつは誰のせいだと思って……)


 響の言葉に内心でイラついている理沙。

 しかしその思いを声に出すまでもなく、担任の先生が入ってきたことで会話が打ち切られた。


 そしてそのまま朝のホームルームが始まり各自の席へと戻って行った。




 昼休み


「よし! 飯だ〜、パン買ってくるぜ!!」


 授業の終わりのチャイムが鳴ると同時に努がダッシュで教室を出ていく。

 それに続く形で何人かの生徒がダッシュしていく。

 普段はそこに理沙の姿もあるのだが、


「およ? 理沙っちは今日は購買に行かないのですか?」


 チャイムが鳴ってもいつまでも教室から出ていかない理沙不思議に思い、薫が問いかける。


「うん……今日はちょっとお弁当を作ってきたんだ」


「おお!? 理沙っちがお弁当を? 何故に?」


 理沙の返答に驚く薫。

 それも無理もない。理沙が料理できないのは周知の事実なのである。

 そのため理沙は普段から購買のパンを買って食べている


 そんな理沙がお弁当を作ってきたと言うのだから、驚かないほうがおかしいだろう。


「この前言ってた響との賭けの賞品が、何故か私の手作り弁当になっちゃってね……悪いんだけど薫、今日は努と2人で食べてくれない?」


 どこか恥ずかしそうに薫に事の顛末を言う理沙。

 そんな理沙の様子に何かを感じ取る薫。

 伊達に情報通ではない。


「ほほう! そう言うことですか。理沙っちの愛妻弁当を食べた響っちの反応を見れないのは残念ですけど、了解したのですよ」


「愛妻じゃない!!まぁ、頼んだわよ。」


 薫にお願いして自分は響の席へと向かっていく。


「理沙っちの手作り弁当……どんな出来栄えか気になるのですよ。あとで響っちにインタビューしてみよっと」


 後には今日これからの予定を立てる薫がいた。





「ね、ねぇ響?」


「ん?」


 薫にお願いした理沙はそのまま響の席に来ていた。

 若干緊張した様子の理沙を訝しげな眼で見る響。


「こ、この前約束したお弁当……作ってきたから」


「お、まじか!? まさかお前それで今日遅刻ギリギリだったのか?」


「そ、そうよ。……悪い?」


 今日の朝の出来事を思い出し問う響に、少し機嫌を悪くした理沙が返す。


「いや、そうか。悪かったな。朝はまさかお前が俺に弁当を作ってて遅刻しそうになったとは考えてなかった。すまん」


 そう言って素直に頭を下げる響。

 まさか素直に謝られるとは思っていなかったのか、その態度に理沙は驚きながら提案する。


「ま、まぁ、別にもういいわよ。それより中庭で食べましょう」


「ん?ここじゃダメなのか?」


「ここじゃ恥ずかしいでしょ。まるで私がアンタのためにわざわざ自主的にお弁当を作ってきたみたいじゃない!!」


「ふむ。それもそうか。それじゃ行こうか。もたもたしてると昼休みが終わっちまう」


 理沙の説明に納得した響は理沙と2人で教室を出て行った。


 しかし、そんな二人の姿を見たクラスメートたちが、どちらにせよ誤解したのは当然である。




 2人は中庭にあるベンチに腰かけていた。

 外の日差しは強いため、木の陰に隠れ、休憩するにはちょうど良いベンチだ。

 周りには何組かのカップルと思われる男女が同じように弁当を食べている。


「はい」


 そう言ってカバンからハンカチで包まれた弁当箱を手渡す理沙。

 顔は響を見ておらず、耳のあたりが少し赤くなっている。


「ありがと。さてと中身はどうなってるのかな?」


 それを受け取った響は楽しそうに弁当を包んでいるハンカチをほどいていった。

 そしてハンカチがほどき終わり、弁当の蓋を開ける。

 そこには、


「…………」


 蓋を開けるとそこには、一面白い世界が広がっていた。


「なぁ、理沙?これは料理ができない理沙に弁当を作って来いといった俺への当てつけか? それとも本当に一生懸命作ってこれだったのか? 弁当箱いっぱいにご飯はないだろ。せめて梅干しでも乗っけて日の丸弁当にしてくれよ……」


 そう、弁当箱の中には米しか入っていなかったのである。

 流石の響もこれは予想外だったらしく、どうコメントすればいいのか迷っているようだ。

 呆れ半分になりながらも、一応食べようかを迷っているようだ。


「そ、そんなわけないでしょ!! ほら、これ!!」


 慌てて鞄から水筒を取り出す理沙。


「ん? 水筒? それをどうするんだ?」


 さらに困惑する響。

 真っ白なご飯に水筒を突然差し出されても理解などできるはずもない。


「こうするのよ」


 一回差し出した水筒を再び奪い返し、水蓋を開けその中身を弁当箱の中のご飯にかける理沙。

 その水筒の中からは、湯気を立てた茶色の液体上のものが出てきた。

 辺りにはいい匂いが広がる。


「おう!? これはカレーライスか!! まさか弁当にカレーをチョイスするとは」


 驚きを浮かべる響。弁当にカレーはなかなかに斬新なアイディアではないか?


