池田マダムの確信1
「あんた!なにやってるのよ!」
「うん?あ!母ちゃん」
「目が覚めたんだ!」
「あれ!?ここは!?」
「お母さん?まだ麻酔から覚醒しきっていないので、少し受け答えがおかしな部分が出るでしょうが直に良くなります」
「合田君!大丈夫!?」「合田君!?」
「社長に・・・池田さん?」
「田中さん!本当にうちの子が迷惑かけてすいません!」
「いえいえ。武蔵君とはただの仕事仲間ではございませんので。あ、これよかったらつまらない物ですが食べてください」
「では・・・後は2日入院すれば退院です。年明けにもう一度来て下さい。状況を見て抜糸して終わりです」
「先生!ありがとうございます!この度はご迷惑をおかけいたしました」
「いえいえ。では後は御家族や知り合いだけで・・・失礼します。またなにかあればお呼びください」
「こら!武蔵!こんなにみんなに迷惑かけてどうするのよ!田中さんが居なければ腕を切り落とすところだったのよ!?ちゃんと謝りなさい!」
それから大変だった。まず、状況としては浜松城まで帰ったところまで覚えている。とにかく、城へ戻った時からズキンズキン腕が脈打ってるのが自分でも分かっていた。
戦の最中は痛くなかったのにだ。その後、本多さんや家康さん大久保さんブラザー、榊原さん、酒井さんとみんなに褒められ、痛みに我慢して受け答えしていたが、とうとうバタンキュー。
徳川軍にはオレが疲れて倒れたという程にしたらしく、充てがわれた部屋には誰も入れないようにしてくれた。
里志君と有沙さんが田中さんに電話をしてくれて、病院まで手配したくれたと。そして、手術するにあたって同意書がいるため、母ちゃんに連絡しないといけないが、田中さんは母ちゃんの事知るわけもないので、仕事場でオレの履歴書を見て、緊急連絡先のところに母ちゃんの名前と携帯番号が書かれて、連絡してくれたと。
そうなれば社長や池田マダムも驚き、今に至ると。
ドンドンドン!!
「武蔵!大丈夫か!?」「合田君!大丈夫!?」
「あら?漆原君に・・・彼女さんじゃない!?入って!入って!武蔵なら無事よ!」
2人の登場で少しオレが寝ている病院の個室が少しザワつき始めた時、横にあやめさんが居たのが分かった。そして、布団を掛け直してくれるふりをして耳打ちしてくれた。
"傷は庭の木を切る時に転けて枝が刺さったという事になっています。2人の詳しい事はみんなが帰った時に言います"
"あやめさん、ありがとう"
そう言いながら優しく布団を整えてくれる左手薬指にはオレが戦の最中に渡した指輪を付けてくれていた。
「里志君、有沙さんごめん!オレは大丈夫だから!」
「心配したぞ!?東京から新幹線ですぐに来たんだからな!」
「あら?漆原君も彼女さんも腕や顔に傷があるけどなにかしてたの?」
「「え?」」
「いや、2人ハモらなくても・・・」
「いやいや、有沙の実家の草むしりしてただけですよ!何もないっすよ!ははは!」
白々しい。里志君は演技が下手くそだという事が分かった。
「とにかく合田君?あなたは、会社に必要な人材だからちゃんと体に気をつけなさい?お母さんに心配ばかりかけてはだめよ?」
「社長、すいません」
「もう年明けまで仕事はいいから、抜糸して動けるようになるまで出勤禁止よ!それと・・・こんなところで言う事じゃないのは分かるけど、例のプロジェクトなんだけど、若木さん夫婦と吉岡さん夫婦、野間さん夫婦覚えてる?」
「はい!覚えてます。僕も一緒に営業していた夫婦達です」
「そうよ。その3組の夫婦なんだけど・・・。合田君!お手柄よ。3組とも会社に全て任すと言って、畑から農機具から家まで全て私の会社で面倒見てほしいと言ってきたわよ」
「本当ですか!?確かに吉岡さん夫婦は子供も居ないみたいで、当初から早目にリタイアして田舎で暮らしたいとは言っていましたが、まさか3組ともですか!?」
「社長様!?うちの武蔵がなにかやらかしたのでしょうか!?」
「いいえ!お母さん!その逆です!あ、申し遅れました。私、このような者です。多角的に会社を経営していましてーー」
