謹賀の儀1
「合田殿御一行はこちらへどうぞ。お館様より1番近い席にしろと言われておりますので」
「マジすか!?まぁ分かりました・・・」
遠藤さんに案内されオレ達は謹賀の儀という会に出席している。要は新年の挨拶をする会だ。信長さんにおべんちゃらを言う会みたいな感じでもある。そして席は確か近い人から信頼してる人って意味だと聞いている。まさか信長さんの右側にはオレ達が1番近い。
メンツは去年の三方ヶ原で織田家を裏切った人もたくさん居たらしい。その人達の事は誰かとはよくは分からないが、とにかく今年の謹賀の儀は随分と人が少ないらしい。
「ほほほ。佐久間殿と仲直りされたみたいですね?」
「いったいどこでそんな情報が出てくるのですか?竹中様も忍者とか雇ってるんですか?」
「はて?それはどうでしょう?神眼と言ってほしいものですね」
よく言うぜ。多分、家に居る下働きの人達に竹中さんの人が入っているんだろう。別に気にしないけど。
「武蔵!?さすがに俺も緊張してきたんだけど、なんで武蔵は緊張してないんだ!?」
「そうよそうよ!合田君が1番落ち着いているよ!?」
「里志君も有沙さんも普通にしてればいいだけだよ!それにこれから伊右衛門さんが運んでくれるご飯はオレ達が持って来たものなんだし」
「確かによくあんなにミートボールやピザとか持ってきたな」
「まぁオレが食べたかったってのもあるし、正月料理ではないけどそんな事オレ達しか分からないわけだし。それに信長様から『珍しい物且つ、皆が食した事のない物を頼む』って言われたしね」
「でも所々関西弁の人達も見えるよね!?」
「さすが池田さん!あの人は一度オレの商店に来た事ある人です!今井宗久って人ですよ!ってか、二日酔い大丈夫ですか!?」
「なんとか大丈夫よ!歴史に立ち会っているんだから吐いてる場合じゃないの!」
池田さんは二日酔いらしく朝は気分が悪いと言っていたが、なんとか登城している。知らない女性を登城させる・・・しかももれなく全員初見だ。
一応他の人から見れば飛ぶ鳥を落とす勢いの合田家らしい。みんながチラチラオレ達の方を見てくるのが分かる。しかも小声で里志君や有沙さんの事を言っているのも分かる。
"あれなる夫婦が焙烙玉の制作者らしい"
"ふむ。線が細いのは合田殿と同じか。あまり目を合わせるな!後で挨拶に伺う"
"それにしても嫁の方の一ノ瀬嬢は中々エグい作戦を立てるらしいぞ"
"いやそれを実行された合田殿こそ悪鬼羅刹よ。敵には回したくないものだ"
全っ部聞こえてる。何が悪鬼羅刹だ!酷い言われ方だな!?まぁ有沙さんのイメージは間違いじゃないような気がするけど。
「ねぇ?合田君?敵を一度に纏めて爆殺するのってそんなにエグいのかな?この時代の人は拷問とかするんでしょ?そんな事させるよりかはよっぽど優しいと思うんだけど・・・」
「え!?いや、まぁ・・・ははは。一言坂で武田の兵は確かに恐怖に塗れて死んでましたよ!いやぁ〜、さすが有沙さんの考えたテルミットです!」
やはり危険な考えを持っているのは有沙さんだ。
「おう!武蔵!おめでとう!飛脚の者から謹賀の贈り物をいただいた!礼を言うぞ!」
「羽柴様!お久しぶりです!」
「うむ!ねねが喜んでおったぞ!髪の毛を洗う液と菓子を贈ってくれたそうじゃな!今年もよろしくな!おう!尻の大きい姉ちゃん!おめでとう!」
「ちょっと!羽柴様!」
「おぉ〜漆原は怖い!怖い!アッシに取られたくなければはよう祝言をあげい!ははは!」
新年早々セクハラか!?既に酔ってるのか!?
「サルめが!人の妻になんていう事を言っておるのだ!跪け!漆原と一ノ瀬殿が許しても某は許さぬ!」
「ち、違う!柴田殿!これはアッシと漆原との挨拶なのじゃ!!のっ!?のう!?一ノ瀬!?漆原!?そうじゃのう!?」
「柴田様、構いません。もし今度何かされれば俺も羽柴様の秘密を教えるので許してやってください。有沙もそれでいいよな?」
「うん。まっ、今回は言葉だけだし別にいいかな?」
「うむ。2人がそう言うなら堪えるとするか。サル!以後気をつけい!」
やはりこの中で貫禄が違うのは柴田さんだ。
ドスドスドス
オレ達がガヤガヤしてると廊下から乱暴な足音が聞こえた。この城の主・・・信長さんだ。
「み、皆の者!静かに!お館様の・・・おな〜り〜!」
遠藤さんが掛け声を掛けると自然に姿勢を正してしまった。そして、他の人もそれは同じだ。真正面に向き、頭を下げる。
「皆の者静まれい!新年早々に喧嘩をするな!」
「内輪で喧嘩できる程余裕があるって事でっしゃろな!前年の武田なぞ何する者ぞ!って事ですかな?」
「ふん。今井め。其方の謹賀の贈り物は見事だ!あれは唐の茶入れであろう?天下の名物だ!後でワシからも褒美を取らしてやろう」
「はは!ありがたき幸せ!」
「皆の者も面を上げい!西は堺から東は遠江まで遠路はるばるよう参った。まずは飯を食ってからだ!」
パンパン
信長さんが手を叩くと、伊右衛門さん率いる台所衆の人達が色々な料理を持ち現れた。とても正月の料理とは言えない数々だ。ピザ、ミートボール、カルボナーラパスタ、チョコパン、サーモン寿司、紅白カマボコ、キムチ。
他にも缶詰から取り出した焼き鳥、サバ煮、卵焼き、飲み物は思い浮かぶ酒という酒を有りったけ用意している。お酒が苦手な人には果物100%ジュース、コーラ、サイダーと正月料理とは程遠いメニューばかりだ。
ちなみにこれを渡したのは一昨日だ。一昨日の夜時点でオレが食べたかった物を伊右衛門さんに渡したわけだ。
そして、50名ほど詰めているこの大広間・・・全員をゆっくり信長さんが見渡し箸を持つ。
「うむ!鮭の寿司は見事だ!後程詳しく紹介するがこの謹賀に相応しい飯の数々を用意したのは織田家 相伴衆の合田武蔵だ!気にせず食べてよい!武蔵?貴様もまずは食え!その後は余興ぞ!ははは!」
なんか知らないけど余興とか言われたんだが!?




