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日葵ちゃんのお願い。

作者: 神無桂花

 開けっ放しの窓から風が吹き込んでくる。夕日に照らされた教室、窓際に座る僕には少し眩しい。

 吹奏楽部が吹く何かの曲の音色。バッドが白球の芯を捕らえた音。なんかよくわからない掛け声。ちらりと外を見れば陸上部がグランドを走っていた。

 放課後は世界が若さで溢れ返る時間。……名言のようで、意味が分からないことが思い浮かんでしまった。

手元のプリント、保護者会のお知らせと銘打たれたそれの提出部分を、定規で切り取り、丁寧に欠席に丸を付けた。



「よし、確かに受け取ったよ。欠席で良いんだね」

「はい、電話で確かに確認を取りました」

「まぁ、県外にいるなら仕方ないか。オッケーオッケー。もう帰るのかい? 気をつけて帰りなよ」

「はい、先生」


 ぺこりと頭を下げて、背を向ける。後は家に帰って寝るだけ。担任の高梨先生は僕にとって丁度良い距離感を保ってくれる。とてもありがたい。


「それでは、さようなら」

「はい、さようなら」


 この学校に入学して一か月が経った。部活に入る義務があったから入った陸上部も一週間で辞め、そのままだらだらと何もない、何かしたいけど何もしたくないから、鬱々とした放課後を享受する毎日を送っている。

 でもそんなことは誰も気にしない、実質活動していない部活なんてそれなりにある。だから誰にも見咎められることなく学校を出る。少し高台にあるこの学校。校門を出れば、眼下に広がるのは温泉街。

 バスを待つために並ぶ同じ制服を着ている人たちを追い抜き、それでもすぐに自転車で一気に下っていく人に追い抜かれる。わいわいと楽し気に下っていく背中を見送る。

 町まで下りると人がどっと増える。連休が終わっても観光地として売っているこの町には人が絶えない。温泉街にいくつかある足湯は、今日も誰かが使っている。ランドセルを背負った子どもがそんな中を駆け抜けていく。買い物袋を持った主婦とすれ違う。

 当たり前の事実が妙に刺さってくる気がした。そうやって空いた穴から自分の中身が抜け落ちて、空っぽになった感覚に襲われた。

 別にいつでも良かった。ただ気分がそうさせた。

 家に着いて、買ったまま使っていないロープを取り出す。天井に吊るして、何回も調べて練習した結び方、輪っかを作ってその下に椅子を置く。


「今逃したらまたズルズルと生きるんだろうな。死体は汚物まみれか、うーん、迷惑をかけるのもなぁ」


 しかし僕は、首を通した。後は椅子を蹴るだけ。目を閉じて、きっかけを探す。何か、僕の背中を押してくれる何かを探す。

 こんな死に方で良いのだろうか。そんな自問自答。足に力を込める。生きることに意味を見出せと頭に響く。けれど、同時に、意味を探すなんて、そんな無意味なことをやめろという声がする。

 そうだ、生きることにも死ぬことにも、意味を見出すなんてできるわけがない。

 答えが出て、椅子を蹴ろうとしたその時だった。目の前に何かの気配を感じて反射的に目を開けた。


「あっ、気づいてくれました? いやはや、こちらから物理的干渉はできないので困っていたところなんですよ。五月雨時雨さん、で良いですよね? 私、日葵(ひまり)と申します」


 椅子の上に立っている僕と同じ目線で話す彼女が、浮いている事に気づくまで少しの時間を要した。空中で正座して丁寧にお辞儀をする彼女は、セーラー服を着た髪の長い、女の子だ。その子は首を吊ろうとする僕を朗らかな笑顔で見つめて、ゆっくりと口を開いた。


「悪い話ではないと思うので、一旦死ぬの、辞めてもらいません? 納得できなかったらそれならそれで、一度座ってお話ししましょう」



 「いやはや、危なかったですよ。死なれたら契約も何もありませんから。間に合ってよかったです」


 ロープを外して椅子を片付ける。ソファーに座る僕の真上をふわふわと浮かぶ彼女の制服を改めて観察するが、この辺の事に明るくない僕にはどこの制服かを特定することはできない。


「驚きなのは、こんな存在である私を見て、驚いていないあなたです」

「驚いてはいる。でもそれをリアクションする意味は無いから」

「あはは、それはまた。まぁ、良いです。話が円滑に進むので。それはそれとして、夕飯とか食べる都合はありますか?」

「あぁ、そうだね。ちょっと買ってくるよ」

「あっ、私も行きます。というか行かせてください」

「うん、良いよ。別に」

「ありがとうございます」


 外に出て最初に目に入った空は、夜空と夕焼けが同居していた。


「あっ! 一番星です」


 頭の周りを飛び回りながら、楽し気に騒ぐ彼女の存在は周りから認識されていない。付いて行くと主張した時点で予想はできてていたけど。

 近所のスーパーには学校よりも通っている。毎日そこの総菜にはお世話になっている。


「あら、いらっしゃい。今日はいつもより遅かったんじゃない?」

「どうも。揚げ出し豆腐は今日もありますか?」

「あるよ。ほれ、半額にしてあげるから。こっちも食べなさい。痩せ過ぎだから」

「あはは、ありがとうございます」


 後は切らしていた卵と調味料、安くなっていた肉とサラダを買って帰る。家に帰るまで、彼女は一言も話さなかった。


「さて、食べながらでいいので。話を聞いてもらえますか」

「良いよ」


 レンジで温めたカツ丼は結構美味しい。これが半額で食べられるとは、ありがたい。でも僕は揚げ出し豆腐の方が好きだな、あのスーパーの総菜は。

 女の子の眉がピクッと上がる。


「まず、あなたってどんな思考回路しているのですか? 私という存在をあっさり受け入れていることはこの際置いておきましょう。私に都合が良いですし」

「まぁ、驚いてもしょうがないし」  


 目の前に存在するものをいないものだと言うのは無理があるし、その子が僕に用事があると言うのなら聞かなきゃダメだろう。


「しかしながらそれを抜きにしても、おかしいです」

「なにが?」


 カツ丼を食べる僕がそんなにおかしいのだろうか。僕の事をまじまじと見つめると。


「さっきまで、覚悟を決めて首を吊ろうとした人には、見えないのですが」

「邪魔したの君じゃん」

「いえ、私が買い物について行ったのは簡単に言うと、あなたの自殺防止です。あなたが再び自殺を図ろうとする恐れがあったので」

「納得の行動だよ」

「でも、あなたがやったことと言えば、普通に買い物、しかも長期的に生活を営む気ですかあなた? 切らした調味料と卵を買う自殺志願者がいますか!」

「はぁ、まぁ、あの時を逃してしまったから。しばらくはやらないと思うけど」


 呆れたような驚いたような、表情をころころ切り替えて、コホンと咳ばらいを一つ。


「じゃあ、本題に入りますけど。良いですか?」

「どうぞ」


 居住まいを正すように空中で正座すると、重々しく口を開く。その雰囲気に思わずこちらも姿勢を正した。


「では、まずは確認ですけど。あなたは死にたいのですか?」

「うん」

「そうですか。では、提案です」


 何かを整えるために、彼女は深呼吸をするような動作をした。彼女に呼吸が必要なのか、僕にはさっぱりだが。


「私と取引しませんか?」


 放った言葉は単純で、明快で、曲解も何もあったものじゃないが、彼女はそう言った。


「どういう取引き?」

「あなたの代わりに私が生きます。やり方としては魂を置換するです。今は霊体の私が、代わりにあなたの体で生きるのです。あなたの魂は解放され死んだことになります。痛みの無い、これ以上に魅力的な死に方がありますか?」

