選んだ夢
タエの答えを聞いた二匹は頷くと、ヒョイと二本足で立ち上がった。
トコトコとタエの近くまで来た二匹は、どこからかトランプのようなカードを取り出してテーブルの上に並べる。
「こてつ、これ、いいのか?」
タエに分からない様に一枚のカードを示しながら聞く、くろぶち。
「うん。かのうせい、あるから、だせたみたい」
「そか。うん。それなら すごくたすかる。じゃあ、ばーちゃん、このなかから、すきなの、えらんで」
喋り始めたばかりの幼子のような、ぎこちない片言で言いながらタエを見上げるくろぶち。小鉄も嬉しそうに目を細めて見ている。
「選ぶって…?これは何なんだい…?」
眼鏡を掛けてちゃんと見れば、カードは五枚あり それぞれ”スーパーマン”のような絵、”猫”のような絵、”マジシャン”のような絵、”魔法使い”のような絵、”赤ん坊”のような絵が描かれている。
「このなかの、カードえらぶと、そのゆめ、みれる」
「へえ…。じゃあ、この赤ん坊を選べば赤ん坊の、猫を選べば猫になった夢が見られるって事かい?」
「そう」「そう」
頭の柔らかいタエは、妙に楽しくなって真剣にカードを選び始める。
ついさっきまでの、どうしようもなくやるせない気分も吹き飛んでいた。
暫く悩んだタエは、一枚のカードを手に取った。
「これにする」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて宣言するタエ。
すると、タエの周りがキラキラと輝きだした。
「ばぁちゃん、えらんだの、まほうつかい」
「うん。子供の頃に憧れていたからねえ。夢くらい、良いだろう?」
「ばぁちゃん、どんなまほうつかいが、いい?このキラキラきえるまでに、かんがえて。どうすると、まほうがつかえるか、どんなまほう つかえるか」
「どんな、すがたをしてるか、どのくらい、つよいか。かんがえて。そうぞうして。ばーちゃんの、なりたい、まほうつかい」
言われたタエは考え出す。夢を見せてくれると言うのに、随分と細かい設定をさせるものだ…と些か不思議に思いながらも想像は膨らんでいく。
「…いがいなの、えらんだな、ばーちゃん」
「だね。かのうせい、あったでしょ?これで、たすかるかな?」
「…うん。だと、いいな」
二匹が話していると、キラキラが強くなってきてタエを包み込んだが 想像に身を任せているタエ自身は全く気付いていない。ゆっくりと、ゆっくりとタエの姿が歪んでいく。
「どうか、せいこう」
「うん。ひとつになった」
数分後、タエを包んでいたキラキラが その足元から薄れていくと…。
「おお…」
くろぶちが声を上げる。
「ばぁちゃんのそうぞう、こまかい、ね」
頷くくろぶち。二匹の前には、今までのタエからは想像できない姿が見え始めている。
細く華奢な足と、それを包む赤いひざ丈のブーツ。その縁取りは銀である。
柔らかく腿を包む短いスパッツの上に、ドイツのディアンドルのような胸を強調させるエプロンスカート。白いオフショルダーのミニブラウス…それ以外は赤地に銀の縁取りで統一されているし、両手首には幾重にも重なる鎖のブレスレット、首には赤い石の付いたチョーカーが光りーー。
ばあっちこおおぉぉん!!
「あいったあ!なにするんじゃ!」
「なんで、そこだけ、もとのまんまなんだよ!」
他の部分はほぼ完璧に、タエの原型の欠片もないような”魔法少女”っぷりであったのに…。何故か顔が現在のタエのままという、とんでもない事態だった為に くろぶちが物凄い勢いで顔面にお面を叩きつけたのだ。
ちなみに髪は黒髪。王道のツインテールである。
「いや、だって夢なんだし…自分の顔でいいかなって…」
ちょっと照れ臭そうな様子のタエに胡乱な目を向ける二匹。
「…せめて、わかいときの、かおにすれば、よかったのに…」
「いや、そう思ったんだけど…それもちょっと恥ずかしいかなって…。体は昔のあたしなんだけどさ…うん、でも、そうだよな…ちょっと直すわ…」
「できない」
「キラキラ、もうないから、なおせない」
「え?…そうなのかい?…残念だねぇ…」
しょぼんとしてしまったタエであったが、目の端に入った鏡に己の想像したままの姿を見つけて興奮する。そして、お面を外してみたが…そっと戻してコッソリと目尻を拭うのであった…。
「じゃあ、ばぁちゃん。ゆめ、みにいこう」
「夢を見るんだろう?ベッドに横になるだけだろうに…」
「…まちがえた。もう、ゆめのなか。こっちにきて」
二匹が、それぞれ左右の肩に上手く乗って誘導する。
「ばぁちゃん、がんばろう、ね!」
小鉄の言葉と共に、部屋の中にぽかりと空間が開いた。
疑う事も無く中に入ったタエは、暗い空間に吞み込まれて…。