慶次の失敗
やっと1週間の仕事が終わった。スマホを見てみるとメールが入っていた。里志君からだ。
『おう!明日の昼くらいにそっちに着くけど予定はどんな感じだ?』
「おつかれ〜!大丈夫だよ!少し見せたい物・・・じゃないけど連れて行きたいところがあるから一泊できる準備しておいてくれるか?」
『はぁ!?旅行か!?そんなに金ないぞ!?』
「金なんか要らないから!とにかく準備しておいてくれ!迎えに行くからな!」
オレは里志君を戦国時代に連れて行こうと思っている。人力チートな里志君なら画期的な開発をしてくれるだろうと思う。
次は母ちゃんだ。
「もしもし?母ちゃん?」
『な〜に?どうしたの?』
「いや実はオレ・・・猟の免許を取りたいなと思ってるんだ」
『はぁ!?猟!?また何で!?』
うん!?意外に拒否されない感じか!?
「理由は・・・命の大切さを知りたいんだ!それに仕事先の上司も猟友会に入ってたみたいで爺ちゃんの知り合いだったらしいんだ」
『まあ最近では若者不足で猪やら鹿やら猿が悪さして大変とは聞いているけど・・・』
「母ちゃんは反対しないの?」
『お母さんは反対はしないよ。お父さん・・・武蔵から見ればお爺ちゃんは大工と猟師で生計立ててくれてたからね。でも大変よ?』
「分かってる。上司の人にも色々聞いたんだよ」
『そう・・・。ならお母さんは武蔵を応援してあげる!やる事は分かるの?お母さんが手伝ってあげようか?』
「いい!いいから!自分でできる事はするから!母ちゃん!ありがとうな!」
我が母ちゃんながらスーパー母ちゃんだと思う。意外にもすんなり許しが出たし。まあ、これに関しては来週から動こう。
そしてこの日も最早ルーティンとなりつつある6店舗のガソスタに行き燃料補給。冷蔵庫も稼働しているから色々な食材の買い出しだ。
特に肉!体を動かしだしてから肉が食べたくなる事が多くなった。
ちなみに発電機の燃費は、定格時とかエコノミー時とかでかなり変わるが、エコノミー運転ならだいたい24時間計算で20ℓポリタンク1つ分だ。
これが燃費がいいのか悪いのかは分からないが、毎日軽油を人海戦術で購入していても賄えると思う。5日に1回オイル交換なんかもしないといけないがランニングコストは信長さんから褒美を貰ったりすればなんとかなりそうだ。
慶次さんが夏場にエアコンジャブジャブ使ったりすればヤバくなりそうだけど。それに岐阜城にも色々設置しないといけないよな。冷蔵庫とエアコンがあるだけでも快適具合は変わると思う。冬場は石油ストーブとコタツを渡せば問題ないだろう。
またまた大量の食べ物や飲み物を持ってトイレを潜る。ちなみに、普段のオレのトイレは仕事場の最新式のウォシュレットで終わらせている。オレの尻はデリケートだ。優しい温水がないとダメになってしまったのだ。
「こんばん・・・わ?あれ!?慶次さん!?何してるのですか?」
ドアを潜るとそこには慶次さんが正座をして待っていた。
「うむ。武蔵を待っていた。そこに座ってくれ」
初めてこんな真剣な慶次さんを見た。何か悪さでもしたのかな?
「どうしたのですか?マヨネーズチュウチュウをまたしてしまった感じすか!?」
オレはこの空気を和らげるように冗談ぽく言うが、オレが戦国時代へ来たのが分かると、利家さん、秀吉さんまで現れた。その事でただ事ではないと分かった。
「久しぶりだな。武蔵」
「木下様、お久しぶりです。前田様もお久しぶりでございます」
「まず・・・此奴を推した俺がまず謝る。すまなかった。恐らく此奴は直に首が飛ぶであろう。だが致し方あるまい」
は!?首が飛ぶ!?何故に!?話が見えてこないんだが!?
「アッシから言おう。この武蔵の家の大きさでは下男や下女が数人居るのが当たり前だ。だが武蔵はあまり知り合いやらが居ないだろう?」
「はい。皆様以外では知り合いはいません」
「うむ。それでこの慶次が人を見つけると言って昨日までに3人仕える者を見つけて来たのだが、その1人が近江出身の者でな?後は言わなくとも分かるな?」
近江出身・・・浅井長政か!?
