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第十七話

「ビオラ様。出発の時刻です」

「ええ。ハープ。今行くわ」


 陛下から舞踏会への招待をいただいたのが三ヶ月ほど前。

 オルガン様を始め、様々な方に手伝ってもらいながら準備を進めて、今日屋敷を立ち、王都へと向かう。


「ビオラ。王都は久しぶりだろう。楽しみか?」

「そうですね……懐かしいような。そうでもないような、不思議な気持ちです。この屋敷で暮らして楽しいことがたくさんありましたから」

「ははは。ハーモニアでの暮らしを気に入ってくれていることは嬉しい限りだ」


 オルガン様と一緒なら、数日も旅路もあっという間に感じそうね。

 途中の宿では別の馬車に乗っているオリン様とクラリー様ともご一緒できるし。

 でも、なぜかしら。

 胸の奥の不安な気持ちが消えないのは。

 やっぱり今まで出たことのない舞踏会に出るのが心配なのかしら。

 陛下への挨拶も。

 そんなことを考えていたら、オルガン様に気持ちを見透かされてしまった。


「不安か? 無理もない。今まで一度も社交界に出なかったんだからな。ただ、安心しろ。常に俺が近くにいるから」

「ありがとうございます。オルガン様は本当にお優しいですね」

「優しいというのはビオラのことをいうんだろう。クラリーもビオラの薬のおかげで随分と調子が良さそうだ」

「効いてくれてよかったです。オリン様も嬉しそうにしてくださって」


 クラリー様には毎晩寝る前に私の作った薬湯を飲んでもらっている。

 それを飲んでからは、症状はほとんど出ていないようだ。

 クラリー様は一生付き合っていかなければならない体質だと諦めていたみたいで、薬湯の効果に驚き、とても喜んでくれた。

 今でも会うたびにお礼を言われてしまうから、さすがに恐縮してしまうわ。

 それでも、私が作った薬で誰かが幸せになってくれるのは嬉しいことよね。


「そういえば、この間試したものは、だいぶ効き目がありそうだ。これまでよりもずいぶんと良くなった実感がある」

「そうですね! 私も最近のオルガン様のお顔を見ていてそう思っていました。ただ、もう少し改良の余地はありそうだと思うのですが、なかなか思い付かず」

「そんなことはない。今まで諦めていたこの顔だ。自分の素顔というものがどうだったかなんてとうに忘れてしまったが、良くなっているのは間違いないんだから」


 オルガン様が屋敷にお戻りになった日から、お顔の治療を開始していた。

 オリン様が見せてくれた肖像画から、オルガン様のお顔の原因は何かしらのご病気であるのは間違いない。

 亡くなられたご両親もなんとかオルガン様を治そうと、手当たり次第の薬草を集め、育てたのがあの庭園だった。

 それでも適切な薬は見つからず、不幸な事故でお二人とも早逝してしまったのだとか。


「でも、許せないのは、薬師ですね! あんなでたらめな薬をずっとオルガン様に使ってたなんて。もしかしたら治すどころか酷くしてしまっていたのかもしれません!」

「こればっかりはいまさら、だな。俺は幼かったし、父上も母上も薬の知識には疎かった。お人好しでもあった。それが災いしたわけだが」


 オルガン様の治療を始める際に、最初に調べたのはこれまでの治療の履歴だ。

 幸いにも全てではないけれど、発症してからどのようなことをしたのか、オルガン様のお母様が書き残してくれていた。

 その中に書かれていた薬の内容を見て驚愕した。

 まるで関係があるとは思えなような薬を使っていることが書かれていたから。

 いつだったか、ハープが薬の知識を持たない人を騙す薬師がいると言っていたけれど、まさにそういう人だったのかもしれない。


「まぁ、そんな怖い顔をするな。俺は今、その薬師に少しだけ感謝している。醜い顔でいたままだったから、こうしてビオラと出会うことができたのだからな」

「まぁ! 本当にオルガン様はお優し過ぎます! 私なんかより良い女性はいくらでもいるでしょうに。私はオルガン様とご一緒になれて、とても嬉しく思いますけれど」

「ははは。ビオラより良い女性など、探すのが難しいだろう。そんな女性を妻に出来て、俺は果報者だ」


 そう言いながら、オルガン様は隣に座っている私を引き寄せ、唇を優しく重ねてきた。

 馬車の揺れと、オルガン様の温もりを感じながら、いけないことだと思いつつ、私も少しだけ薬師に感謝した。

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