不死身の鬼美濃の最後
ズドンッッ!!!!
「殿ッッ!!!」「馬場様!!!!」
「目をお覚ましください!!!不死身の鬼美濃なのですぞ!!!」
オレは撃った。ほぼ間違いないであろうパラレルワールドの世界で大きな歴史が変わる事象だろう。馬場美濃守信春。またの名を不死身の鬼美濃。
この人は信玄亡き後に勃発した長篠の戦いにて武田勝頼を逃がすため殿となり、そこで果てたと記憶している。
〜少し前〜
馬場が甲冑を巻いた竹筒を捨てて刀の斬り合いとなり、それは小川さんと慶次さん2人を相手にしても互角だった。
オレは少し後方にてそれを見ていた。
竹中隊の方も竹中さん自ら刀を抜き戦っている。軍師とは聞いて呆れる。やっぱりどこからどう見ても武闘派の人のように見える。
そんな周りを分析できるくらいに落ち着いていたところ、本多さん達本隊がもう少しで飲み込まれそうとなっているところに・・・小川さんと慶次さんが一瞬、間合いが空いた。
そこに、あやめさんから託された戦局を変える最後の1発・・・12ゲージの弾を込め、馬場信春に向けて撃った。
距離にして10メートルほどだろう。さすがのオレでも外すわけがない。弾は見事に馬場の体に命中した。
ズドンッッ!!!!
「殿ッッ!!!」「馬場様!!!!」
「目をお覚ましください!!!不死身の鬼美濃なのですぞ!!!」
「ほほほ!合田殿!やりましたか!皆の者ッ!!勝ち鬨を上げなさい!」
「「「えい!えい!おー!」」」
「「「えい!えい!おー!」」」
オレはこの光景を夢のような感覚で見ていた。オレが・・・オレが・・・
「き、き、貴様!卑怯だぞ!刀の斬り合いにて鉄砲なぞーー」
「そ、そうだ!そこに直れ!今すぐ俺がその首掻き切ってーー」
スパッ スパッ
「ほほほ。感傷に浸っている時間はありませんよ。将は射てても兵力の差は大きい。早くここを離脱します。その前に・・・」
「グハッ・・・・チッ・・・よもや弾が残っていようとは・・・不死身の鬼美濃もここで終わりか・・・」
「「「殿!」」」 「「「馬場様!!」」」
「すぐに後方に連れて行きます!手当てすればまだまだーー」
「やめい!ワシの体はワシが一番分かる・・・。内腑がやられている。もう助からん」
「そ、そんな・・・」
「お前達!手を出すな!おい!そこのお前だ!ワシを撃ったお前!名はなんと申す?」
「合田武蔵といいます」
「なんだその顔は!?鉄砲とはいえワシを討ったのだ!もっと誇れ!」
見れば見るほど小さいおじさんだ。だが死を直前にして尚も大きく見える。本物の武将とはこの人のような感じなのだろうと思う。
「卑怯と言われようが気にしません。オレはオレの戦をするまでです」
「貴様!なにを偉そうに!馬場様!今暫しお待ちください!俺がこいつの首をーー」
「やめいッ!何回も言っておるだろうが!!こいつの言うとおりだ!戦に卑怯もなにもない!勝てばそれが正道だ。ワシは負けた。だが大局的に見れば徳川織田は負けじゃ。お館様が到着すれば瞬殺されるであろう」
この馬場信春が心酔する武田信玄とは・・・
「馬場美濃守信春、見事也!」
「ふん。鹿頭め。もう少しだったところを。だがワシはこんなヒヨッ子の鉄砲では死なぬ!ワシは・・・ワシこそ不死身の鬼美濃ぞ!松浦!今日は終いじゃ!お館様に事の顛末を伝えよ!馬場が謝っていたとも言え!」
「グスン・・・は、はい!」
馬場はそう言うとは血が溢れている体なのが嘘のような動きで正座して、腹を十字に切り裂いた。
「合田殿!やりなさい!」
「え!?え!?なにを!?」
「首を斬りなさい!これ以上馬場殿に恥をかかせてはなりません」
オレは耳を疑った。よくテレビやなんかで見る首を斬るあれだよな!?無理!無理!できるわけないだろう!?恥をかかすなって無理よりの無理だろ!?
オレが躊躇していると、それを察してか慶次さんが名乗りをあげた。
「織田軍 合田武蔵 与力 前田慶次郎利益 某が新しき門出を。馬場美濃守信春、見事也」
「クッ・・・。合田ではないが貴様ならいいであろう。貴様も中々の剛の者だったが刀でワシは負けてはおらぬぞ!もそっと精進せい!殺れ!」
「・・・・・・御免ッ!」
スパッ
慶次さんが踊りを踊るかのような綺麗なフォームで、一刀にて首を斬った。こんなに綺麗に刀を振れるのかと見惚れてしまった。
「ほら。武蔵。この首はお前のだ。お前が好きにしろ」
「慶次さんごめん。ありがとう」
慶次さんにお礼を言って、オレは馬場が松浦って呼んでた人にその首を丁寧に渡した。
「後はよろしくお願いします」
「ほほほ。首に興味はありませんか。まぁそれでこそ合田殿です。さぁ戻りましょうか」
「この戦ッ!!徳川、織田軍の勝利だ!えいえいおぉー!」
「「えいえいおー!!」」
「「「「えい!えい!オォーーーーッ!!」」」」
その後すぐに後方に居る本多隊の人達にも伝えこの場を去る事にした。
去り際に松浦って人がオレに話しかけてきた。
「合田武蔵・・・その名は覚えた。必ず殿にお前の首を届ける。だが・・・首の返却は謝する。それにしても若いな。これだけ持っていけ。殿の脇差しだ。殿を討った貴様が変なところで死ぬなよ。俺がこの手で必ず殺す。馬場隊!道をあけよ!殿の遺言じゃ!今日は終いじゃ!」
オレは無言でその脇差しをもらい、あやめさんの後ろに乗り帰ることにした。長かった一言坂の戦いが終わった。




