この世界の核?
くろぶちはハッキリと嫌な顔をしてあたしを睨みつけた。あたしはそれに受けて立つ。正直、可愛いくてワシャワシャしてやりたくなるが我慢する。
小鉄は困った顔であたしたちを見ている。
「…ばーちゃん、きてくれて、いろいろたすかった…。でも、しりたがりすぎる。じぶんのことだけ かんがえればいいのに…」
「伊達に年食ってないんでね。物事に首突っ込むのは、お約束さ」
あたしが笑って答えると、暫く逡巡する様子を見せてからリナたちの場所を確認し それから謎のポケットから小さなゼンマイのような物を取り出す。そして何もないはずの空間に差し込み、丸っこい手で器用に回した。
瞬間
あたしは暗闇に居た。いや、正確にはくろぶちと小鉄もいるんだが…真っ暗で何も見えなかったんだ。
「くろぶち…?小鉄…?」
不安に駆られて声を掛けると、くろぶちが答えてくれた。
「…ばーちゃん、いまからみせるもの、だれにもいっちゃだめ」
「くろぶち…?」
ぽうっと真っ暗な中にロウソクのような灯りが二つ灯った。小鉄とくろぶちのしっぽの先が淡い光に包まれている、その灯りだった。
二匹の行く先に視線を移すと、そこには枕位の大きさの、ナマコようなモノがあった。暗闇の中で 小鉄たちの優しい灯りとは違う、ぼう…と滲んだような鈍く淀んだ光を放っている。
「これは…?」
「…ホントは、おしえちゃいけないこと。でも、じょうきょうが、かわっちゃったから…」
くろぶちの言葉に、思わず…と言うように小鉄が聞いた。
「なんで?くろぶち、ここにきた。かくご きめたんでしょ?」
くろぶちは小鉄には答えずに、あたしを見上げた。
「これ、このせかいのかく。このかたちは、ほんとのかたちじゃない。ほんとのすがたに もどすために、じょうけんのあうヒト、えらんだ。ん…ちがう、かな…えらんだって いうよりも、ひつぜんてきにあつまった、のかな…?」
「意味がわからないんだが…」
「かくは…ひとりがさみしくて つらくて…このせかいをなくしたくなってしまった…。そんなおもいがふくれあがって”マモノ”がつくられたの…。もちろん、かくの いしじゃないんだけど…」
思いが膨れ上がって…?ああ…そういえば、小鉄が言っていたね…レベル5は この世界の欠片の一部だって…。
「…自分自身を消す為に、自分の…えー…分身?みたいのを無意識に作って攻撃させたって事?」
あたしの問い掛けに、耳をピピピッと動かしたくろぶちは それには答えずに話を続けた。
「レベル5は…このせかいをなくしたい、かくのこころみたいなモノ。それを たおせば、かくに しげきがつたわる。とじこもってしまったモノ、もどるかも しれない。ばーちゃんのそんざいも、きっと、やくにたってる…ばーちゃんがいたから、アカネの のぞみ かわってしまったんだけど…」
「あたしの存在って…」
何と言うか…正直よく分からん。それに、だいぶ話を端折られたような気がする。
ぴくん
「…くろぶち!いま、うごいた!」
あたしを見ていたくろぶちは、ナマコみたいなのに近付いて そっと手を触れた。嬉しそうな顔で頷き合う二匹。その様子に、この子たちにとって この核というものが大切なモノなのだと理解出来た。
そこで、あたしは また唸る事になるんだが…。
だってさ、あたしは あの子たち…アカネたちの邪魔をする気満々なワケでさ。皆まだ保護者の必要な子供たちだ。リナもカナコも…理由は聞いた事がないが望みがあるワケで…でも、あたしとしては辛いのはわかるが生きて欲しいと願っていて。
でも、どうしてもさ、どうしても今生では無理だというなら…せめて次の世で人生を楽しんでもらいたい。もし輪廻ってものがあるとしてもさ?魂を壊してしまったら、来世なんか望めないんだろ?それがさ、あたしのした事で今度は小鉄たちが困るっていうんだ。あの子たちの魂が壊れる前提で、この計画?は成り立っているって事になるんだろうか?
…わかってるさ。おせっかいな婆だって自覚はあるよ。
「…しななくて、いいんだ…」
「こてつ?」
「アカネ、もどった。…いままで、はんのうなかったのに、うごいた。それ、こたえ。ちがう?」
んー?今までって言ったね…。あたしらの前にも試したんかな…?まあ…考えても仕方ないか…。
「……」
「きぼう…かくされた、ホントの、のぞみ…。それで、いいんだ…」
小鉄が、とんでもなく安心した表情を見せた。どうやら、この世界を守る為に叶える望みに不満があったようだ。まあね、長くあたしと暮らしてたんだ。思考が似るって事もあるんじゃないかい?…何て考えつつも、あたしは驚いたまま二匹を見ている事しか出来ない。
「…ばーちゃん…」
「…はいよ」
「レベル5、このかくをこわしたい。こわされないように、こてつといっしょに、てんてんと、いどうさせてる」
「…だから、レベル5も移動するんだね…?移動した場所が分からない限りは、現れないとか?」
二匹とも頷いた。あたしは腕を組みつつ「なるほどねえ…」と息を吐いた。
あたしらがレベル5を倒すのは、この世界を守る為。それは嘘では無いが正確には、この核であるナマコ?をレベル5から守る為だった、と。
「レベル5、これみつけると こわしにくる…。いままでは、”マモノ”だけだったけど…」
小鉄が戸惑った様子で くろぶちに問い掛ける。
「…アレがなにか、さぐらないといけない…。ばーちゃん、おねがいだから おとなしくしてて」
くろぶちはあたしに対して苦言を吐いてくれた。…なんか納得いかないんだが、仕方ないか…。




