小川の爺さんの本性
この日の夜オレは一緒に来てくれた甲賀村の人達の手前上、1人だけ城で寝るのは申し訳ないし、あやめさんも居るから城下の織田軍の人達の空いているところにエアテントを設営して眠る事にした。
だがこんな時にも小心者だからなのか・・・夜中だろうがワイワイと織田軍の人達が煩いので中々眠れない。
オレが持って来たお酒は足軽の人達にも行き届いているようで、みんながみんなオレの所に挨拶に来る始末だった。立派な甲冑を着た人、ボロを着た人、何故か褌一丁の人まで居た。
つくづく不思議な世界だと感心してしまう。
「合田様、眠れませんか?」
「あっ、あやめさんすいません。座ってたら眠りにくいですか?」
「いえ。私は合田様より先に眠る事は許されませんので」
「いやいや気にしないでください!むしろ寝てください!なんだか少し興奮して眠れないだけですので」
「ではお話しでもしますか?」
可愛過ぎる・・・あやめさん・・・。
それから少しの間、他愛のない話をした。あやめさんは色々な任務に携わってきたみたいだが下々の人まで酒が飲める戦場は初めてだと。正確にはまだ戦にはなってはいないが、巨大な敵・・・武田を前にしても物怖じしてる足軽がいないとは素晴らしいとの事・・・
「オレは戦のいの字も知らないですからね。参加したくないのが本音ですが、竹中様の口振りからして恐らくそれは無理なのだろうと思います」
「未来では・・・この戦はどうなるのですか?」
「・・・・絶対に・・絶対に誰にも言わないと約束できますか?」
「はい」
ざっくりだがオレが知ってる三方ヶ原の戦いの全容を言った。10月に武田軍は2方向から同時侵攻してくる。遠江国と三河国にと。そして、武節城、長篠城、只来城、二俣城と次々と陥落してしまう事を言った。
「そして、浜松城にいよいよ到達するというところで、まさかの武田軍は素通りする。それに怒った徳川様が城を出て三方ヶ原台地に進軍するが、これは武田軍の罠。堅固陣を構築され・・・」
「教えていただきありがとうございます。合田様はこの事を伝えるのですか?」
「いや、正直言ったところで何が変わるか分からないから言うつもりはない。有沙さんが作った爆弾や、使えるか分からないけど里志君が改造した鉄砲もあるから多少は戦況が変わるかもしれないし」
「畏まりました」
うん?それだけ!?なんかもっと参加を促される気がしたんだけど・・・
「何もないのですか?」
「(クスッ)言い方は悪いかもしれませんが、私は合田様の身の回りのお世話と、護衛ができれば幸せです」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど・・・なんだかなぁ〜」
「では、私が戦に参加して武名を上げて欲しいと言えば参加されますか?もちろん私はそんな危険な事お願いするつもりはありません」
確かに参加してと言われてもできれば参加したくないが・・・ただ、もし戸をここでも使えるなら仕事の後、戦に参加とかなるのか!?
だが、本当に戦国時代の一員となり・・・あやめさんと一緒になるのならば経験しておかなければいけない気がする・・・。
「でも竹中様が色々考えてる事があるみたいなんだよ。織田様からの密命を受けているかもしれないし。だから家の入り口?出口?があるでしょ?あれを変更できるなら多分岡崎城に暫く置くと思う」
「そうですか・・・。少々勝手は違いますが変わらず私達でお守り致しますのでどうなろうとご安心ください」
「ありがとう。明日には戻るけど、帰ればみんなに何か贈り物しないといけないですね。あやめさんもありがとう。爆弾の使い方とかは竹中様にお願いしておきます」
「畏まりました。皆には早朝に伝えておきます。未来でのお仕事に支障が出るのはいけませんからね!」
オレはあやめさんの頬っぺに軽くキスをして目を閉じた。あやめさんには自然体で居れる。少し前ならこんなリア充如きのようなキスはできなかっただろうが、今やオレもリア充の仲間入りだ。
愚息が使えない事だけ辛いけど・・・。
少しの睡眠はできた。だが、やはり小心者だからかすぐに目が覚めた。そして訪れる便意だ。運搬車から念の為に持って来ていたセレブティッシュを持ち、織田軍の人達から離れ、茂みの中に向かう事にする。通称・・・野糞だ。
何回も言うがオレのケツはデリケートだ。開放感溢れる岡崎の地にオレの糞を勢いよく・・・とはならず・・・。ゆっくりゆっくり出す。切れ痔は怖いからな。
そしてケツを拭いて立ち上がると3頭の馬が城の方から出て来て勢いよく走っているのが見えた。乗っている人はみんな黒頭巾?を着てる人達だけどどう見ても・・・
「あれって徳川様だよね!?」
「おはようございます!合田様!」
「うを!?ビックリした!小川さん!?もう起きたのですか!?」
「当たり前ですじゃ!合田様がテントなる物から出られましたのでどちらへ行くにも1人では危ないですからな?あやめはまだ眠っているようですし、昨夜は燃え上がったのでしょう!?がははは!」
いやいや小川さんってこんな人だっけ!?それに燃え上がってなんかないよ!帰れなくなるんだから!
