出口の変更
「いくら織田殿の小荷駄隊頭とて、諱を呼び捨てとは無礼ではないか?ん?」
初めて表情が変わったな。いや確かに失礼すぎた。
「すいません!本当にすいません!まさかあなた様に出会えるとは思いませんでした!」
「今のは聞かなかった事にしておこう」
ペチン
「徳川殿、此奴にはアッシからよぉ〜く言い聞かせておきます!寛大な心をありがとうございまする。武蔵!お前も深く謝罪致せ!そして徳川殿が今生味わった事のない物を出せ!」
クッソ!食い物で許してもらえってか!?まぁこの時代では初めて見る脂肪で少し恰幅の良い人だけどよ!?
「羽柴殿の心遣い感謝致す。だが食欲が最近はないのだ・・・」
いやいやどの口が言ってんだよ!?痩せてたら信憑性高いけどそのお腹で食欲がないとかありえないんだが!?
「まぁそう言わんでください!此奴の出す飯は本当に味が濃くて美味いのですよ。実はアッシも楽しみにしてたのですよ!武蔵!準備致せ!」
「分かりました」
オレはまず、この時代の人みんなに出しているやきとり缶と湯煎でできる米を温めた。他にもサバの味噌煮缶や桃缶も紙皿に出した。
ちなみに調理ってほどもないが、さすがに室内ではどうかと思ったので庭を借りて調理した。
「ほっほ!これじゃ!武蔵!腹が減ったぞ!!」
「これがお館様が好きなかれいなる物ですか!?聞いていた色とは遠いような気がしますが・・・」
「平手様、これはカレーではなくただの缶詰です。カレーは夜にお出ししようと思っております」
信長さんの大好物は実はカレーだ。岐阜、尾張方面に至るまで遠乗り大好き信長さんがレトルトカレーを持参して方々で食べているらしい。それを見た各地の人が見た目はあれだが、一口食べるとこの世の物とは思えぬ味と言われているらしい。
平手さんは残念ながらまだ食べた事がないみたいだ。
「殿、毒味をば・・・」
「うむ」
信長さんと違って毒味役の人が居るんだ?まぁオレが毒を盛るって可能性もないように見えるよな。
「ハムッ・・・うむ・・むむむ・・・こ、これは・・・」
「おい!お前!?まさか毒か!?おい!貴様!何をした!?」
「殿!お待ちください!何でもございません!ただ・・・念の為にもう一度毒味をば・・・」
いやいや何でもう一度なんだよ!?まぁ美味いんだろうな。羽柴さんもニヤニヤしてるしな。
「おい!どうなのだ!?」
「はっ・・・問題ありませぬ」
「は!?ほとんどお前が食べているではないか!?どういうことだ!?」
「殿のお体に何かあるといけません故に・・・慎重に・・・」
「もういい!ここで、織田方がワシに毒を盛る理由がない!」
"あの方は飯に煩いから気をつけておけ"
羽柴さんが耳打ちしてくれたけど体型を見れば分かる。お米大好きなんだろうなって。
「こ、これは・・・」
「でしょう?この者が持って来た飯は美味いでしょう?」
「うむ。今まで口に入れてきた物で1番美味い・・・そして温かい・・」
「暫くはアッシ等も徳川殿と同じ物を食す事になるでしょう。この者の無礼をお許しください」
「ふむ。これ程の物が毎日食べられるならさっきのことは水に流そう。時にこれはなんという料理なのだ?」
「はい。まあ簡単に言えば焼き鳥丼ですかね?」
トントントン
「来客中ぞ。なにごとぞ」
「殿、申し訳ございませぬ。羽柴様も平手様も申し訳ありません。このような書状が届きました」
「ふむ。羽柴殿少し失礼をば」
誰からの手紙なんだろう?後は爆弾の説明して終わりなんだけどな。早く済ませないと帰れないぞ。
「いや、羽柴殿、平手殿相すまぬ。続きは目録にて確認致す。本日はこれまでに」
「ふむ。そうですな。では武器やなんかは明日にでも」
「いや、4日後に致しましょう。ちょうどそのくらいで腹心の酒井もこちらへ到着するでしょう。浜松は武田の間者が居るやもしれん。岡崎なら安心できますからな」
「そうですか。そればかりはどうしようもありませんからな。分かりました」
