池田マダムとデート
池田マダムと近所のコンビニに来ている。あやめさんに沢彦和尚の相手をお願いし、すぐにコピーして戻るという事を言っている。
「合田君?本当に現代の作り方教えるの?麹とかどうするの?」
「いや実は段階をおって教えてもいいかなと思ってるんですよ。ここ見てください」
スマホで清酒の歴史というのを調べたページを池田マダムに見せた。そこには・・・
《1600年(慶長5年)頃、鴻池家の酒蔵で金を使い込んだ使用人が蔵を追い出された事への腹いせに酒に灰を入れて逃げました。その酒を確認すると酒は澄んで、味がきれいでまろやかになったことから、鴻池新六という鴻池家の当主が酒に灰を入れると酒がよくなると知り研究を重ねました》
「これを先に教えてもいいかな?とも思っています。30年程時代を先取りですけど」
「それがいいかもね。なにもお酒のお金を寺社に全部取られなくてもいいわけよね?合田君が会社でも作って織田家の中で作ってもいいわけだしね?」
「そうですね。ただ、もしオレ達が本当に酒作りして出来上がったとしても、このお酒の値段は法外な値段くらいにしてもいいかもしれませんね。瑞龍寺より安くしないと沢彦和尚達も旨味がないでしょう?」
「合田君も分かってきたわね?私達が作るお酒は値段を高めに設定して、且つ売る人も厳選すれば更に希少価値とか上がるかもしれないわね!じゃあ、こっちの灰を入れる方法や、牡蠣貝殻を入れる方法を教える事にしましょう!濾す方法も教えないと!」
何を楽しくコンビニで正月早々池田マダムとコピーしているのか。店の中の客はオレ達だけだ。年配の店長らしき人の顔は疲れた顔をしている。御苦労な事だ。
オレ達があれもこれもとコピーをしているとまさかの人がやって来た。
「あれ?綾ちゃんじゃない?それに合田君!?なにしてるの!?」
「しゃ、社長!?」 「由佳ちゃん!」
そう。社長だ。しかも部屋着ぽいラフな服装の社長なんて初めて見た。あのタワーマンションからかなり距離が離れてるのに何でピンポイントでこのコンビニで鉢合わせになるんだよ!?
「もしかして・・・デートだったかしら!?」
「いやいや違いますって!!」
「え?合田君・・・そんなに必死にならなくてもいいじゃない・・・」
「いやいや池田さんまでなに言ってるんですか!?」
「合田君・・・あなた若い彼女居たでしょ?あの所作が素晴らしい子よ!別れたの?それで綾ちゃんと!?」
「いや違いますって!!」
「ふふふ。冗談よ!綾ちゃんとは古い付き合いだからね。からかっただけよ。それにしても本当に2人で何してるの?」
オレと池田マダムはしどろもどろになりながら仕事の事で話し合っていると伝えた。
「へぇ〜?そんなに私のお店の事考えてくれているの!?」
「は、は、はい!当たり前じゃないすか!」
「その紙がそうなの?なにを話してたの?」
ヤバイ・・・誤魔化しきれない・・・。
「そんな事より!由佳ちゃんは何でここに来たの!?」
池田マダム!ナイスプレイ!
「うん?普通に買い物だけど?私はもう実家とかないしね?正月も1人寂しくよ。よかったらうちに来ない!?」
いやあのタワマンかなり興味あるっちゃあるけど謹賀の儀があるから・・・
「ちょっとだけお邪魔しよっか。ね?合田君?」
昔からの知り合いだという池田マダムがそう言うんだ。従うしかない。あやめさん、沢彦和尚!少し待っててくれ!