「何もしてないっすからね!?」
「おっ!?立派な糞ですな!?元気な証拠!良きかな!」
なんなんだよ!?この爺さんは!?人の糞見て良きかな!とか初めて言われたぞ!?
その後、バタバタとオレ達以外の織田軍の人達も起きてバダバタし出した。朝から元気なのは利家さんの隊の人達だ。足軽から名のありそうな人までみんなで朝の鍛錬をしている。そしてみんなガチムチ系だ。
そして、朝飯は徳川軍の人から差し入れされた物だが・・・
「硬っ!ってかしょっぱ!」
「久しぶりにこのような握りを食べましたが・・・贅沢を言うつもりはありませんがもう食べられたものではありませんね」
「うむ・・・俺もだ。武蔵!ツナマヨ握りはないのか?」
「慶次さん!朝から贅沢言わないでください!ここで出せばみんな欲しがるじゃないですか!」
「確かにだな。しょうがない。今日はこれで我慢するか」
出された握りは現代っ子のオレには正直辛い。籾殻も残っているし、塩が効きすぎている握りだ。
その後、すぐに竹中さんもオレの方に来て、城に向かったが・・・
「殿からの伝言です。明後日と約束したと思いますが7日程待ってほしいとの事でございます」
「は!?無理すよ!?」
「それは。それは。随分と身勝手な事ではございませぬか?」
「あ、いえ・・・そう言われましても・・・」
確かにこの門番の人はどうする事もできないだろう。やはり早朝に出て行ったのは家康さんで確定だな。
「竹中様、まぁまぁ。この人に文句言っても仕方ないでしょう。オレも予定がありますので今日こちらを経ちます。後はお任せしてもよろしいですか?例の件は甲賀の人達にお願いして持って来てもらいますので、設置は竹中様にお任せしても?」
「まぁ、合田殿がそう言うのならば・・・」
「門番さん?お疲れ様です。これでも舐めてください」
オレは何かあると色々な人に渡している飴玉を門番に渡した。
「え!?いいのですか!?」
「どうぞどうぞ。お疲れ様でした」
まぁただの飴玉なんか安いもんだ。たまにこういう人にも褒美がないとやってられないだろう。
「じゃあ、ここに爆弾とか置いておきますので竹中様?後はよろしくお願いします」
「分かりましたよ。帰りも気をつけてお帰りくださいね?次の訪問は・・・」
「多分10日後くらいになります。例の件が上手くいけば直通ですからね」
「それはそうとこの…………」
門番の男
こいつはなんだ?こんな男が居るなんて情報はなかったぞ?徳川は馬場様の言を確かめるために出て行った。後は織田の軍を確かめるだけだが・・・此奴が来てから織田軍の士気が上がっているように思う。俺が短刀で1突きすれば避ける事もできなさそうな男だが・・・いや、横の竹中は危険だ。
ただの門番の俺にも隙を見せていない。ここはまだ静かにしておくべきか。此奴はどうやら戻るみたいだ。時を見て一応報告はしておこう。