「それは、死んでるの?」

「あはは。その疑問は中々的を射ていると思いますよ。でも、あなたの魂が解放されるのは、事実ですね。それで、どうですか? 提案、受け入れてくれます?」

「正直、そんなほいほい了解できる話ではない」

「えぇ、当然です」

「だから、少し待ってくれないかな」

「はい、了解です。とは言いましたけど、随分とあっさり信じてくれますね。もっと色々と聞かれると思いました。」

「それも含めて考える。幽霊がいるならそんな事ができてもおかしくはないかなと」


 食べ終わってそのままソファーで横になる。何か妙に疲れたな。


「あー、牛になりますよ」

「うん、君は牛として生きるのだ」

「それは嫌ですー」

 


 悲鳴が聞こえる。もう見慣れた夢だ。それでも、怖くないわけでは無い。これに比べれば幽霊なんて、驚くほどでも怖がるほどのものではない。肉に刃物が突き刺さる感触、血の赤が視界にこれでもかと刺さった。


 朝が来た。昨日の出来事、冷静に考えたら夢だったのかもしれないし、実は死ぬ間際にみた走馬灯のような何かだったのかもしれない。でもこうして、朝が来て、ちゃんとベッドから体を起こしている。その状況が訪れているのだから、現実に起こったことなのだろう。

「おはようございます。すごい汗ですね、時雨さん。それとも五月雨さん? いやはや、名付け親は余程雨に思い入れでもあったのですかね」


「おはよう。……そういえば、君の名前、何?」

「ちゃんと名乗ったじゃないですか! 一晩で忘れないでください。日葵です。日葵ちゃんと呼んでください」

「うん、了解。日葵ちゃんね。シャワー浴びて来る。学校は来るの?」

「はい、もちろんです。ではではごゆっくり~」


 汗に濡れた服を脱ぎ、洗濯機に放り込む。久々に見たな、あの夢。しばらく見ていなかったのに。

 妙に早い鼓動を落ち着けようと熱いシャワーを浴びる。そんな僕を、切り離されたように冷静な僕が観察する。

 命の有効活用ならぬ、体の有効活用。魂を入れ替える。その器は彼女が使う。

 そういえば、彼女は願いの数を指定していなかったな。どんな願いで、それは僕が叶えられる願いなのだろうか。


「あっ、出てきましたね。うんうん、関心です」

「そうかい、それじゃ、行こうか」

「はい。って、朝ご飯は?」

「買ってないから無いよ」

「んな……、駄目ですよ! 食べてください! というか、何のために卵買ったのですか!」

「あぁ、そんなのあったね。でももう時間無いや」

「駄目です! 朝ご飯は食べましょう。何なら、今から作って食べながら行けば良いじゃないですか!!!」


 無視して家を走り出る。

 結構ギリギリだが、まぁ、一時間目に間に合えば良いか。

 僕の周りを飛び回り朝ご飯の大切さを熱心に説く彼女は、人間より人間らしい気がした。


「君と取引すれば僕は死ぬのだろ?」

「そうですけど、その体は私が使うので、大事にしてもらわないと困ります」

「そうかい。でも今はまだ僕の身体だし、結論は出してない」

「はぁ、もう、念力の一つでも使えれば良いのですけど」

「そういえば、物理的干渉はできないって言ってたね」

「はい、なので私には、あなたのやる事成すことに直接手を加えることはできません。呪いも洗脳も憑依もできません。そんな機能、与えられなかったので」

「へぇ」


 ある程度走って、ペースを緩めてそのまま走るのをやめた。ギリギリの時間だけど急ぐ気が失せてしまった。この町の朝はのどかだ。


「そんなゆっくりだと遅刻しますよ」

「かもね。でもあの坂を走って登りたくない。汗かきたくない」

「うわー、そんな女々しい事言って。ちょっとキモイです」

「随分と手厳しいな」


 昨日のように人があちこちにいるわけでは無いから、外で会話するのもやぶさかではない。会話のような独り言をしていたら最悪、警察にお世話になることになる。


「全くもう、まだ入学したばかりですよね。最初からそんなのでは困りますよ」

「授業は真面目に受けるよ」

「それでお願いします」


 朝はまだ過ごしやすい。真面目にやるとは言ったが、それでもこれからどんどん暑くなっていく中であの坂を登るのは少し憂鬱だ。どうしてあんなところに学校を建てたのだろう。先生は自慢げに、あの坂のおかげで足が速くなり、陸上競技で有名な選手をたくさん輩出したとか言っていたが。


「そういえば時雨さん、鞄、随分と薄いですけど、教科書は?」

「学校に置いてあるよ」

「うわー、置き勉ですか。悪い子ですね」

「だって重いし」

「夏休み前に大変な思いしますよ」

「どうだか。それこそ今の僕には相応しくない会話だと思うよ」

「あはは、そうですね。でも、私は疑っていますよ」

「何を?」

「そんなの決まっているじゃないですか。でもそれを指摘するのはまた後で。学校に着いてしまいました」


 はぐらかされた感じがするが、今は急がねばなるまい。そろそろ教室に入っておこう。意味ありげな笑みを浮かべる幽霊娘の存在を意識しないようにしながら、生活指導の先生の急げという声を背に受けながら廊下を歩く。

 三階にある僕の教室。階段を一段一段昇って行く。まだ朝礼は始まっていないようで、聞こえる声は生徒の騒ぐ声だ。


「賑やかですねぇ。楽しそうです」

「よう、時雨。随分ゆっくりだな」

「おはようございます。先輩」


 僕の住むアパートの隣人んさん。水無月先輩が丁度二階を登りきった所に現れた。

 後ろには五人、男子生徒が控えている。堂々とした姿に、思わず立ち止まる。

 後ろにいる五人は別に手下というわけでもなく、何でも、水無月先輩に憧れて、ただついてきているだけらしい。 

 そして後ろにいる人たちが、水無月先輩のカリスマみたいなものに、さらに説得力を持たせてしまっている感じだ。


「先輩こそ、こんな時間にここにいて良いのですか?」

「顧問に用事があってな」 


 確か、文芸部の部長にして、たった一人の部員、だったかな。


「ではな。そろそろ行かねば。時雨も急ぐと良い」

「はい」


 僕の横を通り抜け、水無月先輩とその手下たちは階段を降りて行った。三年生の教室は二階なのだが、本当に良いのだろうか?