「浅井家の間者だった感じですか?」
「恐らくそうであろうよ。しかも何点かなくなった物もあるそうだ。のう?慶次?」
「誠に申し訳ない!あれ程身辺には気を遣っておったがまさか近江の間者だとは・・・」
ドガンッッッ!!
「言い訳するな!!いつも酒ばかり飲み女に現を抜かす奴であった!だが戦働きが良いからと目を瞑っておったが今回は許せん!」
「前田様!!落ち着いてください!それで何を取られたのですか?」
自分で聞いたものの、そんな名前なんか覚えていないだろうと思い、荷物を纏めていた部屋に自分で見に行く。
色々持って来たから何がなくなったかイマイチ分からないけど、別に戦的にもそんな重要な物はなかったと思うけど・・・。
けど確かにない物がある。虚仮威しで使えるかと思い持ってきた、ロケット花火100円ライターや懐中電灯、電池。後は缶詰が持ってきた以上に少ないように見える。
それと、ぼったくるつもりではないが付近で売ろうと思っていたビー玉やガラスコップなんかも数点なくなってるかな?
まあほぼほぼ100均で揃えた物だし害はないかな?
「武蔵君、何を盗まれたか分かったか?」
「あ、はい。分かりました。けど別に大した物ではありませんよ。花火なんか使い方分からないでしょう?ライターは火攻めに使われるかもしれませんが。後は食い物なんか一つ2、300円くらいですし問題ないですよ」
「に、さんびゃくえんがどのくらいの値段かは分からぬが値段の問題ではないのだ。こうも容易く間者に・・・しかもお館様の喉元に潜ませるとは許し難い」
「この話は織田様は知ってるのですか?」
「まだ言っていない」
「なら構いませんよ。慶次さんも反省してるでしょう?後はオレが上手いこと言いますので堪えてもらえませんか?」
「いや、それはいかん。もしこれが大事になればーー」
「大丈夫です。絶対に何も起きません」
「まぁ、武蔵がここまで言うんだ。又左殿は身内で許せんやもしれぬが誰しも失敗はあるだろう?」
「う〜む・・・」
「叔父御!それに武蔵・・・誠に相すまぬ。腹を斬れと言うならすぐにこの場で斬ろう。だがもし許されるなら二度とヘマはしない」
「まぁお館様次第だ。武蔵君の言に全ては掛かっている!暫く蟄居しておれ!」
なんか思った以上に大変なんだな。あれがレミントンとかならやばいと思ったが、まあロケット花火を仮に向けられても大した事ないだろう。
オレは利家さんと久しぶりに登城して信長さんに会う事にした。オレはくれぐれも早まった事をしないでほしいと慶次さんに言って留守を任した。
「おう!武蔵!久しぶりではないか!なんでも丁稚から一端の商人になったそうだな?」
何も事情を知らない池田さんが話し掛けてきた。慶次さんの事は言わない方がいいよな。
「はい!なんとか頑張っています!また近々色々お渡ししますよ!」
当たり障りない返事をして、小姓の遠藤さんに通してもらう。
「久しぶりじゃな。なんぞ面白い物でも持ってきたのか?」
「あ、はい!実は家に色々持ってきています。また見に来てください!それでですね・・・実はオレの家にーー」
オレが切り出そうとしたところ利家さんが被せて言った。
「お館様!!申し訳ございません!!間者を取り逃してしまいました!」
するとさっきまで少し機嫌が良いと思ったのに急に機嫌が悪くなった。何故それが分かるかと言うと、センスをパタンパタン鳴らす癖があるからだ。
「どこの間者か分かったのか!?」
「近江方だと・・・」
「どこに潜んでおった!?」
「武蔵君の家にです!」
ゴツンッ!!!
するとすぐに拳骨された。しかもまあまあ本気でだ。
「痛っ!!いってぇぇぇ〜!!!」
「痛いもへったくれもない!!身辺には確かお主の甥を付けていたのではないのか!?何故取り逃した!?」
そこからさっきオレが聞いた事をそのまま伝えた。本来ならオレはこんな大事な感じで言わずに缶詰を数点盗まれました!また補填しておきます!で終わらせる予定だったのに・・・。
「沙汰を申し付ける!即刻切腹じゃ!!」
いやいや展開早すぎだろ!?こんな事で切腹とか慶次さんに死なれれば困るんだが!?まだ町娘を紹介されてないんだけど!?




