一言坂の戦い
「助けるって・・・いったいどういうことです!?」
「あなたは・・・漆原殿ですね?合田殿のお孫さんと学友の?まぁ、簡単に言えば私は刻読みの術と言えば分かりますか・・・陰陽道拾五に相当する術を会得しましてね?」
「なんですか!?それは!?」
「要は少し先が見えると申しますか。合田殿のあのお札・・・私の最大の力を込めて作ったお札に触れた事によりあなたの想い人の一ノ瀬有沙殿通して開眼してしまいましてね?」
「えぇいッ!!まどろっこしい!ヘボ陰陽師!もっと分かりやすく言えッ!!」
「さすが頑固爺さん。お孫さんや学友達とは大違いですね。結末から言いましょう。このままいけばもう少しで合田武蔵殿は死にますよ」
「「え!?」」
「そこですッ!竹中隊!押し返しなさい!焙烙隊!投擲ッッ!!!」
ドガンッ ドガンッ ドガンッ ドガンッ ドガンッ
「撃てッッ!!!!!」
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン
ズドン ズドン
「うぅりゃっ!!」
ズシャ
「チッ。これじゃあキリがねぇ〜なぁ〜」
「ほほほ。前田殿はそう言いますが見なさい?まだ敵は後備えがかなり居ますが本多殿が当初言った通り大軍を防げていますよ?」
「だがこれではいずれすり潰されるぞ?鉄砲の弾だって限りがあるんだ。武蔵!あと何発残っている!?」
「オレのはあと、20発くらいです!」
「な?保ててあと、2当て、3当てくらいか。本多隊はどうだ?」
「ほほほ。あちらはあちらで皆が皆獅子奮迅の働きですな。見て見なさい。あの馬場隊の兵の姿を」
竹中さんが落ち着いた口調でそう言い、オレはチラッと本多さんの方へ向くとそこには敵の死体の山だ。少しずつ退いてはぶつかり、退いてはぶつかりを繰り返している。
オレ達の方は誰1人として脱落していない。いや、むしろ全員が全員仕事を全うして機能しているためかかなりバランスの取れた隊かもしれないとすら思う。
まず有沙さん特製のテルミット爆弾を投げ込み足元を炎で包む。敵も敵で慣れてきたせいか、すぐに砂を投げ炎を消してオレ達に進んで来るが、どうしてもその行動で少し足留めする。
そこへ、オレの掛け声で始まる斉射だ。鉄砲の音が鳴ったら、次は慶次さん達が1当てして物理的に狩り取る。これの繰り返しだ。
後方に居る大軍相手にはまったく無意味だろう。坂の下というかなり不利な状況だが、それでも戦い抜けている。なんなら少し余裕すらある。
だが、さすがに体力の消耗が激しい。
「抜かせるなッ!!存分に敵を減らせッ!!」
「「「「オォーーッッ!!!」」」」
「ほほほ。本多隊は更に士気高し。良きかな」
「織田方の!!そっちはどうだ!?」
「問題なし!だが少々残弾が心許なく・・・」
「うむ!頃合いじゃ!もう暫し足留めさせた後に我らも退こう!」
「オーケーです!」
「おうけい?なんだ?その言葉は?」
「あ、いや分かりましたって意味です!」
「馬場様!申し訳ありません!あの鹿の角兜の兵の練度が高くーー」
「良い。良い。本当は兵の損耗を出したくなく、使わなかったのだがそうも言えなくなったな。このままでもあと、3当て程すれば敵の鉄砲の弾もなくなるだろうが、時折り見える音の大きい鉄砲が分からん。それに鉄の棘が邪魔だ。小杉!小杉は居るか!?」
「はっ!ここに!」
「お前はこの坂を迂回して挟み撃ちに致せ・・・いや、辞めだ。お前が正面を張れ。ワシが回り込む。あの見慣れぬ装備が気になる。接収できれば武田軍は更に強くなる」
「はっ。くれぐれもお気をつけてください」
「ふん。年季が違うのだよ!年季が!そこらへんの奴と間違えるでない!不死身の鬼美濃とはワシぞ!」
「馬場様!バンザイ!」
「「「バンザイ!!」」」
「よさんか!敵に気取られる!被っておけ!今から数刻お前が鬼美濃だ!」
「いや、しかしーー」
「軽い方が速く動ける。気にするでない!馬廻り!着いて来い!静かに動くぞ!」
「それで、確か小杉右近なんとかって人が回り込もうとしてくるので、そろそろ後方にも気を付けておきましょう!」
「挟み込みとな?いやさすが馬場信春隊ですな。嫌な手を使う・・・本多殿!後方にも注意!敵に回り込まれるやもしれませぬぞ!」
「なにッ!?」
「「「「うぉぉぉーーーーーー!!!!」」」」
「殿ッ!!馬場隊 新手がまた来ます!」
「チッ!しつこい!絶対に抜かせるな!大久保殿!内藤殿!この場を頼む!」
「任されぃ!岩石でも木でも何でも使って通さぬ!!」
「竹中殿!どこから敵が!?」
「合田殿?どこから?」
「あ、いえ・・・ただ後ろの方からと・・・」
いや、確か里志君は・・・
「小杉右近助は秋葉街道を通って来るから回り込まれる前に撤退をしないとな。まぁ、本多忠勝の働きと勢いで小杉隊は確か道を開けたとも言われているからね。どちらにしてもこの時の本多忠勝はかなりだったのじゃないかな?」
「あ、秋葉街道の方からです!」
「なに!?あちらには俺も分かっていたから物見を出してはいるが何も言われていないぞ!?」
「ご、ご、御報告・・・」
「おい!お前!?どうした!?」
オレ達が問答していると1人の兵がやってきた。ただ・・・背中に弓が刺さっている。
「申し訳ありません!秋葉街道から武田軍が・・・」
「なんだと!?まさか物見の奴等は全員・・・これはいかん!殿に追いつかれる!急ぎ我等は後退する!皆の者!我に続けッ!!!」
「あやめさん!早くこの人に手当てをーー」
「申し訳ありません・・・手の施しようが・・・」
「おい!物見の!死ぬ前に聞け!」
「慶次さん!!なんていう事言うんですか!?もう少し頑張ってーー」
「武蔵!この者の門出だ!手当てしてやりたい状況だが分かるだろうが!そんな余裕はない!」
「ヒュー ヒュー どなたか存じませんが申し訳ない・・・なんとか最後に一目だけ殿に・・・どうか・・どうか・・・殿を御守り・・・」
「名前も知らぬ兵よ!任せておけ!お前の言で俺達は助かる!安心しろ!数年経てば皆に会えるさ!」
「恩に着る・・・」
パタン
この時、初めてオレは感じたことのないなにかを感じた。現実で味わえない感情。名前も知らない人・・・しかも徳川軍の人・・・。
オレも敵を倒してきた。だが・・・武田軍・・・絶対に許さん!!