 教室に近づくにつれ、違和感を覚える。

 何で僕の教室だけ静かなんだ? 他の教室は、まだ賑やかだ。

 扉を開けて入ると、一気に視線がこっちに向いた。驚いたことに僕のクラスの真面目な先生は既に教室に来ていたのだから。


「来たか。二十人しかいないうちのクラス、遅刻者は目立つぞ」

「そうですね」

「あはは」


 頭の上から笑い声が降って来る。なぜうちのクラスだけ。


「さて、全員出席だな。喜ばしい。では、連絡事項は無し。出席を取りに来ただけだからな。校長のつまらない話を聞きに戻るとするよ」


 そう言って我らが怖いもの知らずの担任は教室を出て行った。


「おい、時雨。席に着いたらどうだ?」

「うん。ありがとう。炎陽(えんよう)」

「珍しいな、時雨が遅刻とは。それと名字で呼ぶな。名前で立夏(りっか)と呼べ」

「苗字カッコいいのに持ったにない奴だな。まぁ、色々あったんだよ。それに正確には遅刻では無いだろ」

「ほう、さすがに把握しているか」


 窓際の一番後ろ、今の僕の席。こんな事なら最初からこっそり入って座っていればよかった。

 前の席に座る立夏とは入学式で知り合った。席替えで近くになってからはよく話している。眼鏡をかけて、その雰囲気を裏切らず、とても真面目に学校生活を送っている。


「さて、ふむ。時雨よ、お前、憑かれたな」

「うん? まぁ、確かに少し疲れたかもしれない」

「いや、そういう意味ではない。良くないものに憑かれるの憑かれるだ」

「またまた、そんな存在いるわけないだろ」

「ふむ、この辺りだと指示しているな」


 僕の上の方、丁度日葵ちゃんがいる辺りに目を向ける。釣られて上の方を見ると、日葵ちゃんがガクガク震えていた。


「気のせいか? 修行が足りんな」


 眼鏡を直し居住まいを正すと、ぺこりと頭を下げる。


「お騒がせしたな。すまない」

「いや、良いよ。気にするな」

「うむ。そう言ってくれると助かる」


 授業までまだ少し時間があるからか、賑やかな教室。人が少ないこの地域の中でも、進学に特化したこの科の人は少ない。そして進学に特化したとはいえ、まだそこまで意識ができていないために、ピリピリしていない。


「僧になる身としてはこの中でも勉強をするべきなのだろう。しかしながら俗世を知らずして人を導くことなどできまい」

「それは正しいかもな。何も知らないやつにとやかく言われるのは、それはもう不快だ」

「ははは、言葉は簡単でも含蓄があると感じられる。これは興味深いぞ」

「詮索してくれるな」

「うむ、そこはわきまえている」

「そうか、少し出て来る」

「あぁ、授業までには戻って来い」

「わかっているよ」


 教室を出て、階段の方へ。この時間で一番静かな場所と言ったらここだろう。


「なぁ、あれって気づかれていたのか」

「はい、恐らく、存在は感じ取られたかと」

「マジかよ」

「あの人は要注意ですね」


 真剣な様子でそう言うが、うん? もしかして悪い存在なのか?


「そんな目で見ないでください。言ったではありませんか。呪いも憑依もできないと。これには理由がありまして、能力を付けるとそれだけ祓う対象になりやすいのです」

「と、言いますと?」

「私程度の霊格ですと、憑依と呪いなんて付けてしまいますと、鳥居を潜っただけで消えてしまいますよ」

「へぇ」


 霊格というのはあれか、幽霊の格付けみたいなものか。


「能力を付けると弱くなるというのも変な話だな」

「弱くなるというより、邪悪な存在に近づくため、清い力に弱くなるという感じです」

「弱くなるわけじゃないんだ」

「そうですね。さてさて、そんな事より、そろそろ行かなくて良いのですか? 授業まで遅れる気ですか?」

「はいはい、行きますよ」

「えへへー。楽しみです~」

「日葵ちゃんも受けるの?」

「そりゃあもちろん。この格好見てわかりませんか? 私が使っていた最後の体は十六です。ぴちぴちの女子高生です」

「あぁ、なるほど」


 色々と調子が狂う。目の前の存在が死に対して無頓着だからだろうか。生と死の価値観というか距離感が、目の前の既に一度は死んでいる存在のせいで薄くなっている。

 授業中、日葵ちゃんは空中で正座して真面目に授業を聞いていた。




 「時雨さん。夕飯はどうされる予定ですか?」

「面倒だから良いや」

「昼食も同じこと言って食べませんでしたよね」


 天井を眺める。暇だな……。課題もやる気がなぁ。


「……。もしや……」

「何?」

「このまま餓死する気ですか?」

「さぁ?」 


 考えなかったわけではないが。それもありかもしれない。


「ありだな。うん」

「無しですよ! 何を考えているのですか?」

「でも君、物理的に何かできるわけじゃないし」

「耳元で騒げますよ」


 イヤホンを着けて音楽を流す。話は終わりだ。


「あぁ、時雨さん!」


 寝よう。このまま。朝起きたら僕は何処にいるのだろう。

そんな疑問は、朝日が窓から差し込み、その眩しさで目を覚ますことで解決される。

 今日も生き残っている。


「リミッターがぶっ壊れた気分だ」」


 あの日、寸前まで行って、そこで何かがぶっ壊れた。一番死ぬことに近づいた瞬間だったと思う。


「時雨さん、私との契約、する気は無いのですか?」

「考えてはいるよ。一つの方法として」


 訝し気な目が向けられた。

 寝ている間に外れていたイヤホンを片付けて起き上がる。


「でも、僕の命の片づけ方は、自分で決めて良いでしょ」

「当然の権利ですけど、しばらく死ぬ気は無いって……」

「どれくらいもつのだろうね」


 着替えを終えて家を出る。今日は余裕をもって着くだろう。

 こうして何も食べないのは初めてではない。でも最後は食べさせられた。

 坂を登りきり校門を抜ける。生徒でごった返す昇降口。


「大会が近いからですね。朝練なんて熱心ですね」


 確かに。朝っぱらからよくやる。練習のし過ぎで疲れが溜まらないかの方が心配だ。学校でマッサージ師を雇った方が良い気がする。

 というのは置いておこう。僕には縁の無い話だ。


「おはよう。炎陽」


 声をかければ参考書から顔を上げる。


「立夏と呼べと、何回言えば……」

「カッコいいからな」

「そう言われると、何とも言えん。それよりも、少し顔、青くないか?」

「気のせいだ。それよりも、お前早く来て、何しているんだ? ずっと勉強か?」

「いや、掃除」

「は?」


 当たり前のようにそう言うが、えっ? 自主清掃とかマジかよ。


「境内を掃除するより楽だ」

「そんなものか」

「あぁ」

「掃除当番とかにやらせりゃいいのに」

「真面目にやらないのは目に見えてる」

「そういうのを改心させてこそ、僧じゃないのか?」

「どうだろうな」


 眼鏡をクイっと上げて、苦笑いを浮かべて、教科書に目を戻す。

 これ以上は余計なお世話と言う奴か。僕も僕で、窓の外を眺める。

 高々と上がった野球ボールが、こちらに向かってくる。


「時雨さん、あれ入って来ますよ」

「は?」


 鈍い音とともに視界がぐらりと揺れる、脳が揺れる気持ち悪い感覚。視界が暗転した。





 目を開けて、体を起こすと、保冷剤をタオルで巻こうとしていた女子生徒と目が合う。ショートカットの活発そうな子だ。


「あっ、起きた?」

「だれ?」

「誰って、クラスメイトの顔と名前、まだ覚えてないんだ?」


 そう言われると、流石に悪い事をした気持ちになる。というか炎陽はどうした。なんで女子が保健室で待ってるんだ。

「私、保健委員だから」

「あぁ」

 

