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雷の覇者  作者: 悠奏多
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第12話:星空の下で


 深夜……


 響の家のリビングは酷い惨状だった。

 ところどころに空き缶が、一升瓶が散らばり、そこには疲れてしまったのか5人が寝てしまっていた。

 ところどころ服がはだけているのには目を逸らしておく。


「ふぅ、やっと静かになったか……」


 なんとか自身を守り抜き疲れ切った響がポツリと言う。

 あの後は大変だった。自身に掛けられたバインドを魔力を使って無理やり解き、尚も襲いかかってくる理沙と薫から逃げ続け10分、ついに壁際へと追いやられてしまった響は、雷撃を放ち2人を気絶させたのだった。


「明日何も覚えてるなよ」


 誰に聞かせるでもなく、ぽつりと口から言葉が漏れる。覚えていた時のことを考えるとそれだけで背筋に寒気が走る。


 そしておもむろに立ち上がり、庭へと続く窓を開ける。

 響を外の冷気が出迎えるが、それを気にするそぶりも見せずに、縁側へ腰掛ける。


「星が綺麗だ……」


 空を見上げ率直な感想を言う。空には三日月が浮かんでおり、雲が一つもなく星がよく見える。

 近頃の都会ではなかなかお目にかかれないほどの星空だった。


「…………」


 どれくらいそうしていたのだろうか?

 縁側でボーっとしていた彼の背中に、不意に声をかけられる。


「響先輩?」


 声の主は棗である。いつの間にか起きだしたのか、肌蹴ていた服装をしっかりと直した格好で立っていた。


「起しちゃったかな? 棗ちゃん」


「いいえ! 少し前から起きてて、それで先輩が起きたから、どうしたのかなって……隣いいですか?」


「え? ああ、うん。いいよ」


 棗の問いかけが少し意外だったのか、少し驚きつつも承諾する響。

 対する棗も遠慮がちに「失礼します」っと響の右隣に腰を降ろす。


 そんな棗の姿を見て、苦笑が漏れそうになるのを堪え、再び星空を見上げる。


「星をね、見ていたんだ。」

「とても綺麗ですね? 星空。まるでどこまでも吸い込まれそう」


 フフっと笑顔で言う棗。


「星空って素敵ですよね。私は昔から悩み事があると星空を見るんです。考え事していても全部吹き飛んじゃうんです。なんか、お前たちはこの空の中じゃ、ちっぽけな存在なんだぞって言われてるみたいで。変ですよね? こう言うの」


「そんなことないよ。俺にも似た経験がある」


 棗の言葉に感慨深そうに頷く。

 その星空を見つめる視線も先ほどとは少し変わったように感じる。


「何か、悩み事があるんですか?」


「え!?」


 棗の言葉に今度こそ驚きを隠せない響。

 悩みがないわけではない。しかし、表面上は全く出していなかったと自負する分、驚きが倍増している。


「さっきの先輩の背中を見てると、どっかに消えてしまいそうで。ホントは声をかけないつもりだったんです。でも、それを見て居ても立ってもいられなくて……それで」


 棗が懸命に自分の思いを言葉にする。

 棗自身も何を言ったらいいのか分からないのだろう。その言葉はたどたどしく、どこかハッキリしない。

 それでも響に自分の思いを必死に伝えようとしているのは伝わってくる。


 それを響も分かっているのだろう。


「そっか。ありがとう。棗ちゃん」


 そう言って棗の頭を撫でる。棗はくすぐったそうにしながらも、目を閉じてその手を受け入れる。


「確かに、悩み事って言えば悩みごとかな? でも、もう答えは出てる悩み事なんだ。でもね、それを実行するのはちょっと怖い」


 そう言って悲しみを宿した目をする響。どこまでも後悔し、どこまでも嘆き悲しみ、どこまでも絶望した瞳。

 その瞳を見てしまっては、何も言えなくなってしまう。


「…………」

「…………」


 お互いに無言の時間が過ぎる。

 空では変わらずに星空が彼らを照らしている。


 沈黙を破ったのは棗だった。


「響先輩はどうして魔導士になろうと思ったんですか?」


「魔導士になった理由か〜……」


 棗の言葉に、どこか困ったように考える響。

 理由はある。明確な形として響の中に残っている。

 しかし、それを棗に伝えてもいいのか。それが響が懸念していることだった。

 なにせ、彼が魔導士になった理由は……


「私は昔ある人に助けてもらって。だからその人みたいに、助けられたらいいなと思って。私のような人を減らしたいなと思って魔導士になりました」


 自身の過去を少し話す棗。

 思い出すのは5年前の事件。

 自分たちと変わらない年にもかかわらず、その身を危険な場所に置き人々を守る少年。


 それは一種の憧れなのかもしれない。


「そっか、棗ちゃんは強いな……」


 棗の理由を聞いて感心する響。棗が疑問に思い問おうとするが、その声は響によって阻まれる。


「……俺はその時、自分をそんな目にあわせた奴に対する復讐心しかなかった。……俺が魔導士になった一番の理由はね……復讐のため……なんだよ」


 そう言って今にも泣きそうな顔をする響。

 棗の体験を聞いて、それを自らの過去と照らし合わせているようである。

 

