現状把握
その日は、とりあえず情報収集に励んだ。
とは言っても…なんと この世界にはパソコンもスマホも無かったんだよ。こうなると調べる物といえば、新聞くらいしかない。
「何とも…昭和な時代って感じだねぇ」
昭和20年代の生まれではあるが、現実世界ではパソコンもスマホも便利に使っていたんだ。元々、旦那が機械に強かったんでね。タブレットで店の商品管理をしていたから、自然とあたしも使えるようになったんだ。…というか、少しでも旦那の役に立ちたかったからね…。っと…んんっ。いや、それは良いんだよ。
今日の朝刊を床に広げる。いつも読んでいる新聞。
解読不能な文字などもなく、極々、普通の日本語だ。しかし、紙面の一面下部にある「マモノ発生予報・警戒、注意地区」という文字は初めて目にするものだった。
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マモノ発生予報・警戒、注意地区
本日のマモノ発生予想…レベル3/関東地区
レベル1/全国
住人の皆さまは21時以降の外出をせず、静かにお過ごし下さい。
照明も最小限に抑え、灯りが漏れないよう雨戸やカーテンをしっかりと閉めましょう。
21時以降の勝手な行動によるケガ等は保険等、一切の保証が出来ません。
緊急車両も例外を除き出動しません。自分の身は自分で守りましょう。
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…あまりと言えばあまりに一方的な”注意書き”に驚いたね。
あたしは他に手掛かりは無いものかと考え、店の方に何か無いかと立ち上がる。
「店に行くよ」と亜里に言いおいて小鉄を抱き上げて一緒に連れて行く。
店の方に来たあたしは、その様子が全く違う事に動揺を隠せなかった。
旦那の鉄夫が亡くなった時のまま駄菓子だけで商いしていたのに、半分近くが文房具になっていたんだ。これは 前に売り上げの下がり具合に危機感を覚えたあたしが鉄夫に提案した構想そのものだった。
「…小鉄ぅ…。こんなの、もう忘れてたのに…なんで…」
小鉄に聞くが、普通の猫に徹しているのか 何も答えてくれない。
きっとまた「ばぁちゃん、これ、ゆめ」と言われるだけだろうと思い至り 諦めて小鉄を降ろすと金庫を開ける。金庫とは言っても、入ってるのは その月の売上帳と日報や領収書と請求書、二万円分の釣銭用の小銭だけなんだけどね。
「…何もない、か」
あたしはため息を吐いて居間に戻った。
居間に戻ると小鉄を置いて、出来るだけ多くの古新聞を抱え込んで来ては広げる。
「あら…タエさん、今日はお店開けないの?」
「んー。ちょっと調べ物」
亜里は不思議そうに見守っていたようだが、「じゃあ、あたしが店番しますねー」と楽しそうに店を開けに行った。手慣れた様子に、半年も一緒に生活しているってのは嘘じゃなさそうだね…と見送ったよ。
持ってきた一番古い新聞は二ケ月前の物で、雨で資源回収が無かったのかね?と思いつつ隅々まで読んでいく。
読み進む内に違和感に気付いた。
「…?国内の情報ばかりで海外の情報が殆ど無い…というか、あっても数日遅れじゃないか…」
はて…?疑問に思いながらも、とりあえず読めるだけ読んでしまおうと更に新聞を広げていく。そして、いくつか分かった事がある。
「”マモノ”ってのは…お化けの事なのかねぇ?」
”マモノ”にはレベル1~レベル5まであると詳しく書かれた記事を見つけて呟いた。
それによると、”マモノ”は四年ほど前から 日本を中心に世界に出現している。原因は不明で退治方法もわかっていないが レベル1は地縛霊のようで刺激しなければ何の問題もない。レベル2は浮遊霊のようなもので動く者に憑りつき災いをなす。
レベル3は動物霊のようなヒト型ではないもので、動くモノ全てに噛付き、切り刻む。レベル4は憑依霊のように人格を乗っ取り、狂人となって周りの者を見境なく殺していく。レベル2との違いは憑りついた者だけではなく、周りにもひどい被害が出る事のようだ。
そして、レベル5。
これは怨霊に相当するそうで、もし遭遇しようものなら苦しんで苦しんで、正に生き地獄を味わいながら命を奪われる…と書かれていた。
そして このレベル5は発生時に大きく吠えながらゆっくりと朝日が覗くまで徘徊し、日の光で霧散する。発生翌日が曇っていたり雨や雪だったりすると、最大で正午近くまでうろついてから消えるのだが 不思議な事に天候に関係なく夜が明ける時分から姿が見えなくなり吠える声だけが聞こえるようになるらしい。
「…なんというか…まるで出来の悪いゲームみたいだね…」
何の手立てもなく、戦う事も出来ず隠れる事しか出来ないとか…ありえないだろうに…。顎に手を当てて唸ったが、ふと 魔法少女の設定で夢を見ているはずでは?と思い出して小鉄に聞く。
「まさか…この”マモノ”ってのを駆除すんのかい…?」
小鉄は片耳をピコンと動かしただけ。でもその口元がチェシャ猫のようにニンマリしているのが分かる。
「やれやれ…」あたしは疲れた顔をして立ち上がると小鉄を抱いて撫でるのだった…。
そして、その夜。
20時半になった所でブルリと体を震わせた亜里が子供のように「電気を消して寝室に行こう」と腕を揺らすのに、あたしは微笑んで先に行くように促した。
「うちは雨戸を閉めてるし、そんなに気にするもんじゃないよ」
「もう!タエさんは呑気過ぎ!この間だって、レベル5が発生するって聞いて隙間から見ようとしてたじゃない!」
「おや…」
亜里の剣幕に驚くが、どうやらコッチの自分の性分も そんなに違わないらしいと納得した。少ししたら行くから…と更に言って聞かせて先に休ませると、あたしは一目”マモノ”を見るべく じっと時を待った。




