武蔵の怒り
出てきたメニューは大根の味噌漬けかな?それに、濁り酒か?酒は苦手なんだけど・・・それにまだ頼んではないのにあれよあれよと出てくるんだけど。
「はーい。焼き握りと山菜の煮物だよ〜」
「ありがとうございます!とりあえずこれで大丈夫です!」
「はいよ」
正直肉とかあるかと期待したけどそんな事はなかった。まあしょうがないか。
「あやめさん!食べましょう!」
「は、はい」
なんだろうか・・・視線を感じるし無言だ。この空気嫌いなんだけど・・・。
「殿方様?味の方はいかがかしら?さぁ一献どうぞ」
「あ、すいません。美味しいですよ!ありがとうございます!」
「店主様?もう少しゆっくりにお願い致します」
「・・・・・」
うん!?オレがおかしいのか?明らかにこのお姉さん、あやめさんの事無視したよな!?ってか酒には強くはないが、やたら酔うのが早い気がするんだけど・・・うへぇ〜・・・気持ち悪い・・・。
「はぁ〜い。お待たせしました!珍しい能登のお酒です。特別ですよ?男前な殿方にしか出さないのですよ?」
「能登・・・の酒?すいません。お酒はもう・・・」
「クスン・・・あたいのお酒は飲めないのですか??」
さっきから思うのんだがこれはあれか!?戦国時代のキャバか!?やたらボディータッチ多いし飲ませようとしてくるんだが!?
「すいませんすいません!飲みます!飲みますから!!」
「(クスッ)ほんにありがとうございます」
ふん。ちょろい男さね。こんな刻に外出してくる男なんざ大した身分ではないさね。それに護衛は本当にあやめだけみたいだし。
大事な大殿や滝川様の客人ならばもっと大勢の護衛が居るはず。それにこんな刻には外出できないはず。
「もう一杯どうぞ?」
「あ、いや・・・そろそろお暇しようかと・・・」
「なら後、一杯だけど・う・ぞ?」
チョンッ
「へ!?え!?な、なんすか!?」
「ふふふ。可愛い殿方ですね?」
いやいやこの店主のお姉さんは魔性か!?今明らかにオレの愚息触ってきたよな!?一般的な陽キャならこのまま流れに身を任せてワンナイトラブでも決め込むだろうが、こちとら彼女居ない歴=年齢の陰キャだぞ!?
「合田様!城へ戻りましょう」
「へ!?あ、あやめさん!?」
ちょ!ワンチャン魔法使い卒業できるかもしれないのに何故だ!?いやいかん・・・酔いすぎた・・・
「ゲェ〜〜〜〜・・・・す、すいません!!」
オレは立ち上がると同時に盛大に吐いてしまった。
「な、な、なんだい!?ばっちぃ〜」
「店主様すいません!自分で片付けますのでーー」
「当たり前さね!うわぁ臭い!!」
さっきまで優しかった店主とは正反対。ゴミを見るような目だ。
オレはここで少し酔いが醒めた。ワンチャンと思っていたがそんな話しあるわけないよな。ぼったくる気だったのだろうか・・・。
「あやめさん!?ちょっと!?オレが自分で拭くから・・・」
「・・・・・・」
あやめさんはオレが吐いたものをジャンパー代わりに着ていた蓑で綺麗に掃除をしてくれた。
「あやめさんすいません!明日新しい服お渡ししますので!!!本当にすいません!!!」
あぁ〜。終わった。こんなダサい最悪な男・・・オワタ・・・。
「いえ。このくらいなんともありません。それに蓑くらい大したものではありませんので。奥に水汲み場があります。口を濯がせてもらいましょう」
あやめさんが優しくオレにそう言うと肩を支えてくれ、店の中にある調理場?の方は連れてってくれた。
「え!?あやめさん!?勝手に中に入るのはーー」
「かまいません。大丈夫です」
「大丈夫って・・・」
「あやめ!あんた誰がここに連れて来ていいってーー」
「黙れ!」
オレは耳を疑った。いやさっきかなり失礼な事は言われたけど、温厚なあやめさんが声を荒げるとは思わなかったからだ。
「あん?あやめ?いったい誰にその口聞いてるのか分かってるのかい?」
「はい。分かっています。私の事をどう言おうが何も思いませんが合田様の事を悪く言われるのは我慢なりません」
オレは気分の悪さと理解するので必死だ。ここの店主とあやめさんは知り合いだったって事!?ってかあの包丁・・・それによく見るとあの店主が腰に巻いてる布は・・・。
「あやめさん?まさか・・・ここでバイトしてる!?」
「確か・・・ばいととは働くという意味でしたよね?残念ながら違います」
かぁ〜!!!自信満々に聞いたのに恥ずかしいじゃねーか!!しかもあやめさんは言葉を覚えようとしてるし!