 僕の疑問に的確に答えてくれて、その子は呆れたようにため息一つ。 


「まぁ良いや。如月瑞樹。覚えてね。五月雨君。うーん。五月雨君は特に私の事、覚えておくべきだと思うんだけどなぁ」

「あ、あぁ」


 どういう意味だ? まぁ良い。如月さん。とでも呼んでおくか。


「顔色悪いね。まだ。朝ご飯食べた?」

「朝ご飯どころか、昨日の朝から何も食べてないですよ。この人」

「あら、そうなんだ。というか君、ずっと五月雨君についてきてるの?」

「はい」

「ふーん。物好きなのもいるんだね」

「ん?」

「ん?」

「何?」

「見えてるの?」


 日葵ちゃんを指さすと、如月さんは当たり前のように頷く。


「うん。最近君に引っ付いてる子いるなぁって思ってたら、君も見えてたんだ」

「まぁ。日葵ちゃん、とりあえず自己紹介したら?」

「あっ、はい。日葵ちゃんと呼んでください」

「自己紹介になってないじゃん……まぁ良いや。長いから日葵って呼ぶね」

「は、はい」


 どこか緊張しているように見えた。


「さて、もう少し休んでいなさい。保健室の先生は多分そろそろ戻ってくるから」

「う、うん」

「二人そろって子どもみたいな反応するね。バイバイ」


 高校生は子どもだ。と言っても通じないか。高校生を子ども扱いしない大人なんていくらでもいるし、自分は大人だと主張する高校生だっていくらでもいる。

 しょうがないのでもう一眠りすることにする。

 しばらくして、保健室の先生と、先生にも見えてないが日葵ちゃんに起こされて目が覚めると、昼休みだった。

 その日は帰された。先生には伝えておくと言われたので、荷物だけ教室に取りに行った。

 頭打ったと言ってもたんこぶ程度なんだけどな。まぁ、休めるならそれはそれで。


「時雨さん、ご飯を食べましょう」

「はぁ」


 ため息で答えたのに腹が立ったのか、ぶんぶんと目の前を飛び回り、耳元に来る。


「しーぐーれーさーん! いい加減にしてください、なんで食べないんですか! ふざけないでください、本当に……死ぬ気ですか?」

「死ねたら良いね」

「何を言っているのですか? 私との契約……」

「生き残ったら考える」


 食べないのは慣れている。

 だから、まだ僕にとっては普通で平常で、久しぶりだなーと、懐かしい友人にでも会った気分だった。

 慣れた感覚だ。

 呼び鈴が鳴る。


「日葵ちゃん、見てきて」

「……仕方がないですね」


 ふわふわと飛んでいく。厄介な訪問販売や営業はこれで無視を決め込めるかもしれない。便利だ。


「瑞樹さんです」

「は?」

「如月瑞樹さんです」


 ……なぜ?

 扉を開ける。段ボールを抱えた如月さんが、確かにそこにいた。


「やあ。夕飯作りに来たよ」

「いや、なぜ?」

「えっ、だって食べてないんでしょ。君が寝てる間、そこの子、教室まで私を探しに来て、それはもう、とっても心配してたみたいでさ。まぁ良いや。入るね」

「えっ、あっ……」


 靴を脱ぎ捨てそのまま迷わず台所へ。


「鍋ある、フライパンある。ん……? 包丁無いじゃん」

「無いよ」

「どうやって料理するの……まぁ良いや。取ってくるから待ってて」


 そこでようやく思い出した。


「そういえば、隣の部屋だったけ……」

「時雨さん、今更思い出したのですか……」

「なんで日葵ちゃんに呆れられるのだ」

「そりゃ、時雨さんが寝ている間は暇なので、両隣の人の名前と顔は把握しました。壁抜け、やはり便利です。……外、騒がしくありませんか?」

「えっ?」


 そういえばそうだ。何か揉めているような。僕の部屋の前だ。恐る恐る扉を開けて覗き込んでみる。


「如月さん、どうかした?」

「時雨、出て来るな。こいつは危険だ。包丁を持ってお前の部屋の前にいたからな。取り押さえた」

「くそっ、何こいつ、強すぎる。あーもう! 離しなさい、私は五月雨君の家に晩御飯作りに来ただけだって言っているでしょ!」


 扉を開けると、そこではもみ合っている二人の女子高生がいた。傍らには包丁が転がっている。


「先輩、彼女の言っていることは本当ですので、離してあげてください」

「ふむ、そうか。わかった。ならば私も混ぜろ」

「……はい?」

「私も一人暮らしだ。夕飯を作るというのもなかなか面倒なのでな。作ってくれると言うならありがたい」

「はぁ、良いわよ。二人分も三人分も変わらないから」

「……何か手伝う? 材料を切る以外なら、何でも」

「良いよ。座ってて。狭いし。一人の方が楽だし。私が勝手に作りに来ただけだから」


 出来心で落ちていた包丁を拾おうとした。柄に手が触れる。

 視界が真っ赤に染まる。吐き気がした。頭の中が真っ白に、ズキズキと頭痛がする。経っていられなくなる。


「何してるの? 大丈夫?」


 気がつけば、落ちていた包丁は如月さんの手にあった。


「早く入ろうよ」

「あ、あぁ」


 そわそわと出来上がるのを待った。

 水無月先輩みたいに、ノートパソコン持ってきて、遠慮なくくつろげるくらいの気持ちの余裕を持てたら良いのに。

 出来上がったのはお粥だった。それとサラダ。それと漬物。


「胃に優しい料理だな。助かる、しばらくまともに食べていなかったから」

「水無月先輩もですか?」

「も、というのは、時雨もなのか?」

「先輩は何か忙しかったとか、そんな感じですか?」

「あぁ、姉貴から頼まれた同人誌製作で忙しくてな」


 意外だ。

 たまに学校で見かける時、常にグループの中心にいるような人だ。所謂オタク文化に関わる人に見えなかった。偏見だけど。


「食べないの?」


 手を付けず話している僕を見て如月さんは軽く睨むような目をする。


「私の料理は食べる価値も無いって?」

「……ん、食べます」


 仕方ない。

 二日ぶりのご飯は、程よい塩加減と、広がる温かみ。消化に良さそうな食感。


「美味しいです」


 礼儀としてそう言った。実際、そう思っているかと言われれば、どうなんだろう。比べる対象が少なすぎる。

 苦も無く食べられたから、不味くは無いのだろう。


「ごちそうさま。良い味だった」


 水無月先輩はそれだけを言うと、手を合わせて自分の部屋に戻って行った。

 僕も、精々お粥一杯ならすぐに食べ終わる。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「食器洗うよ」


 食べ忘れていた沢庵をポリポリ食べる。久々に食べたけど、そういえばこんな味だった。


「良いよ。片付けまでが料理だから。それよりも、これから毎日、私が夕飯作りに行くから、食べないとか馬鹿な真似、やめなね」

「なぜそこまで……」

「別に、命を粗末に扱う奴が、嫌いなだけ。大っ嫌い」


 水を流す音が聞こえる。

 久々に、胃が活動している感じがする。


「時雨さん。生き残っちゃいましたね」

「……あぁ」


 餓死なら、そこまでグロイ死に方じゃないと思ったんだけどなぁ……。


「でも、君が本当にその通りに僕をしてくれるのか、信じ切れてない」

  

