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神樹の森の巫女  作者: さすらい人は東を目指す
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夜空の下で

 祐は蒸し暑さに目が覚めた。

 白い天井と消毒液の臭い。殺風景な部屋だ。自分の部屋ではないが、見覚えがある。

 そういえば、四年前の梅雨のころ、交通事故にあい入院していたっけ。



 四月末、交通事故にあった。

 欲しかったプラモデルを偶然手に入れた。ニンジン嫌いの主人公が搭乗するMAだ。

 馬鹿でかい箱を四苦八苦してスクーターに載せて、意気揚々と家路を急いでいると、脇見運転の車に跳ねられてしまった。アニメの主人公は敵陣へと突貫するのだが、現実はこちらが突貫されてしまった。

 相手のミニバンは黄信号で、交差点に無理に進入した。相手が祐の存在に気付いたときには、ブレーキを踏むことに間に合わなかった。結果、祐は派手に吹っ飛されてしまった。

 全治四カ月の大怪我だ。怪我の内容は、左肩の打撲、複数の打ち身と捻挫、左腓骨を複雑骨折と今思い返しても痛みが蘇るようだ。


 祐は、病院のベッドの上でダラダラとゲームをやったり漫画を読んだりして過ごした。健康な時は、面白かったゲームや漫画も、ベッドで寝込んでいると大して面白いとは感じなかった。

 それどころか、友人たちに取り残される気がして焦る。ギプスで動かせない左足を見て大きなため息を吐いた。

「入学してすぐコレかよ」

 ゴールデンウィークは吹っ飛んだし、夏休みもかなり怪しい。それどころか赤点連発で留年の可能性まである。まあ夏休みは補習で潰れるだろう。


 月明かりの真夜中。頭が冴えて眠れない。枕元に置いてあるペットボトルの中身も残り少ない。仕方ない。気晴らしついでに自販機で買っておこう。

 不慣れな松葉杖を使って誰もいない廊下を歩く。近くの自販機にたどり着く。

「あれ? ポカリは売り切れか」

 無いと分かると余計に飲みたくなるものだ。

「仕方ない。一階まで行くか」

 総合待合室の横の休憩所、そこにも自販機がある。明日の朝の分も含めて二本買おう。


 帰り道、何気なく窓の外を見た。

 中央の中庭に誰かいる。

「こんな真夜中に何してるんだろ」

 祐は興味を覚えて窓に近寄る。月明かりでけではハッキリと見えなかったけれど、黒髪の少女みたいだ。どうやら何かの本を読んでいるみたいだ。夜空と本を交互に見ている。多分、星座か何かの本なのだろう。

「ふうん、熱心だねえ」

 祐は星座なんて大して知らない。知っているのは、オリオン座と北斗七星ぐらいだ。


 と、不意に少女がよろめき、座っていたベンチからずり落ちた。そのまま動かない。

「お、おい」これは大変だと、祐は急いで倒れている少女に駆け寄った。

「大丈夫? どこか痛むところはないか?」

 急に動かすのは不味いので、意識があるかどうかを確認する。

「あ、はい。大丈夫です」と少女は返事した。

 幸いベンチの周囲は芝生だ。怪我はないみたいだ。

「よし、まずは起き上がらないとね。捕まって」

 祐は無事な右手を使い苦労して彼女をベンチに座り直させた。

「すみません、立ちくらみをしちゃって」

 ぺこりと頭を下げて恐縮する少女。

「いいよ、気にしないで。それより怪我がなくて良かったよ」

 祐は平静を装ってそう言った。近くでよく見ると、思わず息を飲むような美少女だ。まるでグラビアに出るような顔立ちをした清楚な雰囲気に、思わず心臓の鼓動が早まる。

(お、おいおい。この子中学生くらいだぞ。ドキッとするなんておかしいぞ)

 祐は内心ドギマギしていることに、全力で否定した。

「あ、キミは星を見ていたの? 星座かな?」

 思わず見とれていたこがばれないように早口でしゃべった。

「はい。星空から星座を探すのが好きなんです。東京ではあまり見えないものですから」

 と、少女は嬉しそうに言った。

「へえ。まあこの辺りはそんな大都会じゃないからね。見つけられるもんだね」


 祐は少女と、星座のことや、他愛ない話で盛り上がった。可愛い少女との会話なんて初めてなものだし、なにより怪我で鬱屈していた気分が晴れ渡るようで嬉しかった。


 話が弾んでいる途中、彼女がくしゃんと可愛らしいクシャミをした。流石に夜は冷えてくる。

「あ、ゴメン。長話に付き合わせちゃって。そろそろ部屋に戻らないと」

「そうですね」と少女は少し残念そうだ。彼女も話し相手が欲しかったみたいだ。

「あの。えーと僕の名前は、五十鈴祐って言うんだ」

「私は天宮遙です」

「見ての通り骨折しちゃったんで、もう暫くこの病院のお世話になるよ」

 そう言うと、遙はクスリと笑った。


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