行き止まり
祐はコテージに入ると、自分の荷物の入ったリュックサックを手にした。この中にはキャンプをするために色々と道具が入ったままだ。中身を確認。LEDライトやインスタントカレーなどが入っている。ざっと確認だけすると、リュックサックを背負ってコテージを飛び出た。
「お、おい祐!」呼び止める弘信を無視して洞窟へと向かった。
洞窟からコテージに向かっている途中の、伸介と陽太を追い抜き、洞窟に駆け込んだ。リュックサックからLEDライトを取り出して再び行き止まりまで進む。
「この辺りに祠があったはずだけど……」
祐はキョロキョロと周囲を見回す。だが何も無い、ただの行き止まりだ。
「まさか本当に僕の思い違いなのか」一瞬呆然となりかける。だけど、
「馬鹿、諦めるな」祐は両方の頬をパチンと叩く。「あの思い出は夢なんかじゃない」
気を取り直して丹念に行き止まりを調べる。洞窟の中とはいえ、それほど大きなものじゃない。蒸し暑い夕暮れだ。ジワリと額に汗がにじむ。
「ん?」すると、フッと頬に風が当たる。
「隙間風? どこからだ?」
そよ風が吹く方向に目を向ける。そこはゴツゴツとした岩壁だ。祐は慎重に岩壁をさすりながら割れ目が無いか探す。
「もしかしたら、この奥は空洞かも……」
10分ほどそうしていると、腰ほどの高さの岩がゴトリと動く。祐はその空いた穴に手を突っ込む。
「やっぱり」
この岩壁の向こうには空間が広がっているみたいだ。
「ならば……」祐はリュックサックを下ろすと、テントを張るために用意していた鉄の杭と金槌を取り出して岩壁を叩いた。幸い岩壁は見た目ほど強固ではない。徐々に穴が広がり、人が通れるほどの大きさになった。
「ふう」祐は大きな深呼吸をすると、道具をしまい、リュックサックを背負いなおして穴に入る。
その空間は今まで通ってきた洞窟と同じくらいの大きさだ。ただ周囲の岩壁が時々淡い光を放つ。
「どこに繋がっている」
祐は不安な心を押さえ込みながらも洞窟を進む。すると、また鳥居が見えてきた。
「もしかして、あれが出口なのか」
祐は急いで鳥居に駆け寄った。
鳥居の下は黒い空間になっている。まるであの世に繋がっているみたいで不気味な雰囲気を醸し出している。
祐は落ちている小石を空間に向かって投げた。
「……」何も音がしない。
「本当にあの世に繋がっているんじゃないよな」祐はゴクリとつばを飲む。この先に何か遙の手がかりがあるのは間違いはないはずだ。だが未知のものに対する恐怖心に足がすくむ。
祐は携帯につけたストラップを見やる。それは遙とのデートでゲームセンターに行ったとき、景品で手に入れたおそろいのものだ。
買えば500円もしない安物だ。遙の好きなペンギンが、不敵な微笑みを浮かべているもので、大学生がスマホに付けているのは見られると恥ずかしい品物だ。
だけど、そのペンギンを見ていると遙の笑顔が思い出せるのだ。
『あの人、強がってるけど、キミのこと待ってるよ』と、妖精の声が聞こえた気がした。
「よし」祐は意を決して空間に足を踏み入れた。
漆黒の闇。自分の手さえ見えない。
「ここは……」次の言葉も発する前に、祐は自分の身体が、何も無い空間に放り投げられたような感覚に陥った。
何事かと考える前に、突風が祐を襲う。まるで大きなミキサーに放り込まれて、かき混ぜられるようだ。上下の感覚が喪失する。意識を保っていることも不可能だ。祐の意識はプツリと途切れた。