「じゃあなんであやめさんに渡した包丁がここにあるの?」
「おや?その包丁はこのあやめがあたいにくれたのさ。そしてここは新参者、流浪の者などが集まる憩いの場さ」
「え!?」
「新参の者や流浪の者達は皆、夜に動こうとする。そして酒を求めてここへ来る。酒が入った殿方から色々聞き出し、あたい達はその情報を集め、銭で上に申し上げる。それが仕事さね」
嘘!?ならここはスパイが集まる場所なんか!?うん?けど包丁はどういう意味だ?
「包丁をあなたに渡す意味が分かりませんが?」
「合田様!すいません!決して自ら渡したわけではございません!」
オレは瞬間的にムッとした。なんともいえない感情。良い意味ではない。むしろ不快な感情だ。
そしてそのオレの内情を分かってると言わんばかりのこの店主の女。悪そうな顔でオレに語りかけてきた。
「だからこれはあやめがあたいに店を切り盛りするのに使ってくださいって献上してきたのですよ?あたいは仕方なく貰ったのだけどまさか貴方様が渡した物とは知らず・・・すいません。これはあやめにお返しーー」
オレは汚い言葉や相手を罵る言葉を本気で吐いた事はないが自然と出てしまった。
「舐めてんのか?人の物取り上げるなんか泥棒じゃないか。倫理観の糞もないのか?」
「いや、だからいただいたとーー」
「それこそちゃんちゃらおかしい事ですね?オレは最初からあやめさんしか信用していない。あやめさんは渡していないと言った。後はあんたの方が先輩ぽいけど、奪った。それにその腰に下げてるタオル。それもオレがあやめさんに渡したやつだ」
「チッ。頭の悪い男かと思いきや意外に分かる奴かい。それで?あたいをどうしようと?」
「警察なんか居ないしな。どうしよっか」
「キャハハハ!あんたがどのような身分かは知らないがどうせ大した男じゃないだろ?少し銭は持ってそうだがね?じゃあこうしないかい?」
「は!?」
「まぁお聞き。あんたに飲ませた酒や食い物は本当に質の良い物だったさ。それにあやめより'貰った'物は返す!あんたはその袋いっぱに入った銭をこっちに渡す!そしてあんたはあやめに惚れているようだし、あやめの暴言は咎めなしにしてあげる!それでどうかしら?」
「合田様!私の事は気にせずーー」
「いやそもそもなんで、あやめさんの暴言があんたが咎めなしとか仕切るわけ?」
「そりゃ、あやめは草の身分だからさ。あやめが居る草の集団を纏める長があたいさ」
「え!?ならクノイチの頭領はあなただったのですか!?」
「諸国を歩き回ったけどあんた程訛りが酷い人は初めてさね。あたいの上は滝川様。だけど必ずしも滝川様に従うわけではない。謂わば独立集団さね。そしてこのあやめには妹が居る。その里を管理してるのもあたい。この意味が分かるかい?」
って事は里親的な事もしてるのか?なら案外良い人じゃね!?
って思ってた自分をぶん殴りたいくらいの事をこの店主は言いました。