「合田君?後で聞きたい事があるの。構わない?」
「池田さんどうしました?今聞いてくれてもいいですよ?」
「いや、ここではやめておくね。それに・・・ね?あやめちゃんだったかな?なんとなくだけど・・・なんとなくね?理由が分かった気がするのよ」
池田マダムは意味深な事を言って、黙ってしまった。
「しゃ!しゃ!社長様!?それでは今言った事をあの武蔵が!?」
「はい!まさかこんなに早くプロジェクト成功例を出してくれるとは、今私の会社全体で見ても1番の有望株が合田君です!あまり病院で騒ぐのもよろしくないので、私はこの辺でお暇しますね。合田君!本当にちゃんと体を治しなさい!それと・・・御見舞い置いておくから少ないけど役立ててちょうだい」
「そ、そんな社長!悪いです!」
「いいから。いいから。それと、年末年始はなにかと入り用があるでしょう?初年度にしては特別にボーナスも振り込むようにしてるからね?じゃあ、お母さん、合田君?失礼します。お大事に」
颯爽と社長は退出していった。その時テーブルに置いてある果物のバケットに名前が目に入った。葛城綾子と名札が置いてあった。
そういえば葛城さんにもあやめさんを紹介しないといけなかったんだよな。葛城さんからもらったポータブル電源は岐阜のオレの家の大切な動力源だからな。ちゃんと返礼しないといけないな。
その後はオレの母ちゃんの狂喜乱舞だ。部外者が、池田マダム、田中さんと居る中で昔話が始まり、オレが仕事してるのが凄く嬉しいらしく、一応名目上は御見舞いだろうけど、気付けば母ちゃんの独壇場ぽくなっていた。
そして、里志君達は少しの間、冬休みらしくまたオレの家のラボに居させてほしいと、母ちゃんに言って機嫌が良くなった母ちゃんは了承し里志君達は退出していった。
「じゃあまた2日後にな!ゆっくり養生しろよ!」
「合田君!じゃあね!」
「じゃあ僕もそろそろお邪魔しようかな。武蔵君?仕事の事は忘れてちゃんと治すんだよ?」
「田中さんすいません。ありがとうございます。ご迷惑をお掛け致しました」
「じゃあ私も・・・合田君?また来るね?」
池田マダムはそう言いながらも顔が笑っていなかった。
残されたあやめさんとオレ、母ちゃん・・・。
「ふぅ〜・・・・。ちゃんと紹介するのは初めてだよね。あやめさんって言うんだ。今オレ達は付き合っているんだ」
「そうなんだ?だからこんなに色々お世話してくれてるの?あやめちゃん?武蔵のお母さんよ。うちの馬鹿息子がごめんなさいね?」
「い、いえ!全然気にしていません!寧ろお世話できて嬉しいくらいです!」
「え?ふふふ。変わった子ね?武蔵のどこがそんなにいいの?」
「母ちゃん!そんなのいいから!」
「あら?いいじゃない?初めて彼女紹介してくれたじゃない?お母さん嬉しいわよ?」
初めてという事にあやめさんは反応してしまった。
「そうなのですか!?私が初めての彼女なのですか!?お母さん!」
「え!?えぇ。そうよ?この子は根は優しいのに彼女なんてできないしーー」
「そうなのです!武蔵様は優しくてカッコよくて男らしくてーー」
恥ずかしいったりゃありゃしない。だが、何故か母ちゃんとあやめさんは気が合うのか色々話し込んで、とうとう・・・
「あやめちゃん?あなたお家はどこなの?」
「私の居るべき場所は武蔵様が居るところです!」
「ふふふ。お世辞でも私も嬉しいわよ?息子の事こんなに良く思ってくれるなんて。2日だけど着替えとか用意しないといけないし、良かったら一緒に買い物でも行かない?」
「は、はい!よろしくお願い致します!」
「そう。じゃあ武蔵?あやめちゃんと買い物して、お礼もしてくるからちゃんと寝ていなさい!」
「あやめさん!?大丈夫!?」
「はい!大丈夫です!では!武蔵様!失礼します!」
まぁ現代に慣れてきてるし、母ちゃんも居るから大丈夫かな?
やっと静かになり、少し寝ようかと思っていたところに・・・
「ごめんね。やっとみんな帰ったわね」
池田マダムだ。




