はるかって誰ですか
「なんだったんだ」
祐は唖然としながら妖精を見送った。暫く呆然としていたが、「しっかりしろ」と頬を両手で思い切り叩く。少し頭がスッキリした。そんなことよりも遙を探し出す方が先だ。大急ぎで洞窟の入り口へと戻った。
入り口には伸介と陽太が居た。
「おい、遙ちゃんを見なかったか」
祐は流れる汗を拭いながら尋ねた。だが、二人はポカンとした顔で不思議そうに祐を見つめる。
「だから、遙ちゃんを見なかったか、と聞いてるんだよ」
祐は苛つくのを隠しもしないで尋ねた。
二人して顔を見合わせる伸介と陽太。
「おい、陽太よ」「ああ、伸介」
「ついにか」と深刻な顔を見せる陽太。
「そうみたいだ」深く肯く伸介。
「「ふ~」」伸介と陽太は神妙な顔をして頷き合った。
「何頷き合ってんだよ。遙ちゃんだよ、遙っ。彼女を見なかったかと聞いてるんだよ」
必死になって問いただす祐にたいして、真剣な顔をした陽太が、諭すようにぽんと祐の肩を叩いた。
「祐よ。ついに脳内彼女まで見ちゃったのか」
「お、おい。お前ら冗談だよな」
「冗談? 冗談を言ってるのはお前だろ」とあきれ顔の陽太。
「くとっ」
祐は二人をおいて駆け出した。
こいつらに聞いても埒が明かない。遙の友人である竹下優理を思い返す。彼女ならば、きっと遙を覚えているはずだ。祐は更に駆け出す足に力を込めた。
コテージの庭では、バーベキューの準備を終えた弘信たちが、弘信を中心とした女性たちと談笑していた。その中に優理の姿も見えた。
「ゆ、優理ちゃん。あのさ……」肩で息をする祐。言葉を出せず口だけがパクパクと動く。
「祐さんどうしたの?」
「さては優理に告白するのかな?」
と、茶化すのは里中美樹だ。彼女も遙の友人だ。
「あ、いや美樹ちゃんでも良い」
「えー、二人に告白するの?」
「冗談はいいからっ」祐は真剣な顔で美樹を見つめた。
「な、なんですか」と頬を赤らめる美樹
「キミは遙ちゃんの友人だよな」
「はるか?」ポカンとした顔をする美樹。と、直ぐに顔を真っ赤にして怒りだした。
「はるかって誰ですか! 冗談にしても酷いですよっ」
「遙を知らない……。優理ちゃんもか?」
「はい。はるかなんて子は知り合いにいません」
祐は美樹と優理の顔を見合わせる。二人とも真剣な顔をして起こっている。
それで祐も理解した。
「みんな遙ちゃんを知らないのか。……そんな馬鹿な」
祐は膝から崩れ落ちて、両手を地面につけてうなだれた。
「なあ、祐よ」
弘信が祐の肩に手を載せた。祐は恐る恐る彼の顔をのぞき見た。
「お前にしては冗談が過ぎるぞ」
「弘信まで、そんな……」
祐はやっとこの現状を理解した。自分以外遙のことを覚えていないことに。
「くっ、ちょっと一人にさせてくれ」
祐は大股でこの場を去るとコテージに向かう。コテージのドアを乱暴に閉めた。
「どうなっている、どうなっている」
祐は恐る恐るスマホを取り出して、電話番号を検索。
「あった」
確かに遙の電話番号はある。だが、指先はそれを押せない。
「え」
指先は凍ったようにタップできないのだ。それは遙の実家の電話番号でも同様だった。