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第十九話

「あら、ビオラじゃない? やだ。あなた、よく顔出せたわね」


 突然の聞き慣れた声に、私は心臓が止まる思いをした。

 舞踏会。

 貴族たちが互いに様々な交流を行う場だけれど、大きな役割として未婚の男女が相手を求めて踊る場所の提供、というものがある。

 声をかけてきた彼女、フルートがいてもおかしくはない。

 いいえ。男爵家の娘であるフルートは通常であれば、王族が催す夜会に出席するなど叶わないのだもの。

 より良い相手を探すことしか考えていないフルートが、この機会を逃すなんてあり得なかったんだわ。

 ()()()()()()()()()()()()()()、大々的に開いてくださったこの舞踏会を。

 参加者には伝えていないみたいだから、フルートもこの舞踏会の開催の目的は知らないのだけれど。


「久しぶりね。フルート」


 無視することも出来ず、言葉少なに返事をする。

 すると数ヶ月ぶりだというのに、まるで昨日会ったばかりような鮮明さで、記憶通りの彼女らしい言葉が返ってきた。


「あらやだ。ビオラったら意外と図々しいのね。お父様に社交界には出るなってあんなに言われていたのに。もしかして嫁いだからって言い気になってない? でもお相手は()()仮面侯爵でしょう? 普通の神経なら、社交の場に出るなんて出来ないんじゃない?」

「フルート。私の悪口は聞き流せる。でも、オルガン様の悪口を言うのはやめて」

「まぁ!? 冗談でしょう? ビオラが口答えするなんて。大体悪口じゃないわ。()()を言ってるだけよ。あなたのお相手は醜怪な容姿をして、とても人前に見せられる顔をしてない方だって」

 

 フルートは面白そうに笑みを浮かべながら、言葉を続ける。


「それに移るんでしょう? もう(とぎ)は済ませたのかしら? たくさん触られたんでしょうね。ああ。考えるだけでも(おぞ)ましいわ。もう移ったんじゃない、ビオラ? やだ。ちょっと離れてくれる? 私に移ったら大変だもの」


 噂があることは結婚前から知っていたし、フルートがその噂を知っていることも知っている。

 オルガン様がその噂に心を痛めていたことも。

 初めて感じる感情のあまり身体中が強張り、声を出すことさえできなかった。

 きっと、この感情を人は、怒りと呼ぶんだわ。


「だから、分かるでしょう? あなたは無相応に仮面侯爵と二人で屋敷にこもっていたらいいわ。社交の場なんてあなたに相応しくないの。誰にも()()()()――」


 パンッ!!

 

「きゃあ!!」


 あまりの怒りに、身体が自然と動いていた。

 私に右頬を叩かれたフルートは、目を見開いて痛む頬を庇うように両手を当てている。

 その表情は驚きの感情で満たされているように見えた。

 当然よね。

 何度もお父様に叩かれてきた私と違って、フルートは一度も誰からも叩かれたことなどないんだから。


「口を慎みなさい。これ以上オルガン様を、私の夫を蔑むような言葉を言うのは許さないわ」


 勤めて冷静な口調で、いまだに目を見開いたまま私を見つめるフルートに言い放つ。

 これ以上オルガン様の蔑む言葉は許さない。

 私の正直な気持ちを。

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