1572年7月8日の青春
「ふむふむ。この歳になってもまだまだ知らぬものが多いな!南蛮の物は凄いな!まるで家ではないか!がははは!」
うん。この人は豪快な人だ。しかも聞けば意外な事実が分かった。なんと桶狭間の奇襲作戦を考えた人との事。しかも今川義元の本陣を事前に察知していたかなり有能な人らしい。
「ほほほ!簗田殿はこれよりまだまだお館様のために粉骨砕身働いてもらわないといけませんよ」
「なんと!?まだ働けと申すか!?そろそろ隠居したいのだがな?がははは!」
多分60代半ばくらいかな?全然40代後半と言われてもおかしくない見た目の人でもある。まずなんと言っても元気だ。
「行軍中、小荷駄隊ですのでそんなに渡せる物はありませんが・・・あっ、申し遅れました。合田武蔵と申します」
「うむ!簗田四郎左衛門政綱である!ここ沓掛城城主である!ゆるりと過ごすがよい!客人を外で休ませるわけにはいかぬ!ワシが外で寝よう!其方等は城で休むがよい!」
「いやいやそんなわけにはいけませんよ!普通に考えておかしいでしょう!?」
「合田様、我は藤田と申します。殿はその・・・外で寝る事が好きな方でして・・・『いつ如何なる時にも敵に遅れを取るわけにはいかん!』と言うお方で・・・」
「おい!藤田!お前は客人に何を教えているのだ!こんな治世じゃ!どこの家のもんが襲って来てもいいようにワシはいつでも出陣できるように外で寝るだけじゃ!」
いやこの人は最早変態の域だ。心意気はいいと思う。けどいくらなんでも外で寝なくてもよくないか!?
パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ
「うむ!この酒は初めてだ!武蔵!これはなんという酒だ!?」
「え?あぁ〜それは半カップ日本酒ですよ!」
「うむ!美味い!ウイスキー程ではないがこれもイケるな!」
結局はみんなで外で寝る事になった。そして本丸の庭で直火で焚き火をしている。簗田さんが許してくれた・・・というか寧ろ好きなようにしてくれ!と言ったからだ。この煙を見れば落城と思われてしまうように思う。
この人は本当に豪快な人で性格も分かりやすく面白い人だ。
「そうだ!小川と申したな!?ちょうどお主が六角の仕事をしていた時くらいじゃないか?その時ワシがお館様に言ったのだ!今こそ好機!戦線の伸びた相手なぞ恐るるに足らず!とな!がははは!」
桶狭間の事を色々教えてくれた。あの時、織田家は相当意見が分かれていたらしい。なんなら離反者もそれなりに居たそうだ。それを許せば戦う前に織田家は瓦解してしまう。
それをさせまいとこの簗田さんが今のような事を言ったと。そして、それを実現するためかなり危ない事をこの人はしたそうだ。
「水無月の月じゃった。あの奇襲を成功させねば尾張は今川治部に飲み込まれていただろう。雨が降り、敵に気取られにくい夜じゃった。お館様が突如突撃を開始し、他の者が諌めておったがワシはそれを後押しした」
「他の者?」
「あぁ。お主は小泉だったな?そのお主等が六角の草だった時であろう。大殿が逝去され、うつけと呼ばれていた三郎殿・・・ワシは・・・ワシは最初からあのうつけは演じているのだと信じておった!それが誠になったのだ!」
他の参戦した人は信長さんが・・・『うつけが突撃を始めた!!』と、方々で言い、それを辞めるように言っていたらしい。だがこの簗田さんはそれを押した。この奇襲が失敗すれば愚者として名が残る。織田も終わると。
だから成功させるべく、この簗田さんは少数で正面から立ち向かい、その間に信長さんが今川本陣に奇襲したとの事。
「ほほほ。簗田殿の若かりし頃の武勇伝ですな」
「うむ。だが今でも殿に激を貰えば仮に武田だろうが上杉だろうが単騎ででも突撃して敵を掻き乱してやるのだが最近はお声が掛からんのだ」
いやそれはもう歳だから、あぁ見えて信長さん優しいから気を使ってくれてるんだと思うぞ!?