社長の車はスリーポインテッドスター・・・所謂ベンツだ。来る時はオレの軽トラで来たわけだがタワマンに向かう時は池田マダムは社長のベンツに乗った。そりゃそうだろう。
タワマンに似合わないベンツと軽トラが入る。社長は奥の駐車場に消えていった。オレは入り口前の御客様専用駐車場と書かれているところに車を止めた。
2分程待っていると2人が現れ、社長はセンチュリオン輝くカードを取り出し、駐車場の精算機にスライドさせた。
「これでいいわよ。帰る時はそのまま帰っていいからね」
「あ、ありがとうございます!」
「今日は業務じゃないから崩した話し方でもいいわよ?それと肩の調子は大丈夫?」
「いや、口調はこのままでいきます。肩の件は大丈夫です!痛みもありません!それと遅れましたが、ボーナスと給料ありがとうございました!助かりました!」
「その口振りだと予想以上だったかしら?経理に任せているんだけど、合田君だけは私が指定したのよ?感謝しなさい!ふふふ」
まさか酔っているのだろうか・・・。最後の『ふふふ』が意味深だ。
8階が社長の部屋だ。その前にまずビックリした事・・・入り口潜ると1階に噴水?みたいな水が出ているところがあった。その横にはコインランドリー、ジム?みたいな器具まで置いてある。
「しゃ、社長!!?これは!?」
「うん?コインランドリーと入居者専用のジムだけど?」
いやサラリと答えるけど普通そんなのないからな!?感覚狂ってるのか!?以前、決起集会の時、このタワマン駐車場まで来たのだがまさか中にこんな装備がされてあるとは思わなかったぜ。
そして、超超静かなエレベーターで8階に向かう。社長の案内で部屋まで到着して入る事となる。だがここでもまたオレは度肝抜かれる。
「ってかデカッ!!広ッ!!!なんすか!?めちゃくちゃ広いじょないすか!?」
「ふふふ。合田君?噛んでるわよ?じょないじゃなくて、じゃないでしょ?それなりの値段がしたからね?」
入り口だけで、実家のオレの部屋くらいの広さがある。
「いやいやそれにしても大きすぎです!凄いっす!!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。この8階は部屋数は他の階よりすくない3LDKだけど、その代わり他の階より一つの部屋が大きいの。リビングだけで40平米はあるのよ」
社長は少しドヤ顔になりながらオレに答えてくれた。恐らくオレがどう頑張ってもここには住めないだろうと思う。前にチラッとここのチラシが入っていて見た事がある。
階は忘れたが、確か8000万円〜だったような記憶がある。こんな田舎でこんな高額なタワマンが・・・と覚えている。
そしてその社長御自慢のリビングだが・・・女の人の部屋だ。そりゃあオバちゃんの年齢の社長だが女性だ。凄く良い匂いがしている。
「え!?これって・・・ワインセラーというやつじゃないすか!?」
「うん?そうだけど?そんなに驚くこと?」
いや感覚が違いすぎる。別にワインセラーに驚いているわけではない。そのワインセラーの数に驚いているのだ。ウィスキーセラー、焼酎セラーまである。根っからのお酒好きなのだろう。ただ意外なのはこんな高級志向な感じに見えるが、コンビニで買い物してる事が不思議だ。普通にグラタン買ってたし。
池田マダムは何回か来た事あるのか特に驚く様子もなく普通にソファーに腰掛けている。オレは次は来る事ないし、住む事もないだろうからこの選ばれし者しか住む事が許されないタマワンを目に焼き付けている。
「なにか食べる?冷凍のピザとかならあるわよ。飲み物はお酒でいい?」
「あ、お酒は運転があるので!」
「いいじゃない!その様子なら合田君は実家に帰らないんでしょう?帰るにしても代行で帰ればいいのよ!」
「いや・・・そういうわけには・・・」
「いいんじゃない?私が送ってあげるから合田君は飲みなよ?」
クッソ・・・池田マダム・・・オレを生贄にしたな!?もういいや!飲んでやろう!家にタブレット置いてあるからメールだけ打っておこう。時代を超えてWi-Fiが飛んでいるから、いろはちゃんか誰かが見てくれるだろう。
《オレだけど、仕事関係で少し戻るの遅れます。沢彦和尚には後日出直してくれるように言ってくれると助かります》