 あぁ言われた手前、如月さんの前では死とかそういうワードを避けることを選ぶ。


「そりゃそうですよね。突拍子がありません」

「あぁ」


 水を止める音が聞こえる。手を拭きながら出てくる彼女はまず僕を睨み、続いて日葵ちゃんを見る。


「日葵、またこいつが馬鹿げた真似をしたら教えてね」

「はい、お任せを」

「それじゃあ、今日はもう寝るから。バイバイ」


 自分の部屋の扉が開いて締まる音、続いて、隣の部屋に誰かが入って行く音。あぁ、本当にお隣さんなんだな。


「契約とか抜きに乗っ取れば良いのに」

「それは無理ですねぇ。時雨さんの魂と肉体の癒着をまず剥がさなければいけないので」

「面倒だな」

「はい、とても。なので、時雨さんに死なれては、私は困ります」

「僕は困らない」


 死のうとして死にきれなかったら、考えよう。



 

 「契約って、俺は君に何をすれば良いんだ?」


 お風呂から上がって僕は眠る前に聞いておくこと


「私の願いを叶えてください」

「君の願い?」

「はい。それで契約は完了。魂と肉体の繋がりを薄める時間になります。それが完了したら、時雨さんの魂が解放され、私の肉体になります」

「んで、その願いってのは?」

「わかりません」

「えぇ……」

「気がついたらこんな存在で、契約とか肉体の譲渡とか、そういう知識だけがありました」

「そっか」


 日葵ちゃんは見せつけるように空中でくるりと一回転して見せて。


「願い、ですか」

「……願いか。君は生前、やり残したこととかないのか?」

「そうですねぇ、こうなってしまう前は、地味な子だった覚えがありますよ」

「ふぅん」


 今目の前にいる賑やかな奴から真逆の言葉が聞こえたな。


「幽霊になれて、良かったと思うか?」


 その言葉に日葵ちゃんは、淡く微笑んで見せるだけだった。





 日葵ちゃんの願い。

 日葵ちゃんの、願い。

 どうしてか俺は次の日、一日、ずっと日葵ちゃんの願いを、そのヒントを求めていた。

 日葵ちゃんの淡い微笑みが頭から離れなかった。


「日葵ちゃんの願い、か。なんだろ。如月さんは何だと思う?」

「急に何の話……というか、私が知るわけないでしょ。……まぁでも、ずっとそんなんじゃ辛いよねぇ……んー」


 こうして真剣に悩み始めてしまうあたり、良い人だな。普通に。


「あはは。照れますね、二人の人が私のために色々考えてくれるとか」

「まぁ、放っておけないし」

「あはは」


 日葵ちゃんはクルクルと楽し気に飛び回って。


「嬉しいものです。色んな人と関われて、この姿になって初めて良かったと思えます」

「友達とかいなかったの?」

「いませんでしたねぇ」


 地味な子、友達がいなかった。

 どうにも今目の前にいる日葵ちゃんとマッチしない。


「幽霊になると人格のネジがぶっ飛ぶのか?」

「失礼な。日葵ちゃんはこういう人です!」

「ふぅん」


 それから如月さんが帰って、僕はぼんやりと天井を眺めながら考える。


「どうして急に私の願いなんか?」

「いや。なんだろ、気になったんだよ。今度は僕がそうなるかもしれないって想像したらさ」

「はぁ。……時雨さんはなれませんよ。純粋に死を望んでいる人が解放されたら、生まれ変わりの段階に入りますから」

「そうか」

「私みたいになるには、叶えたい願い、確かな未練がなければ、ダメですから」

「それを叶えたら、君も生まれ変わりの段階に行くんじゃないのか?」

「そのための、契約、ですよ」


 話は終わりだと、日葵ちゃんは膝を抱えて丸まるような体勢を取る。

 電気を消して目を閉じた。

 そこでふと、疑問が湧いた。


「じゃあ何で君は、生まれ変わるんじゃなくて、わざわざ面倒な手順を踏んで、肉体の譲渡、なんて……」

「知りたいですか?」

「えっ」

「……そっか。私、そうだったんだ。わかりました、私の願い」

「なんだよ」


「教えません。私との契約、結ぶことを選んでくれたら、です」

 日葵ちゃんの、願い。

 何だろう。

 なんで、生まれ変わるじゃダメなのだろう。なんで……。

 



 なんで。

 僕の中でなんでは尽きない。

 なんでそこまでして今の世界にしがみつこうとするのか。


「じゃあ、時雨さんは、何で死にたいのですか?」

「それは……」

「言ってみてくださいよ」

「……僕は、親を、殺している」 

「親を」

「必死だった。殺されると思った。いや、殺されていたかもしれない、あの時は何だったかな。そうだ、木製バッドで殴られていたんだったかな。何か、ぷつんと切れたんだよ、僕の中で。気がついたら目の前に転がっていた包丁を父親に何度も、必死になって突き刺して逃げ出して、追いかけて来た母親、マンションの階段で追いつかれそうになって、無我夢中で包丁振り回して、途中で包丁が動かなくなったから腕を振り回して。あの時の僕は、自分のことしか考えていなかった」


 そこまで話してようやく日葵ちゃんを見上げた。呆然と、ただ僕を見ることしかできない日葵ちゃんに小さく笑って見せて。


「そこまでしておいて、警察の人に僕は言ったんだ、お父さん達はいつ迎えに来ますか? って。婦警さんが泣きながら僕を抱きしめた。その時初めて実感した。僕が殺したって」


 それから、親戚に引き取られたのだけど、旦那さんは僕を我が子のように育てようとしたけど、奥さんが猛反対したんだ。人殺しを家に置けるか、って。だから僕は中学卒業するまで施設で育ち、高校生から一人暮らしを始めた。


