第二十一話
騒ぎがあったのを忘れるほど、会場が一斉に静まり返った。
トロン陛下がお目見えなのね。
私もオルガン様と一緒に臣下の礼をとる。
「皆の者、楽にせよ」
トロン陛下のよく通る一声で、一同が礼の形を解く。
初めてお会いするけれど、離れていても威厳を感じる。
この方がこの国を統べる国王陛下なのね。
失礼にならないような視線で、トロン陛下を見ていたら、目があった気がした。
途端に白い髭をたくわえお顔に笑みが浮かぶ。
「そこにおったか。オルガン。何をしておる。さっさとわしに紹介せぬか」
「はっ。仰せのままに」
オルガン様の名前を呼ばれて慌てている私とは違って、まるで打ち合わせでもしていたかのような自然さで、オルガン様は私を引き連れトロン陛下の前に立ち、そして膝をついた。
私も急いでオルガン様に倣うようにドレスの裾を持ち腰を下げた。
「トロン陛下におかれましてはご機嫌うるわしゅ――」
「そういうのは良いと言っておるだろうが」
トロン陛下に促されて、オルガン様は折っていた膝を伸ばし立ち上がる。
私はどうすればいいのか分からず、腰を下げたままでいたら、オルガン様に優しく姿勢を正された。
「本日はお招きいただきありがとうございます。我が妻、ビオラです」
「ビオラ・グラーベでございます。陛下。お目にかかれて光栄です」
オルガン様の視線を受け私も挨拶をする。
周囲から受ける視線が凄く、今にでも逃げ出してしまいたい。
「ふむ……色々と面白いことになっているようだな? 詳しく話を聞きたいところだが……聞け! わしはこれから主賓であるビオラ侯爵夫人とオルガンで話をする。他の者は好きに踊っておれ」
「なっ!? 陛下! さすがにそれは……」
「わしに文句があるのか?」
「ありますが、言っても聞かないでしょうね……」
「分かっておるではないか。わしはオルガンのそういうところが好きじゃぞ」
周囲のざわつきを無視するように、トロン陛下は奥へと進んでいく。
私は戸惑いながらも、オルガン様に付き添いながらトロン陛下の後を追う。
「やっぱりあの青年がグラーベ侯爵らしい。仮面の下は醜怪な容姿が隠されていたのではなかったのか?」
「羨ましいわぁ。あの女性。仮面の下があんな美男子だと知っていたら、ちゃんとアプローチしたのに! 噂なんて当てにならないものね」
聞こえてくる声はどれもオルガン様の容姿に関するものばかり。
嫌な噂が払拭されただけでも、来た甲斐があったわね。
それにしても、トロン陛下の聞きたいこととは何かしら。