4日後とかオレは無理だぞ!?竹中さんにでも説明任せてオレは帰ろうかな・・・。
この日の夜は久々に後世に名前が残る人達と過ごす事となった。ここで活躍するのはやはりお酒だ。利家さん始めに羽柴さん、竹中さん、オレ達と一緒にではないが佐久間さんの小姓?らしき人が自分の陣にお酒を持って行っていた。
「オレは明日帰っていいんですよね?」
「ならぬ!帰ってはならぬぞ!武蔵君の飯がどれほど恋しかったか!」
「そうだ!徳川殿も武蔵の飯に虜になっているであろう!未来での商いなんかもっと休めばよかろう!」
「いやいや無理すよ!?せっかく正社員になったばかりですし辞められませんよ!」
「予想では長月までには攻め込んで来ると思っている」
いや長月って何月だよ!?本当の事言いたいけど、歴史に残らない小競り合いがあったのかもしれない・・・迂闊に言えないよな・・・。
「そうだな。やはり長篠城が激戦となるだろうな」
「い〜や、遠江の二俣城の方が激戦となるであろうよ」
「分かっておらぬな?武節城こそ激戦地となるであろう」
「んにゃ?ワシは全てが激戦地となると思うておるぞ?」
「なにを!?貴様もっぺん言ってみろ!」
「お前こそ戦のいの字も分かっておらぬ小童が!」
暫く言い合いが始まった。まぁ酔った勢いでというやつだろう。ってか、全てが激戦地と言ったおっさん誰だよ!?多分史実と同じなら当たりだと思うぞ!?
「己等ッッ!!!足軽でも誰でもかかって来い!!こうなりゃ角力で決着をつけようではないか!!」
「いやいや前田様!?何故に脱ぐのですか!?しかもまた相撲ですか!?」
「武蔵君!分かっていないようだな!若い者には時々こうなる事があるのだ!気にするな!さぁ来い!」
はぁ〜・・・。利家さんはどこに行っても利家さんだ。
「おぅ!!利家!!!やれ!!投げ飛ばせ!!」
羽柴さんまで酔っ払っているわ。
こんな中でも静かに飲んでいるのは竹中さんだ。
「静かですね?」
「ほほほ。私はあぁいうのは苦手なんですよ」
「そうなんですね。あのう・・知ってるとは思いますがーー」
オレが明日には帰りたいから後の事をお願いしようと言おうとしたが、竹中さんは被せて言ってきた。
「えぇ。分かりましたよ。私がてるみっと爆弾なる物の説明を致しましょう。それとどうせなら入り口?出口?まぁどちらから入るかによりますが変えてみてはいかがですか?ここ岡崎にでも一室借りて、私の腹心に見張りをさせましょう。さすればいつでも戦に参加できますよ?」
「へ!?いやいや戸の変更は考えてはいなかったですが・・・いやでも確かに元は城の池田様の部屋にあったから・・・」
「決定ですね。実は私もあなたが帰られるのが惜しいのですよ」
竹中さんが少し語り出した。この人も酔っているからだと思う。
竹中さんは織田軍の中でも異色なのだそうだ。元々は斎藤家に仕え、俗世を離れていたが羽柴さんに懇願され表舞台に舞い戻った。
今は羽柴さんの与力という立場だったが、オレが現れた事により信長さんからオレの目付け役というのに抜擢されたと。
ただ、昔から仕えている織田の人達には良い顔されないらしくそれは竹中さんも表舞台に戻ってくる時に分かってはいたらしい。だから文句なんかも言わないが・・・
「さぁ!次はそこの若い奴!遠慮なく来なさい!男なら頭からぶつかるのだ!」
あんな風に利家さんのような事もできないと。まぁあの人はあの人で頭のネジが外れているように思うけど。すぐに脱ぎたがるし。
「だが、合田殿は私に偏見なく接してくれる。ありがたい。合田殿は戦はまだと伺ったが、参加するつもりはないのですか?」
「オレは差別とか嫌いですので。戦に参加は・・・できればしたくありません」
「ほほほ。そうですか。とりあえず戸の件は考えておいてください。私も未来の酒を飲める事楽しみにしていますので」
最後の戦の参加の話の含みはなんだ!?信長さんから何か密命でも受けているのか!?




