再会
「…ちゃん、ばーちゃん…、ねえ、ばーちゃん、おきて…?だいじょうぶ…?」
「…ぅ…」
心配そうな声と、顔を押す小さな手に朦朧とした意識が戻って来た。どこかにぶつかったのか、体中に痛みを感じる。何とか目をこじ開けて見れば、とんでもなく心配そうなくろぶちの顔があった。
「ばーちゃん!」
本当に嬉しそうな声であたしの両頬を挟んで頭を擦り付けてくる。
「ばーちゃん、ごめん。いどうするの、しっぱいした…」
あぁ、可愛いよなー。こんな事されたら文句言えないよなあ。痛みに顔を顰めながらゆっくりと上半身を起こし、そしてカナコの事を思い出す。
「いでで…。くろぶち!無事でよかった!…カナコは?一緒に居たんだが…」
くろぶちは首を振って肩を竦める仕草を見せた。慌てて周りを見回すが、自分とくろぶち以外にはデカくなったナマコしかない。…このナマコ、前よりずっと大きく…枕から10歳の子供くらいの大きさになって綺麗に光ってるじゃないか…。綺麗なナマコって…なんか、変。いや、でも、こんな大きいのを小っちゃいくろぶちが移動させてたの?うわ…過酷な労働条件だね…。
「つながったの、ばーちゃんだけ。カナコは、たぶん こてつがまもってる」
「…ミミが、じゃなくて小鉄が、なんだね?」
言下に何があったのかを把握してるんだね?と込めて言うと、くろぶちはため息を吐いた。もはや、ため息はトレードマークだね!…あたしのせいみたいだけどさ。
「ミミは、そこまで かんしょうできない。あぁ…また、おってきた…。しつこいな…。ばーちゃん、ちょっと、ばしょ、かえる…」
くろぶちは片耳をピピピッと動かしながらそう言うと、ナマコを宙に浮かせた。
なるほど、これなら運べるね。まさかの重労働でなくて安心したわ。胸を撫で下ろしつつ頷いて答えた。
そしてまた、移動される。今度の場所は初めてナマコを見た場所に似た、真っ暗な所だった。最も、くろぶちたちのしっぽの灯りだけが頼りだった前回よりは明るい。…ナマコ、結構、光ってる!
少し歩いてから止まったくろぶちは、疲れたおっさんのように座りこんだ。
「…どうしたんだい?随分と辛そうだね…」
くろぶちは小さく頷いた。らしくない仕草にキュンとしつつ、言葉を待つ。
「あのときの、へんなの…しつこい。レベル5よりも、ずっと、めんどう…」
「へんなのって…あのヒトもどきの事だよね?」
「ヒトもどき…?うん、そうだね」
あたしの表現に、くふっと小さく笑うくろぶち。そして、今回”マモノ”の出現場所に行けなかったのは”マモノ”が出る前にヒトもどきが追っかけてきたから逃げていたからだと教えてくれた。
「…つまり…やっぱりアレはレベル5と同じ存在って事か…?だから今回は出なかったのか?…ん?どうしたね、くろぶち」
腕を組み顎に指を当ててボソリと呟くと、くろぶちが変な顔をしていた。
「…レベル5、でなかった…?」
「ああ。小鉄と相談して夜中の1時まで待ったんだけどね、出なかった。んで、ストレス発散も兼ねて一応”マモノ”を倒したんだけど…欠片は一つも出なかったんだ。で、撤収した。後で小鉄を褒めてやってな。あんたと連絡も取れなくて不安な中頑張ったんだから」
「うん…。もう、いっぱいいっぱい、だったから…」
鼻にシワを寄せて首を振るくろぶち。
「もちろん、あんたも良く頑張ってるよ。お疲れさん」言いながら、その頭を撫でた。目を瞑って気持ち良さそうにするくろぶち…抱き上げたくなるのを必死で我慢したよ…。
「…で?これからどうするんだい?」
「うん…どうしよう…」
…あたしを呼んでおいてどうしようって…なんだかな…
それを言ったら、「みんな、つながらない…。ばーちゃんだけ、よべた」と。
困ったねえ…とナマコをじっと見つめる。ホントに綺麗だなあ…この前見た時の鈍くて気味の悪い光り方と全然違う。
見つめていたら、また微かに音が聞こえてきた。
あたしは こんな状況にも関わらず、何故か嬉しくなって目を細めてしまう。そして、怪訝な顔のくろぶちの頭越しにナマコに触れた。