 響自身、何故口からこんな言葉が出たのか分からないだろう。

 先ほどまでは言うか言わないか迷っていた言葉。しかし、それが勝手に口から出て行ってしまった。


 もしかしたら誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 今まで誰にも明かしたことのない本心を一瞬とはいえ吐露してしまっていた。


 棗はそんな響を見て抱きついた。


「おいおい!? 棗ちゃん? 大丈夫だよ。今はそんなこと考えてないから。理由は詳しく話せないけど、もう大丈夫だから」


 そう言って説得する響。

 納得したのか棗は響から離れる。その棗の顔には涙が流れていた。


「やっぱり、棗ちゃんはやさしいな」


 心からそう思う響。

 棗はさっきの短い言葉から、今まで響がどのような過去を送っていたのかを漠然とでも認識したのだろう。


「…………」

「…………」


 またも静寂が訪れる。

 そして、今度は響がその静寂を打ち破った。


「棗ちゃん。俺のこともこれからは「響さん」って呼んでくれないかな?」


「え?」


 いきなりの響の問いかけに頭がついていかず聞き返す棗。


「だってさ、理沙や努、薫には「さん」付けなのに、俺だけ「先輩」だったろ? この際だから俺も「さん」付けがいいなって」


 その言葉に一瞬キョトンとした後、笑顔になり棗は言う。


「フフフ。はい、わかりました。響「さん」」


「ありがとう」


 改めて感謝を言う響。その言葉にはいろんな気持が乗っていた。


「さて、いくら夏だからってこれ以上外にいたら風引くかも。中に戻って寝ようか。空いてる部屋は自由に使っていいから。他の奴らは朝まで放っておこう」


 そう言いながら立ち上がる響。


「わかりました。響さん」


 そう言って笑顔になり2人は家の中へと戻っていく。


 後には空いっぱいに輝く星空が2人を見守っていた。








 翌朝・・・


「お〜いお前ら、いい加減に起きろ〜! もう昼になるぞ」


「う、うぁ〜〜」


 響の声に理沙たちがもぞもぞと起きてくる。


「おはようございます、理沙ちゃん、薫さん、努さん」


「おはよ、棗。あぁぁぁ、頭が痛いよぅ」

「私もなのです」

「俺もだ」


 棗のあいさつに頭を押さえながら返す3人。


「大丈夫ですか?回復魔法かけましょうか?」


「放っておけよ、棗ちゃん。そいつらは自業自得だ」


 棗の心配そうな言葉に、響は昨日のことを思い出しながら言う。


「兄さん、それはあんまりじゃないですか? 理沙先輩、薫先輩、努先輩、お水をどうぞ。」


 心がコップに水を入れて持ってくる。


「ありがとう、心」

「ありがとうなのですよ」

「ありがとな」


 礼を言う3人。


「それより、何で心ちゃんは大丈夫なんですか、響さん?昨日はあんなに酔っぱらっていたのに。」


 棗の疑問ももっともだろう。何せ心も昨日酒を飲んで棗に絡んでいたのだから。

 そんな心が二日酔いにもならずに一人元気そうだ。


「心も昔にちょっとな・・・あまり追及しないでくれ。」


 昔、「獄炎」に付き合い飲まされたことを思い出しながら言う響。

 付き合わされたのは何も響だけではなかった。


 実は心も昔にかなり飲まされた経験があるのだ。

 その経験によって、酒には弱いが、その後の回復力が半端なく良くなってしまったのである。


「ん? ちょっと待てよ。何で棗ちゃんが響のことを「響さん」なんて呼んでるんだ?」


「あれ? そう言えば昨日までは「響先輩」だったのですよ」


 棗の響に対する呼び方を疑問に思った努と薫が口にする。


「ん? ああ! 昨日の夜、お前らが寝ちまった後にちょっとな。いつまでも俺だけ先輩って呼ばれるのも何か変だろ」


「なので響さんって呼ぶことにしたんです」


 響の説明に頷きながら棗が受け継ぐ。


「兄さん? 私の棗ちゃんを取ったりしたら許しませんよ?」

「え!?」


 響たちの説明を聞いていた心が言い、棗が驚く。


「別に取りはしないよ。ほほぅ。心と棗ちゃんはそう言う関係だったのか。気付かなかった。棗ちゃん、心を頼むな!」

「え? えぇぇ!?」


「よかったね、棗ちゃん。兄さんの公認も頂いたことだし、これからは堂々とラブラブできるよ」


「な、何の話をしているんですか、心ちゃん!! 響さんも乗らないで下さい〜〜!!」


 棗の叫びが響の家に響き渡る。

 そしてみんなの笑い声が巻き起こった。


 こうして響と心の歓迎会は幕を閉じて行った。



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