「しょうがないじゃない。初心者用の本に載ってたんだから。それに男の子はカレーが好きだとも載ってたし」


 必死に弁解しようとする理沙。


「いや、少し驚いたが、これはこれでありだろう。それじゃせっかくだし、いただきます。あむ・・・」


 そう言って一口口に運ぶ響。

 そして少し考える。


「……どう?……」

 若干俯きながら、響の反応を気にする理沙。

 その顔には不安の色が浮かんでいる。


 一口食べて考え込んでしまった響に、理沙は不安を募らせる。

 何かを言ってもらおうと再び理沙が口を開き始めた時、それを制するようにして、響が口を出した。


「ふむ。若干、野菜に火の通りが悪いな。歯ごたえがジャリジャリ言ってるぞ。あと、人参の皮は剥くものだ」


「うぅ・・・」


 突然口を開いたかと思うと、考えた末に正直に料理を評価する響。その答えを聞き、さらに俯いてしまう理沙。


(やっぱ、私には料理は向かないわね・・・)


 などと考える。


「あむ。モグモグ・・・だが美味しいぞ」


 二口目を口に運びながら言う響。


「え!?」


 その言葉に俯いていた顔をあげ、信じられないものを見る目で見る理沙。


「料理って言うのはなにも、味だけですべてが決まるものではない。もちろん、レストランなんかじゃ味が一番重要だが、こう言う弁当で重要なのは『心』だ」

 

 理沙に言い聞かせるように言う響。

 その声にはどこかやさしさが宿っている。


「『心』って・・・な、何恥ずかしいことをサラッと言ってんのよ!」


「あむ・・・だが事実だろ? 現に今日はこれを作るために遅刻ギリギリまで粘ってくれたんだし」


 理沙は顔を赤くしながらも響に返答するが、響はさらにカレーを口に運びながら即答する。


「そ、それは……どうせ作るなら美味しいって言わせたいじゃない」


「そう。それだよ! 料理で一番大切なのは、美味しく食べてもらいたいって言う気持ちだ。その気持ちがあれば、きっと上達するさ。この弁当にもその気持ちがちゃんと入っている。だから俺は美味しいと感じたんだ」


 観念したように今日の朝の心境を語る理沙。

 それに響は感心し、理沙に返す。


「あ、ありがと/// そんなこと言ってくれたのはアンタだけよ。私は料理だけは昔から苦手でね。今までもあまり作る機会がなかったし・・・」


「ふむ。それじゃぁ、俺が理沙に料理を教えてやろうか? 俺は昔から家事とかやってたから得意だぜ」


 正確にはやらされていたのだが、それをここで話しても何もならないだろう。


「え!? いや、でもそれは……」


「キッチンは俺の家のを使えばいいし、材料は割り勘な!時間が取れる時がいいから、毎週土曜日なんてどうだ? なんだったら食材の買い物の仕方から教えてやるぜ?」


 理沙の言葉を無視し、1人でどんどん話を進めていく響。

 日取りまで勝手に決められた理沙は、口をはさむタイミングを完全に失い戸惑っている。


「え? あ、え〜と・・・お、お願いします?」


 いつもの強気な態度がなりを潜めて、恐縮した態度を取る理沙。

 なぜか語尾が疑問形であった。


「ふっ、任せろ! これからは俺のことを師匠と呼ぶがいい」


「ちょ、調子に乗ってんじゃないっ!!」


 響の態度にいつもの調子を取り戻し、肘打ちを放つ理沙。

 響はとっさにそれを避ける。手に持ったカレーを少しもこぼさないあたり伊達に七聖を名乗っているわけではない。


「ほら、理沙。お前は俺の弁当でも食べろよ。早く食べないと時間がなくなるぞ?」


 言いながら自分の弁当を理沙に投げる響。


 それに何か言いたげながらも理沙は弁当を受け取り、蓋を開ける。

 そこには色とりどりのおかずと、サンドイッチが入っていた。


「うわっ! すごっ!! これ本当にアンタが一人で作ったの? ……あむ。しかも美味しいし……」


 その料理の見た目と味に感嘆の声を洩らす理沙。


「もちろんだ。栄養バランスから、カロリー計算まで完璧だぜ。理沙も練習すればそれくらいなら簡単に作れるようになるさ。さ、さっさと食べて教室に戻ろうぜ」


「う、うん……ねぇ、響?」


「ん?」


「ありがと///」


 そっぽを向いて赤くなりながら言う理沙。


「はは!珍しいな。素直に礼を言うなんて。」


「うるさいわね! もう……」


 その後響と理沙は急いで弁当を食べて教室へと向かって行った。


 教室に戻った二人にクラスメートからの質問の嵐が待っていることを知らずに……



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