いざ小谷へ
「ほほほ!またまた面白いメンツになりましたね!敵対してるとはいえ季節の贈り物を届けに参るとは」
「チッ。何で敵にわざわざ澄み酒やウィスキーを渡しに行くんだよ!俺が全部飲んでやろうかと思っていたものを」
「まぁそう言うな!お館様なりの考えがあるのだろうよ。お市様の立場も考えねばならぬであろう」
5月3日・・・現代ではGWに入ったところだ。ゴールデンウィークというのにオレ達は竹中さん、慶次さん、オレ、あやめさん、池田マダム、丹羽さん、小川さん、小泉さんとで近江に向かっている。
里志君や有沙さんは今回はお留守番だ。お留守番と言っても、正確には船の建造だ。上物に関しては安宅船ではなく竜骨船の建造だ。安宅船は安宅船で浅瀬まで入り込めるというメリットはあるが、どうしても外洋には出られない。
今回の里志君達の任務は琵琶湖を跨いで一気に京に雪崩れ込める兵を収容できる船の建造だ。動力はこの時代なら人力だろう。だがオレ達は違う。
「それにしてもあの2人は本当によく作るよな。ワシが総奉行だが鼻が高い!エンジンと申す物は合田が調達したんだろう?」
「えぇ。さすがに新品は購入できませんが、意外にも簡単に購入できましたので」
船の動力・・・エンジンだが意外にも簡単に手に入った。某フリマアプリにて試しに探してみると普通に売ってあるのだ。それを購入して、そのエンジンのメーカーのサイトに飛び、田中さんと一緒にPDFファイルをダウンロードし、印刷して試行錯誤しながらみんな船作り初心者ながらなんとか試作船までは出来上がっている。
そして、工業力の方だがこれは格段と上がっている。今までネジやクギなんかは現代の物を使っていたが里志君監督の元、この時代でも鋳型を作り、規格を統一して作る事にしている。
それをする事により、鉄砲などの精密部分なんかも狂いがなくなり暴発の心配もない。作り手によりどうしても差が出てしまうところが、それが今は少なくなった。国友さんがそれに関しては嘆いていたけど。
尾張の国友銃というブランドはそれなりに高い。だから、前装式ではなくバネを使った後装式銃の開発に成功。火薬は有沙さん特製のニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトログアニジンを組み合わせた無煙火薬を使った銃だ。ちなみに、この後装式の銃は今のところ名のある将にしか配られていない。
他国にいずれ真似されるだろうとは思うが今のところは織田家一番の秘密だ。その国友銃の加工場は岐阜城の北側にある蝮村の真ん中にある大きな大きな建物内だ。
話を今に戻そう。何でオレ達の中に丹羽さんが居るかと言うと、関ヶ原を抜け少し南に進んだ佐和山城に用事があるからだ。この佐和山城は今は丹羽さんの居城だ。ここは今もっとも重要な城の一つだ。
この城を降りた所に突貫工事で秘密施設を作っている。それが船の加工場だ。尾張で作った部品をここで組み立てる、いわゆるプレハブ工法を採用したのだ。その視察も含まれている。
「恒の親族よ。喋るのは初めてだな?」
「はい!池田綾子と申します!」
「恒とは違う性格のようだな。まぁ良い。ワシの信頼する者を護衛につけてやろう。その代わり今度、ワシの茶室にある茶道具の鑑定を頼む。個人的に堺より取り寄せた唐物なんだ」
「はい!喜んで見させてもらいますよ!」
池田マダムは池田マダムで丹羽さんとお近付きになれたようだ。
佐和山城・・・現在の滋賀県 彦根市の佐和山にある山城だが・・・
「でっか!!ってか大きすぎる!!」
「ふははは!ワシは正直な感想は好きだぞ!見てみろ!尾根に続く曲輪群を!櫓も至る所に普請してある!どこから敵が押し寄せてこようが1年だって落とされはせぬぞ!」
丹羽さんが自信満々に答えた佐和山城・・・その自信は本物だと思う。左右の尾根に続く、遠くからでも見える曲輪、櫓、しかもその櫓にはオレが持ってきた据え置き型の一台5万円もした双眼鏡を配置してある。
そして肝心の城だが、三の丸から続き本丸まで前装式の大砲まで備えてある。ちなみにだがこの大砲はオレと里志君、有沙さんの力作だ。力作と言っても作ったのは国友さんだけど。
〜1ヶ月前〜
「へぇ〜!?大筒砲ってもうあったんだ!?」
「舐めるなよ!?これはワシが作った国友大筒銃だ!大殿にもお褒めをいただいた代物なんだぞ!?」
「そうなんだ?なら私達はもっと大きいの作ろうよ!カノン砲とかいいんじゃない?合田君は何がいい?」
「そうだな〜・・・どうせ作るなら法もなにも縛りないんだから一撃で敵を畏怖させる高射砲なんかどうかな?」
「ばか!高射砲使うような戦なんてまだまだ先だ!ここは男のロマン青銅砲よ!それならこの時代だけでも作れるしな!」
「おっ!里志君いいね!鋳造砲だから作り方さえ覚えればすぐに作れるじゃん!それに砲身を長くして火薬箱の量を多くすれば飛距離も伸びるじゃん!」
「武蔵は分かるか!」
「ちょっと!合田君も里志も、私は女なんだけど!?」
「あのな・・・」
「うん?国友さんどうしました?」
「そのカノン砲というやつはワシの大筒より凄いのか?」
「そうですね・・・まあまあ差はあるかも・・・そもそも弾の大きさも違うと思いますよ」
「すまん!それをワシに作らせてくれ!この通りじゃ!新式国友大筒をなんとしてもワシに・・・」
と、こんな問答があり、あれよあれよとオレ達現代組が色々注文して出来上がった青銅砲が各地の織田家でも最重要な城に装備されてある。その青銅砲がここ佐和山城に装備されてあるのだ。
この佐和山城に装備されてある青銅砲の弾丸は丸い鉄だ。本当は榴弾を装備させたかったがその時間がなく、これはまだ例の蝮村で日夜、有沙さんがこの時代の人達に色々教えているところだ。
「まぁこんなところではなんだ。中に入ってくれ!いつ誰が来てもいいように本丸もそれなりにしているんだ!」
「はい!」
いずれ城持ちになるオレの野望のためにこの佐和山城も参考にしようと思い、写メを撮りながら本丸に入った。




