本物のカリスマ
いやいやまたこの光景かよ・・・。伊右衛門さんが青タン作ってるんだけど!?
「昨日は知らぬ内に帰りやがって!ワシは暫し待っておれと言ったはずだ!」
「すいません。仕事がありましたので早目に帰りました」
「ふん。もう良い。らーめんなる物を伊右衛門に渡したそうだな?貴様も食してみよ。まったく美味くない」
見た目ではラーメンだがなんだろう・・・。ネギと何故か大根が入ってるけど・・・。
「味見してもよろしいですか?」
信長さんは無言で頷く。
汁を一口飲んだが・・・
「不味ッ!!なにこれ!?油が皆無じゃないすか!?伊右衛門さん!?味付けは!?」
「塩を入れたのだがどうしてもあの味にはならず・・・」
いやまんま塩水ラーメンだろ!?醤油とか・・・ないんだろうな。オレのせいでもある。伊右衛門さんが可哀想だ。
オレは持ってきた調味料類を見せた。
「ここからオレが味付けします。素人なので勘で味付け致しますがお許しください」
「お前の出来により伊右衛門の進退を決めよう」
いやいやプレッシャーかけすぎだろ!?
オレは醤油とウインナーを適量入れた。ラーメンと分かってたなら出汁パックとか持ってきたのに・・・。
「すいません。今回持ってきた物ではこれが限界かと・・・」
「ふん。その黒い汁が何かは分からぬが不味ければ貴様も・・・・美味いではないか!昨日程ではないが味が近くなっておる!これじゃ!せめて伊右衛門もこれが作れれば褒美の一つでも出してやろうかと思っておったものを!」
「はっ、はぁ〜・・・申し訳ございません!!」
「此奴に作り方を聞いておけ!明日の朝もう一度食す!それで貴様は何を入れたのだ?この細いのはなんぞ?」
「醤油を入れただけですよ。それと今箸に持っているのはウィンナーです。早い話しお肉です」
「肉・・・だと!?」
瞬間的にオレは天と地が逆になった。
「え!?」
「貴様!黙ってワシに肉を食わせたのか!?」
「す、すいません!肉はオレの居るところでは当たり前に食べているので気づきませんでした!肉はタンパク質があるので身体に良いのです!」
「何を訳の分からん事を・・・だが・・・一度食してしまったならばこれを食うなと言われても無理じゃ!そもそもまったく臭くもなくむしろ噛めば噛むほど脂が美味いではないか!未来の肉とはこんなものなのか!?」
「いえ、中には臭い物もありますがだいたいは焼き方により臭みは消えるかと。すいません。素人なのであまり料理の事はわかりません」
「チッ。もう良い!伊右衛門!貴様も食え!何が肉食禁止だ!南蛮では食っておると聞くし構わん!」
「恐れ多くも・・・殿の膳に箸をつけるなぞとは・・・」
「そんな御託は構わん!はよう食え!」
「では失礼をば・・・まさか!?これは・・・」
「で、あろう?伊右衛門はこのような肉を食った事や見た事があるか?明智!明智は居るか!?」
「はっ。ここに」
「ワシは肉を食う事にした。今までも戦の折は稀に猪は食ってきたがコソコソせずに食う事にする。これをお前も食ってみよ」
「お館様が言うならば致し方ありませぬ。いただきましょう」
明智さんは肉に忌避感がないのかな?普通に食べたぞ?
「お館様?これは危険にございます」
「うむ。京で見た事あるか?」
「いえ。此度が初にございます」
ウィンナーが危険なの!?何故!?
「これを食えば箸が止まらなくなる。争奪戦が起こる。いくらまでなら買うか?」
「そうですな・・・。一つ、一結でも某なら買うでしょうな」
いや一結って初めて聞いたぞ!?いくらだ!?
