タエとカナコ
立ったままなのも何なんで、あたしはカナコを促して手近な所に腰を下ろした。
何にせよ、小鉄もミミも居ないんでは帰れないしな…。
「タエちゃんたち…なんで此処に?」
何故か遠慮がちに質問されたので、「良く分からないが、小鉄に移動された」と答える。嘘じゃないしね。
「カナコは、なんでまたこんな所に?それに、何で怒られてたのさ?」
いつぞやと同じような目をして、だんまりを決め込むカナコ。
「言いたくないなら、別に聞かないし…」言いながら、カナコの背に手を当てる。深い意味はないよ。ただ、カナコが泣きそうだったからさ…。
「あたしの…望みが…叶わなくなっちゃう…だから、内緒で来たの…なのに見つかった…」
体育座りで膝に腕を乗せ、そこに顔を埋めて苦しそうに吐き出すカナコ。まさか自分で飛んできたのかと問えば、コクリと頷く。
「…この世界…あの子たちがいないと長距離移動はキツイのに、良くこんな所まできたね…カナコは頑丈だなあ…」
ため息交じりに言うと、カナコは隙間からチラッとあたしを見て「頑丈って、なんかイヤ!」と頬を膨らませた。その様子が幼い子供の様に可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「…タエちゃんはさ、どんな望みを持ってるの?」
…えーっと。あたしの望みは…あー、少なくとも今はあんたたちを見届ける事なんだが…。でも、こんな事は言えないよなあ。勝手に思ってるだけだし…あくまでも あたしの立場はコッチ側で、管理側でこの世界に従事している訳じゃないもんなぁ。
答えられずにいるあたしに小さく笑うカナコ。あー。これは心的距離が一気に広がるやつだと感じたんで、答えとくべきだと判断した。
「…あたしは、あたしの守りたいモノを最後まで見届けたいだけだよ…」
「嘘つき…」
即答されて、思わずカナコを抱き締めた。
「嘘じゃないんだなあ。カナコ、あんたも守りたいモノの一つなんだよ!」
「ちょ…あはは!苦しいって!」
笑いながらもがくカナコだったが、あたしが力を抜いたら逆に抱き締めてきた。
「…なんか、落ち着く…。長い事、こういう温もりに触れてなかった…」
「そうかい…」
「でも、コレが邪魔!」
「あいた!」
正面からお面をデコピンされた。本気で痛いわ!
「ねえ、取って見せてよ?」
目の前で興味津々に覗き込まれて、仰け反るあたし。なんだよ、この絵面は…。
「…何度も言ってるけどさ、コレは標準装備になっちゃってんだよ。だから、無理に取ったら…最悪、あたしの顔の原型が無くなってるのを見るハメになるかもしれんが?」
「試す?」と外そうとするあたしに、ゾゾゾッと肌を泡立てて首を振るカナコ。
さすがに知ってる者のグロ状態は見たくないようで諦めてくれたようだ。…良かった…!諦めてくれて…!もう、賭けだったよね!外してこんな婆さんの顔が出てきたら…ある意味えぐいよね!だって、顔から下は美少女な魔法使いだし!…って、毎度ながら自分で言ってて情けないわ!
「…それにしても、小鉄とミミはどこまで行ったんだか…。全く、困ったもんだねえ。…今日はレベル5も出なかったし くろぶちも来なかったし…なんかおかしいよねぇ…」
「…あたし…くろぶちを探したかったんだ…」
不意に言われて驚いた。
「なんで?」
「あたしの望みには、くろぶちと小鉄が居ないとだから…。それでミミがくろぶちが来ないのはおかしいってボヤいてて…あたしも おかしいと思ってたし…前の時、ヘンなモノ出たんでしょ?それでアカネが居なくなったし…。だから心配だったんだ…」
「それにしたって、探しようもないだろうに…。何でこんな所まで来たんだい?」
くろぶちはナマコを守る為に動いているはずだ。きっと細心の注意を払っているだろうから、そう簡単に見つかるとは思えない。
「…とにかく探さなきゃって思って…飛び出しちゃった…」
ガックリと肩を落とすカナコ。あたしはカナコの頭を撫でようと手を伸ばして…
「え?」「ひゃあっ?」
ガクンと地面に吸い込まれるような感覚とともに、視界が遮られた…。