「罪はずっと付きまとうんだ。ふとした時、僕はみんなと違って汚れていることを思い出す」


 あぁ、そっか。

 僕は。


「ふとした時に頭の中に聞こえるんだ」


 『僕はここにいてはいけない』『僕は生きていてはいけない』 


「僕は人殺しだ。僕はただ、自分のために誰かの命を奪った」


 『ここにいてはいけない』『生きていてはいけない』


 世界が段々色あせて行った。

 僕は罪悪感から解放されたかった。生きるという重荷から、解放されたかった。 

 あぁ、やっぱり、自分のためだ。

 だってそうだ。誰もそんなことを言っていない。僕に死ねなんて言っていない。僕は可哀想な子として扱われたのだから。

 誰も僕を責めない。僕を引き取ることに反対したあの奥さんだって、表面上は僕を同情していた。

 誰も僕を罪人として扱わなかった。僕以外、誰も。


「なぁ、日葵ちゃん、こんな僕の人生を、生きる覚悟、あるのか?」

「勿論です」

「そう、なんだ」


 僕は思った。

 ならば、素直譲るべきだと。

 僕のように今いる場所から逃げ出したいと思う人は、その席を座りたい人に譲るべきだと。


「結ぶよ、契約」

「えっ」

「日葵ちゃんにあげる。僕の身体」

「な、い、良いんですか?」

「うん。こんな僕の人生で良ければ、君に後は託すよ」

「……良いんですね」

「うん」

「……手、出してください」


 日葵ちゃんの言う通り、僕は左手を差し出す。


「これは、魂に刻まれた契約です。破れば、強制的に生まれ変わりの準備に移行されます」


 その言葉の終わり、何かわかりやすい現象が起きたわけじゃない。何かが光ったわけでもなく、何か紋章が出てきたわけでもない。でも、わかった。僕と日葵ちゃんの間に何かが結ばれたのが。心臓のさらに奥、何よりも大事な物同士が結ばれたんだ。


「ありがとう、日葵ちゃん」

「えっ」

「……ありがとう」


 ありがとうを、重ねる。


「な、何でお礼、なんて」

「わからない」


 僕もわからない。日葵ちゃんに、なんでありがとうを言っているのか。でも。


「でも、本当に、ありがとう」


 確かな直感がある。

 これで、僕は終われる。終われるんだ。


 


 次の日。特に何か身体に変化があったわけではない。ただ。変化があったのは。


「起きてください! 時雨さん。しっぐれさーん! 起きろー!」

「……なんだよ。日葵ちゃん」


 耳元でガンガンと鳴り響く大声に朝っぱらから脳みそが揺らされた感じ。目を開けると空中に仁王立ちした日葵ちゃんが僕を見下ろしていて。


「さぁ、食べてもらいますよ。朝ご飯」

「朝、ご飯?」

「はい、朝ご飯。ブレックファスト。食べてください」

「どこで」

「今からなら十分用意できますよ」


 その言葉に枕元に置いてあるスマホを手に取ると。


「……六時。あと一時間は寝られるじゃん」

「その身体は私に渡される契約です。なるべく良い状態で渡してほしいと要求します。そのために五月雨時雨さん。健康になってください!」

「え、えぇ……いや、まぁ」 


 確かに、それは納得の理屈ではあるな。


「わかったよ」

「よろしいです。あと、今日から運動もしてもらいます」

「なぜ」

「もやしじゃないですか。なんですかその、ただ細いだけのひょろっとした身体は」

「きゅ、急に辛らつだな、日葵ちゃん」

「今日から私の願いを叶えて、それからの魂の癒着がはがれるまで、ビシバシ管理していきますからね!」

「その前に、日葵ちゃんの願いって、なんだ。わかったんだろ」

「……では、お願いがあります」

「おう」 

「その、連れて行ってほしいところがいくつかあります」

「あ、あぁ」


 とりあえず冷蔵庫が空だったので近くのコンビニに行くべく外に出る。その途中。


「明日土曜日ですよね、お願いできますか? まずはその……そこです、あれ」

「うん」 


 日葵ちゃんが指さしたのはMの文字を掲げたハンバーガー屋さんだった。


「放課後でも良いじゃん」

「ほ、放課後、ですか?」

「駄目か?」

「あ、い、いえ」


 そしてその日の放課後。


「どこ行くの?」


 学校の前でたまたまあった如月さんと帰る途中、日葵ちゃんとの約束を思い出してハンバーガー屋に足を向ける。


「日葵ちゃんの願いを叶えるにはハンバーガー屋に行かなきゃいけないらしい」

「ふぅん……私も行く」

「ん?」

「夕飯もそれで良いや」

「そっ。じゃあ」


 こんなことで良いのだろうか。目の前でチーズバーガーをダブルにしたハンバーガーをかぶり付く如月さんを眺めながらちまちまとポテトを齧る。


「いやー、良い食べっぷりですね瑞樹さん。時雨さん、見習ってくださいよ」

「なんだと」

「そうだそうだ。くえっ!」

「もごっ、いや、それ、君の」


 如月さんに押し込まれたチーズ―バーガー。贅沢にも二個分のハンバーグから放たれるジューシーな食感とチーズの香りと旨味。


「美味しいけど、一個食ったら胃にきそうだな」

「普段から飯食べないからだ」

「如月さんは、よく食べるね」

「まぁね。食べ物は粗末にしないようにしてるの」

「はぁ」


 その言葉通り、間接キスなんて言葉の存在を知らないかの如く、僕に齧らせたハンバーガーを再び食べ始める。僕は僕でポテトを齧る作業に戻る。こんなことで願い叶うのか、日葵ちゃん。

 それから夜。


「ファイト! ファイト!」

「あ、あと、何週?」

「五周です」

「みょ、妙に、実現。可能な、はぁ。数だな」


 アパートの周りをグルグルと走らされる。


「ここから腹筋と腕立てとスクワットと背筋がありますから」

「……はぁ」

「……何やってるのよ」


 再び如月さん、アパートの二階の手すりから呆れたような顔を覗かせている。


「日葵ちゃんが、運動しろと。何で出てきた」

「日葵の声が外から聞こえたからね」

「あぁ、そっか」

「程々にしときなさいよ、もやしっ子が急に激しい運動すると、大体怪我するから」


 そう言いながら、自分の部屋の扉の向こうに消えていく如月さん。


「だってよ、日葵ちゃん」

「なるほど、それは確かによろしくないですね。ではウェイトトレーニングに入りましょう」

「はいはい。そういえばさ、日葵ちゃん」

「はい。何でしょう」

「日葵ちゃんが見える人と見えない人の違いって、何だろ」

「あぁ、おそらく如月さん、昔大変なことがあったのでしょうね。死に近づいたことが有るか無いかの違いですよ」

「死に、近づく?」


 上体起こししながら日葵ちゃんに続きを促す。


「例えば時雨さんの両親との出来事、最近ですと、首つり未遂。あれもまた、死に近付くような出来事です。如月さんも、何かあったのでしょう。大きな出来事」

「そっか」


 何だろう。でもまぁ、聞くようなことでもないだろう。僕だって、両親とのこと、誰かに話そうとは思わないから。

 そんな日々。


「ま、マジで行くのか?」

「はい!」

「なんだ、怖気づいたか。時雨」


 文芸部部室、なぜか僕の存在に気づいた水無月先輩。扉が開き僕の手にあった入部届が奪い取られる。


「やっと入る気になったか、嬉しいぞ、時雨」

「よ、よろしくお願いします」


 にんまりと笑った先輩に引きずり込まれた部室。僕は早速、水無月先輩に言われた通りの作業、ペン入れ? というものをやる。水無月先輩は日葵ちゃんが見えない筈だけど、日葵ちゃんは楽し気に僕たちの周りを飛び回る。




