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エレーヌを殺したのは誰だ?  作者: 谷島修一
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第24話

 エレーヌ襲撃の犯人の遺体を見つけてから三日が経った朝。ラバール警部は大きめの旅行鞄を持って警察署に現れた。署内の階段を息を切らせながら登り切り、なんとか自分の机までやって来た。

 近くに居た部下のティエールが声を掛けてきた。

「警部、遅かったですね」

「いやー、何ね、なかなか馬車が捕まらなくて」

「そうでしたか」

 ラバールは椅子に腰かけると、大きく息を付いた。呼吸が落ち着いた頃、ティエールに声を掛ける。

「ティエール君、君も準備は良いのかい?」

「ええ、いつでも出発ができますよ」

「よし、もう少ししたら出発することにしよう」

 ラバールはそう言うと、机のうえにある書類に目を通す。

 あれから、例のエレーヌ・アレオンの殺害事件の首謀者の手掛かりはなく、捜査は膠着状態となっていた。国家保安局からも新たな情報はない。ラバールは、このまま事件の捜査が進展なく時間が過ぎるのは良くないと考えていた。

 そこで、唯一、話を聞いていなかったエレーヌの婚約者ジャン=ポール・マルセルに会うためにラバールとティエールの二人は、国境の町ノーリモージュに向かうことにしたのだ。今回の旅では、一番優秀で若いティエールを連れていく。彼が居れば何かと役に立つだろう。

 幸い、ラバールの担当していた他の事件はさほど難しいものが無かったので、他の部下たちに割り振って任せることができそうなので、そうした。

 ラバールは、少しだけ溜まっているいる仕事を終わらせ一息ついた後、ティエールに声を掛けた。

「そろそろ行こうか」

「はい」

 ティエールは返事をすると立ち上がり、大きなボストンバックの持ち手を肩から掛けた。

 ラバールも立ち上がり、自分の旅行鞄を手に取った。

 目的地ノーリモージュへは、警察の馬車は使わずに一般の住民も使う駅馬車を使って移動をする。二人は署の近くの駅馬車の停車場に向かい、先に料金を払ってノーリモージュ行きの馬車に乗り込む。

 この駅馬車は比較的大きな荷台に座れるように椅子代わりの板が設置されている。座り心地はお世辞にも良いとは言えない。この駅馬車での長旅は少々疲れそうだ。

 二人は荷台に乗り込み、自分達の荷物を荷台の床に置いた後、二人は並んで腰掛けた。周りを見ると駅馬車を使う客は他にも数人いるようだ。

 出発時間になると、馬車はゆっくりと進みだした。

 駅馬車の速度はさほど早くないので、ノーリモージュまでは丸四日かかる。途中、街道沿いに小さな宿場町があり、そこを経由しつつ向かう。

 ラバールは朝、署に来る途中で買ってきた新聞に目を通していた。ティエールは、その横から話しかける。

「それで、マルセルに会うことは出来ますかね?」

「彼が居る交渉団に時間があれば、会うこともできるんじゃないかなあ。これは実際に行ってみるしかないからね」

 ラバールは新聞のある記事を指さした。見出しは、『ザーバーランド王国との和平交渉に進展なし』とあった。

「結構、揉めているようだね」

「国境線の決定で揉めているとか?」

「どうやら、その様だね」

「ザーバーランドは今回の戦争でそれなりの領土を、こちらから奪い取りました。それ以上を要求しているということですかね?」

「記事にはそこまで書いていないけどね。戦争を有利に進めていたザーバーランドのほうから、休戦を申し出てきたのは何か知られていない国内事情があるんじゃないかと書いていあるよ」

「その話は聞いたことがあります」

「まあ、多分、戦争反対の声が上がって来たんじゃないの? 七年も戦争をやっていると、国民に厭戦気分が広がるのは、こちらとも同じだよ」

 そう言うと、ラバールは新聞に視線を戻した。


 駅馬車が街を出るとすぐに、辺りに小麦畑が広がっているのが目に入った。

 しばらくはこの風景が続く。

 街を出ると、道の具合が悪いので駅馬車は揺れが酷く、乗り心地は最悪だった。これが四日続くのかと思うと、先が思いやられる。

 その気を紛らわせるようにティエールはラバールに話しかける。

「エレーヌの件ですが、どう思いますか?」

「どうとは?」

「首謀者の目的ですよ」

「そうだね。それが一番わからない。私怨ということも考えられるが、そうであれば、わざわざザーバーランドの暗殺者を使う理由がわからない。しかも、襲撃犯はあの国で開発されたばかりの魔術を使えるときた」

「その魔術が使えるとなると、ザーバーランドの政府やそういった組織が関与している可能性が高いのでは?」

「おそらく、そうなのだろうけど、エレーヌを殺害する理由がわからない。彼女は貴族とは言え、ただの女性だよ。それにアレオン家はそんなに位い貴族ではないし、こちらの政府との関係も影響力もない」

「アレオン家に我々が知らない何かがあるのでしょうか? 例えば、ザーバーランドに関する機密を知っているとか?」

「うーん。その可能性も少ないと思うけどね。例の執事の父親がザーバーランド出身なんだけど、私が話をした限りでは、そう言うことも感じられなかった。それに、もしそうだと狙うなら執事でしょう。それに、国家保安局も何も掴んでいないようだし」

「国家保安局が何かを隠している可能性は?」

「どうかなあ。それだと我々に捜査の継続をさせるだろうか?」

 ノーリモージュで、マルセルに会うことが出来て、話を聞いて何か掴めればいいと思うが、実のところその可能性はわずかだと考えていた。しかし、ラバールは、そのわずかな可能性に賭けたのだ。

 ラバールたちを乗せた駅馬車は悪路を、音を立てながら、ゆっくりと目的地に向かって進んでいく。

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