「で、あるか。武蔵!伊右衛門に作り方を教えよ!」
「え!?いやいやウィンナーの作り方は分からないです!腸詰めとは分かりますが加工の仕方とかわかりません!」
「ほう?知っているではないか。ワシは出来ぬ者に命令する男ではない。出来ると思う奴だからこそ与えるのだ。この意味が分かるな?」
「いやマジですか!?なら明日にでも料理本持ってきますのでそれで構いませんか!?一応オレも母親に聞いたりしますので!」
「まじとはどういう意味だ?貴様には母親が居るのか。母親は飯屋でもしているのか?」
「すいません。マジとは本当ですか?って意味です。母親は至って普通・・・ではありませんが元気いっぱいな母親です」
「そうか。家族仲は良いようだな。特別に許可する。母親も連れて参れ!」
意外にも優しい一面があるのだな。ただ母ちゃんはこっちに来れないんだよな。
オレは母ちゃんはこの世界に来れない事を言った。簡単にだけど。
すると少し考えた後一言だけ信長さんは言った。
「残念だ」と。
明智さんと伊右衛門さんを下がらせて、またもや信長さんと2人きりになる。
「未来とは・・・未来とはどんな物があるのだ?一昨日言っておった連射する銃はいくらで買えるのだ?一丁回してはくれぬか?」
「いえすいません。無理です。未来では特定の人でなければ銃は持つ事ができません」
「そうか。これも残念だな」
本当に残念そうな顔してる。なんだろう。信長さんのこの顔見ればどうにかしてあげたいと思ってしまうのは気のせいだろうか。戦には連れてってはもらえないだろうし、行きたくもないけど少しだけ役に立ちたいと思ってしまう。
これがカリスマってやつだろうか?こんな気持ち初めてだ。
「甲斐の方がきな臭くなってきておる」
「えぇ。恐らくそうだと思います。武田の西上作戦が間も無く開始されますからね」
「今なんと言った!?」
「え!?西上作戦ですか!?」
「チッ。やはりそうか。奇妙の縁談を纏めたが意味はなしか。中々やるではないか。甲斐の虎よ」
恐らく忍者的な人が居るのだろう。既に情報はキャッチしてるのかな?ってか、あまり未来の事聞いて来ないのは何故だろう?オレが信長さんの立場なら有利になるようにあれこれ聞きまくるけどな。
「織田様はあまり未来の事に興味なしですか?」
「ふん。そんな貴様の居る未来を聞いてどうする?未来とはなんじゃ?誰かが作った未来か?」
信長さんがそう言うとオレは以前滝川さんに首に刀を突きつけられた時と同じ感覚になった。
「ハァー ハァー いえ。なんでもありません。すいません」
まるで蛇に睨まれた蛙と同じだろう。息をするのもしんどい・・・苦しい・・・。
「未来とはワシが作るものだ!貴様は知っていようがワシは貴様と同じ未来とやらは作らぬ!貴様でも驚く未来とやらを見せてやる!まず一つ・・・」
ビシュンッ!!!
凄い風切り音が鳴ったと思ったら目の前に刀が振り抜かれ前髪が少し切られた。
「うをっ!?すいません!すいません!まだ死にたくないです!!」
「チッ。誠、弱い男だ。聞け!ワシは予言や奇術の類は信用しておらぬ。予言者が現れその者を信用し重宝した時、其奴が嘘を組み込めばたちまち我が軍は瓦解してしまうであろう」
確かに信長さんの言う通りだ。オレが未来を知っていると言って、もし間違えた事を言えばそうなるかもしれない。必ずしもオレが知ってる歴史が正しいとは言い切れないからな。
「その通りです」
「次に奇術の類は有り得ぬ。地獄に落ちるじゃどうじゃと本願寺の糞坊主共が言っておるが見てみろ!腐った叡山を昨年燃やしてやったがワシはピンピンとしておる!」
「・・・・・・・」
「その折に淡海で兵を運んでおる時数隻じゃが船を沈められた。敵は奇術師集団と抜かし爆発させる何かを放り投げて来おったが、調べさせるとあれは熱された鉄玉が水に触れて爆発を起こしただけじゃった」
へぇ〜!?水蒸気爆発的な何かか!?その事を信長さんは分かってるって事か!?
「違うかもしれませんし、規模も分かりませんが恐らく水蒸気爆発ですね。水が温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象の事だと思います」
バンッ!!
「だからだ!物事には理屈がある!貴様がここに来た事も何かしら意味があるはずだとワシは思うておる」
「どうでしょうか。オレはしがないホームセンターのバイトですのでわかりません」
「ふん。ワシは貴様の言うておる事の半分も分かっておらぬ。他の者はもっと分からぬであろう。だが初めて聞く言葉だろうが物だろうと貴様の言う事全てを信用するかと聞かれれば答えは否!」
パチンッ
「痛ッ!!な、なんすか!?」
「シャキッとせい!貴様はワシらを学舎で習ったと抜かしておったな?これより貴様は本物の織田上総介平朝臣信長を目にする事になる!貴様はワシに仕えたいと思うかは知らぬ!だがもし他所に仕える事となりその他所で貴様を見れば・・・殺すぞ」
「ヒッヒィィィィ〜〜!」
反射的に仰け反りダサい声を上げてしまったが、本能寺で討たれてしまうこの人をオレは見てみたい。役に立ってみたいと思った。
人の為に役に立ちたいと思ったのは初めてだ。