 「ふむ。ゲーセンとは、時雨にしては珍しいところに入ろうとしているな」

「あぁ、炎陽、お前は入ったことはあるか」

「無いな」

「そうか。僕も無い」

「では、お供しよう」


 ゲーセンに行きたいという日葵ちゃんの言葉に従い、訪れたのだが。目に入る、耳に入る情報量にクラっと来た。


「……なんかやってくか」

「この太鼓のゲームでもやろう」


 お互い慣れない空間、太鼓のリズムゲーで惨憺たる成績を残しゲーセンを後にする。


「まぁ、楽しかったな」

「あぁ」


 自販機で買ったジュースを片手に、炎陽の家である寺まで見送って、そして。


「どうだった、日葵ちゃん?」

「まぁ、苦手な場所で無理させるわけにもいきませんし」

「そもそもなんなんだ、日葵ちゃんの願いって」

「順調に叶ってますよ」

「そっか」

「……時雨さん、顔色、よくなってますね。それに、笑うようになりました」

「そうか?」

「はい……良かった」

「使う予定の身体の質が良くなってきて、か?」

「いえ……あっ、いえ。そうですね。その通りです」

「ん?」

「何でもないです」


 プイっとそっぽ向いた日葵ちゃん。


「くくっ。なんだよ。らしくないな」

「何でもないです。らしく無いのは時雨さんです。本当に、笑うようになりましたね」

「……変か?」


 そう言いながら家の鍵を開けて中に入る。


「はい、とっても変です。でも……嬉しいです。……あれ」


 日葵ちゃんは目元を拭うような動作をする。


「? どうしたんだよ」


 なんとなく手を伸ばして日葵ちゃんの手を掴む。


「……えっ?」

「なんだよ」

「あれ……なんで……? あはは、おかしいのは、私でした」


 そう言って日葵ちゃんは手を振りほどき、ふわふわとどこかに飛んでいく。扉をすり抜けてどこかへ。


「? なんなんだ?」


 おかしいのは存在からだけど、それでも。


「はぁ、せめて願いの内容くらい、教えてくれればね」


 僕はちゃんと日葵ちゃんの願いを、叶えられているのだろうか。


「……あれ、僕、さっき、日葵ちゃんの、手」


 感触が残っている。日葵ちゃんの手は、温かかった。




 その日は随分と平凡だ。当たり障りのない時間が過ぎていく。途中までは。


『全校生徒は教室に戻り、決して外に出ないでください』


 なんて放送が流れるまでは。


「時雨さん、時雨さん」


 窓から戻って来た日葵ちゃんが机の高さまで降りてくる。炎陽が一瞬顔をしかめた。やっぱり何かしらの才能あるな、僕の友人は。


「大変です。緊急事態です」


 教室の中だから大っぴらに会話できない、目で続きを促す。  


「飛び降りようとする女子生徒がいます」


 歯を食いしばって声が出そうになるのを堪えた。如月さんもこちらを見て目を見開いている。


「今、先生方が必死に説得していますが、応じる気配がありません」


 ……だけど、飛び降りていない。

 あの時の、首を吊ろうとしていた僕と同じだ。思い切りを、背中を押してくれるタイミングを探している。本能的な死への恐怖を、踏み越えられる衝動を待っている。

 この世界に留まりたいという一縷の引き止める何かを、振りほどこうとしている。


「……だからなんだって言うんだ」

「どうした時雨」

「……何でもない」


 死のうとしている奴がいる。誰がそれを引き留める資格があろうか。

 そいつはそうなるまで追い詰められたということだ。そうなるまで、誰が彼女の気持ちを理解して、適切な手の差し伸べ方をした。誰もできなかった、あるいはしなかった。

 見て見ぬふりをすること、それは、追い詰めた奴らと同罪だ。彼女を引き留める資格を持つ奴は、彼女の周りにはほとんどいない。だけど。


「……僕にはあるな」


 立ち上がる。それを見た如月さんも立ち上がった。


「行くの?」

「あぁ」

「そっ」

「君も来るのか」

「付き合ってあげる。どうせ先生方に引き止められるし」

「あっ、おい。時雨。教室にいろって」


 炎陽とか、あと、如月さんを引き留める声がいくつか聞こえたけど無視した。

 階段を上がっていく途中、先導していた如月さんに手で制される。


「……いったんここでストップ。私が先生を誘い出す」


 如月さんが真っ直ぐに上の、屋上に繋がる踊り場を見ている。そこには先生が五人ほどいた。


「他の先生は警察や救急隊員への電話対応や、抜け出した生徒がいないか廊下の見回り。下に柔らかいものを敷くべく準備しています」


 という日葵ちゃんの言葉に頷く。


「五月雨君が行って」

「……良いのか? 命を粗末にする奴は許せないんだろ」

「うん。でも、君は言いたいことがあるって顔してる」

「なんだそれ」

「マシな顔。日葵のおかげ?」

「……さぁな」

「私も協力しよう」


 後ろからの声に慌てて振り返る。立っていたのは長い髪をそのまま下ろした、堂々とした出で立ちの、よく知る先輩。


「えっ? ……水無月さん。なんで」

「いやなに。たまたま授業をサボっていたら色々聞こえてな。そこに君たちが来るではないか。なら、私がやることは決まっているだろう。時雨、君を送り出した方が、マシな展開になるかもしれん。教師共の説得文句、あんなものが響くわけなかろう。なにが親御さんや友達の気持ちを考えろ、だ。ではまずは頼むよ。瑞樹」

「私任せですか……はぁ。そこに隠れてて。先生! あの、貧血で倒れた生徒が。ほ、保健室の先生が、いなくて」

「わかったすぐに行く。男の先生、担架を」


 保健室の先生と体育担当教員が二人、階段を駆け下りていく、それを、廊下でやり過ごして。そして。


「私が先頭だ。君は、屋上に飛び込め」

「はい」


 そして。


「な、君たち、教室に」

「ふはは。行け、時雨!」


 水無月さんが女性教員二人をあっさりと取り押さえ、僕は、屋上への扉を開いた。フェンスの向こう、屋上の縁、頼りない足場に立つ女子生徒、上履きの色から同じ学年、一年生とわかる。


「君が、飛び降りようとしている生徒だね」


 返事はない。ため息を一つ、上から日葵ちゃんがどうする気ですかと目で聞いてくるが。どうする気も無い。ただ、僕が伝えたいことは一つだけだ。


「……四階建ての校舎の屋上。大体十数メートルか。それくらいだと成功率は50パーセント前後という説もあるな」


 ちらりと見た女子生徒は、ごくりと何かを飲み込む。


「まぁ、落ち方にもよるけど、まず、頭から落ちないと駄目だね。しかもこっち側って確か植え込みなかったけ? 風とかに煽られてそっちに逸れたらまぁ、中途半端に生き残ることになりそうだ。破裂した内臓とか、折れて皮膚から突き出た骨とか、見ることになるね」

「止める気あるのですか、時雨さん」

「無いよ。そんなもの。仮に君に、頭から勢いよく飛び降りる度胸があったとして。ジェットコースター並みの浮遊感を感じながら上手い具合に目論見通りに行ったとして。アスファルトから死体を引き剥がすような作業が必要になるわけだ」