「っよし。これでいいか」
「合田君はなに言ってるの?とりあえずビールでいいかしら?」
「あ、いや、なんでもないっす。ビールで大丈夫っす!」
まだ昼にもなっていない時間だ。こんな昼間っから酒を飲むなんて初めてだ。
「由佳ちゃん?合田君はまだ術後間もないからあまり飲ませすぎないでね?」
「あっ、そうだった!なら綾ちゃんも飲みましょう」
〜戦国 合田邸〜
ピロピロリン♪
「あっ!めいるだ!誰からだろう?確か・・・真ん中に親指を置き指紋なる物を認証してっと・・・うん?合田様は帰ってくるのが遅れると・・・お仕事なら仕方ないです。正月も休みなく御働きになられるとは・・・私達のせいで申し訳ありません」
「うん?いろはちゃんは何言ってるの?」
「あ、漆原様に一ノ瀬様!」
「いやそんな丁寧言葉じゃなくていいよ!タブレット開けてどうしたの?」
「いえ。合田様からめいるが届きました」
「あ、メールね。見ていい?ふむ。ふむ。はぁ〜!?正月から仕事だと!?」
「合田様は忙しい方なのですね。お姉ちゃんに伝えてきます!御客人と待たせているでしょうし」
「う〜ん。何でもかんでも俺と有沙が出張るわけにはいかないしね。いろはちゃんお願いね?武蔵もたまには休めばいいのに」
「里志?社会人はそんな簡単には休めないんだよ!きっと!けど、合田君って他にも仕事してたっけ?あのみんなのABCって休みだったよね!?」
「どうなんだろう。あやめさん放っておいて遊ぶ事はないどろうけど・・・それに池田さんも着いて行ってるしね。まぁ俺達は動画編集しよう。もう少しで登録者10万人突破しそうだ!」
「と、いう事ですので本当に申し訳ありませんが出直していただけるよう平に・・・」
「頭を上げてください。いきなり押し掛けたのは拙僧の方達です。それに今日は元日でもあります。仕事の事はまた近いうちに話し合いましょう」
「では・・・せめても謝りの印として土産でこの梅の酒と澄み酒をどうぞ。乾き物は柿の種とポテトチップをお渡し致します。本来ならビーフジャーキーなる物が進むのですが、原料が獣肉ですので・・・」
「御配慮痛み入ります。遠慮なくいただきましょう。では御免」
「お姉ちゃ・・・ん?なんか不機嫌?」
「別に・・・。何で私に仕事って秘密になさるのかなって思ってるだけよ!伊織〜!手空いてる?」
「あやめどうしたの?」
「武蔵様は仕事だから、多分疲れて帰って来ると思うから好物のトンカツ作ろう!確か獣肉が冷凍庫に入ってるはず!!」
「いいわよ〜!太郎!あなたは漆原様と一ノ瀬様の所に居なさい!」
「がははは!おーい!合田殿!居るか!?」
「誰かしら?いろは!応対してくれる?」
「了解」
「あのう・・・どちら様でしょうか?」
「簗田だ!合田殿に言えば分かる!うん?おう!おう!女!お前だ!合田殿の側仕えだろう?ワシの城にも居ただろう!?」
「簗田様!!お久しぶりでございまする」
「いやぁ〜結構!結構!コケカッコー!なんてな?がははは!うん?今のは笑うところだぞ?」
「殿!引いてしまうからあれ程お辞めになったほうがと言ったではありませんか!?」
「藤田!お前は分かっておらんようだ!チッ。まぁよい。合田殿は留守なのか?」
「すみません。武蔵様なら仕事に向かったようでして・・・」
「なに!?元日から仕事とな!?若いとは良いのう?大将首・・・武田を撃退したのは合田殿と聞いて、是非その武勇を聞きたかったのだが・・明日の謹賀の儀は呼ばれておらぬのか?」
「いえ、お声は掛かっております」
「そうか!そうか!なら明日にでも聞けばよいか!おい!藤田!はようせいッ!うむ!これは土産だ!沓掛の近くで軍鶏を見つけたのだ!卵の虜になってしまってな?肉も中々美味いのだ!よければ食べてくれ!」
「ありがとうございます!これは武蔵様に必ず!」
「それにしてもこの家は暖かいな?今度ワシを呼ぶように言ってくれ!浜松へもいついつでも出陣できるよに準備しておったのだが中々声が掛からんかったからな。気付けば武田は甲斐へ帰ったと報を聞いてガッカリしてたのじゃ!まぁそういうことだ!じゃあな!藤田ッ!!!走れッ!!!」
「と、殿!!どこへ走るので!?」