「合田様、本日もお疲れ様でした。お体はなんともありませんか?」
「あやめさんもお疲れ様。大丈夫だよ。あやめさんは大丈夫?」
「はい!慣れない行軍かと思います。横になっていただけますか?」
「うん?横に?どうしたの?」
「うつ伏せにお願いします」
あやめさんはマッサージをし始めた。
「ちょ!あやめさん!?あやめさんも疲れているのに悪いですよ!?」
「静かに!他の方は昔話に華を咲かせています。今は2人の時間です!」
あやめさんは最近徐々にだが2人の時はくっついてくる事が多い。例の秘密のせいか体を交わせる事はできないがオレにかなり尽くしてくれている。オレも報いてあげたい。
そして、伊織さん。伊織さんと太郎君もずっとオレ達の隣に居る事が多い。オレが居る時は伊織さんは静かな事が多い。けど、あやめさんに聞くとかなりお喋り好きらしく慣れれば明るい子らしい。率先して洗濯や掃除なんかもしてくれる結婚すればいい奥さんになるだろうと思う子だ。
「そういえば、伊織が合田様にお願いがあるって言ってましたよ?」
「うん?なんだろう?うほ・・そこ気持ち良い!」
「(クスッ!)これからも下働きでも何でもいいから家に置いてほしいと言ってましたよ」
「うん?してもらっている事はそうかもしれないけど、伊織さんってどこか他の家に出る感じだったの?オレはてっきりずっと一緒に居るのかと思ってたんだけど?」
「そうですか。では本人に伝えておきます。合田様はずっと居ていいと言っていたと伝えていいですか?」
「いいよ!ってか、落ち着いたらオレから伝えるよ。ちゃんと決まった給金とかも出さないといけないしね!あやめさん!ありがとう!もういいよ!すっかり楽になったよ!」
「どういたしまして!」
苦節20年・・・人生で初めて青春と呼べる時期だと思う。
「ってか本当は岡崎に今日行く予定だったよね!?」
「はい。ですが竹中様が簗田様に挨拶するとの事で今に至ります」
簗田さんに会うことに意味があったのだろうか。そりゃ良い人みたいだし桶狭間の真実を知れたからオレとしては良かったけど1日遅れたって事だよな!?
次の日も変わらず早朝に目が覚めた。朝から元気なのは・・・
「がははは!合田殿!おはよう!」
「簗田様おはようございます」
「元気がないのう?それに顔が疲れておるぞ?もそっとシャキッとしなされ!」
最近みんなに言われるな。確かにかなり疲れてはいるけどそんなに顔に出ているのか?
朝飯はここに来て初登場の卵焼きを所望した。あやめさんを始め、オレの家に居る人達は食べた事がある。だがほかのみんなはないはず。卵はみんなのABC入り口横にある、地元直売品で売ってある物を購入したものだ。
Mサイズ60個1500円の箱に入っている卵だ。これを5箱持って来ている。消費期限はそんなに長くないだろうけど1週間くらいは大丈夫だと思う。
「うむ!長鳴鳥の卵とな!?お館様も食しているというのならばワシも食べねばなるまい!なに!?美味いだと!?」
簗田さんは1人でぶつくさ言いながら1人で完結し食べている。米はお握りだ。
「簗田様?泊めていただいた御礼に卵をお渡しします。日持ちしませんので5日以内くらいに城の人達とお食べください」
「すまん!これまた楽しみが増えた!!卵とこの黒い汁が誠に合う!美味い!」
醤油も好きなんだな。けど、醤油は小荷駄の荷物としてしか持って来てないからこれはまた今度だな。
「あれ?あやめさんなんで撮影してるの?」
「いえ、漆原様や一ノ瀬様が動画なるもので有名になれるかと思い、時々この行軍中も撮影しているのですよ」
「そうだったの!?知らなかったよ」
「なんじゃそれは?」
「あぁ、これは姿映しみたいな物ですよ。ビデオカメラと言います」
まぁそれから大変だ。簗田さんが慌てはためいて、城の家臣の人達が飛び出してくる。ご飯に驚き、カメラに驚きオレは毎回同じ説明の繰り返しだ。
「これは敵を映す事もできるのか!?」
「はい。できますよ。なんなら武田軍が見えるなら撮影して織田様にお見せしようと思っていたくらいですよ」
「そうかそうか。分かっているなら良い。其方は・・・合田殿の許嫁だな!?暫しそのかめらなる物をワシに貸してはくれぬか?ここを押すのだな?これをこちらに向け……」
簗田さんは自撮りのような感じで撮影を始めた。
「殿!!!簗田ですぞ!ワシは元気ですぞ!!がははは!たまには沓掛まで遠乗りにでも来てください!お待ちしておりますぞ!!」
「え!?簗田様!?これを織田様に見せろと!?」
「なんじゃ?変か?殿なら分かってくださる!きっと即日ここに来てくれるじゃろうて!がははは!合田殿!こっちこそ世話になった!初めて見る、初めて食べる物ばかりじゃった!これより東は徳川領だ!心して行け!何かあればワシに声を掛けてくれ!すぐに馳せ参じる!」
こういう事かな?竹中さんがこの人を引き合わせたのは。オレこの人好きだわ。大雑把のようで豪快な人だ。だが、あやめさん達を馬鹿にする事もなく、偉そうにもしない。部下にも優しそうだ。この人とはまた会いたいと思う。