「何が、言いたいの」


 初めて返って来た反応に、唇を吊り上げて。


「あ? わかんねぇのかよ。僕は君が死ぬことを止める気はないが、その方法はお勧めしないって言ってんだ。手軽に見えるが意外と安定しないんだよ、その方法は。それに……」


 僕が最も言いたいこと。


「……どうせ死ぬなら、なるべく迷惑をかけずに死んでくれ。僕はそれを言いに来た。ぐっ、いって。何すんだ!」

「何を言うかと思えば何ですかそれ! 止めに来たんじゃないんですか!」

「何って何だよ。いって、叩くな。つーかなんで僕日葵ちゃんに、幽霊に殴られてるんだよ」

「魂の距離が近づいたんですよ。ぐへ、叩き返さないでくださいよ。女の子ですよ」

「うるせぇ、男女平等パンチだ」

「……なによ。……なによっ!」

「! 時雨さん!」

「くそっ」

「えっ。時雨さん! 時雨さん!」


 日葵ちゃんの引き止める声を振り切って僕は走る。

 なんとなくわかった。日葵ちゃんもわかったのだろう。彼女が飛び降りる決心をしたのを。

 この時の僕は、生まれてきて一番、素早く動けたと思う。日葵ちゃんに言われてトレーニングをしたからだろうか、如月さんにトレーニングメニューの作り方、聞いてたみたいだし。僕もそれに従っていた。

 フェンスを駆け上がり、重力に従い落ちていく女子生徒の身体を抱えこむ。ちらりと、水無月先輩が僕を追いかけて走ってくるのが見えた。屋上の縁に手をかけた。火事場の馬鹿力というのだろうか、人一人を抱えながら、ぶら下がっている。どうして僕はそんなことをしたのだろう。でも、どうしてか僕は冷静で。手が滑る瞬間をしっかりと見ていた。

 あぁ、死の淵ってこんな感じなんだ。どうにもならない。はっきりとそう思わされた。

 フェンスを乗り越えた水無月先輩が落ちていく僕に向かって手を伸ばしていて。でも、届かなくて。

 この時ようやく思い出した。死というものの冷たさと、底なしの闇。

 両親を殺した時感じたのに、確かに感じたのに、何度も夢に見たのに、どうして忘れていたのだろう。死は決して甘美な物じゃない。救いはあるかもしれない。このままいけば確かに彼女の心は救われるかもしれない。けれどそれは決して、優しい救済じゃない。未来という自分の可能性全てを代償とした、それは本当に、釣り合っているのだろうか。いや、彼女は、それしか選べなかったんだ。

 本当に、どうしようもない。

 殺すことしか選べなかった僕と同じだ、彼女は、自分を殺すことしか、選べなかったんだ。

 落ちていく、下がっていく。地面が近づいてくる。まだかな。やけに長いな。


「馬鹿時雨さん!」


 声が聞こえた。最近すっかり聞き慣れた声だ。

 そして、ぐんぐん上がっていたスピードが、急に緩まった。……えっ。

 冷たい感触。けれど、身体の奥底がポカポカと温まる感触だ。


「本当に、馬鹿、時雨、さん。死なないでください……生きて、ください」


 聞こえた涙交じりの声。日葵ちゃんが、下から、支えている。


「えっ……浮いてる、女の子」


 女子生徒も、下を見て驚いたように目を見開いていた。あぁ、そっか、死に近付いたから、日葵ちゃんが見えるようになったのか。

 そして僕たちは傍から見たら不自然なくらいゆっくり地上に降り立った。


「……はぁ」


 ため息一つ。


「……まぁ、よく考えることだ」


 女子生徒を下ろして立ち上がる。


「それじゃ」


 で、済んだらよかったのだが。流石にあの女子生徒は一旦保護者に引き渡されたが、僕達、僕と如月さんと水無月先輩は校長室でしっかりと絞られた。それから色んな大人に事情を聞かれ、叱られ。停学三日と反省文を言い渡された。

 その間、日葵ちゃんの姿がどこにも無いのが気になった。


「ふっ、時雨も無茶をする」

「本当だよ」

「あはは」


 まぁとりあえず疲れた、僕達はそれぞれの部屋へ帰った。 

 家に帰って。


「日葵ちゃん、そろそろ出て来てくれないか。流石に心配だ」


 そう声をかけると、天井から。

「すいません。考えたいことがありまして」

 と言いながら、見慣れた姿が降りてくる。


「考えたい事って何だよ」

「……時雨さん。今日のこと、時雨さんは契約を破りかけました。まずはそれを怒ります」

「あぁ、うん。ごめん。気がついたら。いや、ごめん」 


 日葵ちゃんは腕を組んで一つ頷いて。


「まぁ、そのことは良いです。今ちゃんと無事ですから」

「うん」

 そして首を横に振り。けれど少し唸り。それから。

「考えました。私。これからのこと」

「うん」

「そして、決めました。時雨さん」


 日葵ちゃんの雰囲気が変わった。それはピンと周りの空気を一気に張り詰めさせるような。

 ゆっくりと口が動く。その言葉を理解するまで、十秒ほどの一瞬が必要だった。


「契約を破棄します」


 契約を、けいやくを、破棄します。はきします。


「えっ……なんで」

「生きて欲しい。時雨さんに、生きて欲しいんです」

「な。なんで」

「そう思ってしまったんですよ。生きることの素晴らしさを、知って欲しい。死にばかり希望を見出さないで欲しい。時雨さん。生きてください。それと、出来るなら、生まれ変わった私を、探してください。それが、私の願いです」

「日葵ちゃん……でも」


 ゆっくりと降りて来た日葵ちゃんが腕を広げて、それから包み込まれる。


「時雨さんなら、出来ます。だって。楽しかったです。時雨さんとの時間。それに、出来るようになったことが色々あるじゃないですか。ご飯を食べられるようになりました。運動も少しはできるようになりました。……あっ、そろそろですね」

「な、なにがだよ」

「強制成仏です」

「日葵ちゃん、待って」

「時雨さん、お願いします。私の願い、叶えると言いましたよね」

「……一方的に、契約破棄しておいて」


 でも。

 僕は、日葵ちゃんのおかげで。


「君との日々、騒がしかったけど、楽しかったよ」

「嬉しいです」

「聞き入れる。君の願い」


 これは契約ではない。でも。確かに存在の奥底に刻まれた気がした。

 消えていく日葵ちゃん、景色に溶けていくように、日葵ちゃんは。


「……あ」 


 包んでいた温もりが無くなって、ふらふらと立ち上がる。台所の引き出し。新聞紙に包んだそれ。包丁。取り出す。


「……持てる。ちゃんと」


 心の奥、さらに奥、一番大事な部分が一人じゃないと言っている。繋がっていると、言っている。




 それはどこかの時代、どこかの世界。

 僕は探している。その子を探している。

 その子の願いを叶えろと、言っている。もう知らない誰かかもしれない。けれど、わかる。その子と出会えば、きっとわかる。



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