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現実の痛み?

気が抜けて、ぼーっと柱時計を見ていたら不意に痛みに襲われた。


「…あ、、?く、ぅ…」


この痛み…現実世界のあたしが、ここ何年か堪えて来たモノだ…。

体の不調が出てから、少しずつ痛みも強くなっていった。医者に行ったって、あたしの年じゃあナニしたって長くは生きられまい。そう思って後回しにしていた。と言うか、小鉄の事以外は本当に心残りも無かったしね…。


ええ?子供や孫に会いたいとか無いのかって?…ナイナイ!みんな自分の生活を営んでるし、適度な距離感は大切だ!必要があれば連絡が来るだろうし…第一、ちょいちょい顔出されていたら面倒くさいじゃないか!あたしが死んだ後の事は 懇意にしている弁護士さんにお願いしてあるし。

大体、財産なんて微々たるモノしか残せない。多分、あたしの葬式で殆どパアだろうし 保険金だって無いよりはマシ程度だ。後はこの家だけだが…この辺も弁護士さんに しっかりと頼んである。独居の年寄りは終活に余念がないもんさ。


「ふ…ぅ…。久々、だ…。う…ちょっと、キツイ、、ね…」


蹲ってジッとしていたら治まって来た。我ながらよくこんな痛みを我慢していたもんだね。それにしても、夢の中だったら もうちょっと融通利かせてくれないもんかね?今まで大丈夫だったのにさ…。あ…?もしかしたら現実世界のあたしが、もうヤバいのかな…。


「ばぁちゃん、だいじょうぶ…?」


いつの間にやら、小鉄が傍に来ていた。

激痛にギュウッと服を握り締めていた手を離して、そっと小鉄に触れる。


「だいじょうぶ…大丈夫だよ。あの子たちの先を見届けるまでは、逝けないからね」


「…ばぁちゃん…」


小鉄の様子からして、もう余り時間が無いという あたしの予感は当たっているのだろう。早い所、レベル5を倒して…あの子たちを元の世界に帰してやらないと…。これも、あたしの推測だけどさ…”あたし”が死んじまったら…あの子たちはこの世界から出られなくなるんじゃないかな…。良くある最悪のパターンだけどね!



さて…あたしに現実の痛みが戻ってから、一ケ月が経った。

あの日以降ひどい痛みもなく、平穏な時間が過ぎていた。…つまり、くろぶちにも会えてないって事だ。しかし、どうやら今夜はレベル5が現れるようなんでね…漸く進展がありそうな気がするよ。


「もう、いい加減うんざりだしな!」


あたしは店を閉め、居間に戻ると大声で叫んだ。驚いた小鉄が慌ててあたしを見に来たけど、拳を突き上げて力んでいる様子に心配そうな顔になった。


「ばぁちゃん、どっか、いたい?」


「んあ?いんや?有難い事に痛みは殆ど無いよ。ただ、日常じゃない日常ってのは違和感があって気持ち悪いんだよ。だから、そろそろ暴れてストレス発散したいんだ」


にっと笑うあたしに、小鉄が呆れた!と言うように目をくるりと回した。

その様子が、また可愛くて可愛くて…まあ、抱き締めちゃうよな!


「ば…ちゃん、くるしい…」


目を回しそうな小鉄を優しく撫でて、膝に乗せる。


「…これが夢の中って感覚がないからね…。殆どが同じで、所々が違うってのは…地味にストレスなんだよ。何て言うか…これはこうじゃないって脳が拒否してるのを、無理やりに抑え込んで生活してるんだ」


あたしは18時を知らせる柱時計に視線をやって、ため息を吐いた。


「この柱時計だって、現実の世界には無かったろ?こんなのがあるのも、本当は嫌なんだ。うるさいしね」


大体、この時計もおかしい。

あたしも亜里もゼンマイなんか巻いていないのに一度も止まらないし、遅れたりもしなかった。開けて中を確かめたら、しっかりゼンマイ式でクオーツ時計なんかじゃなかった。なのに、21時から朝5時まではタイマーでセットされたように鳴らなくなる。ありえないだろ?


「…なあ、小鉄?この世界の柱時計が全て止まったら、どうなるんだろうね…?それにレベル5の出現には、意味があるのかい?」


小鉄はあたしを見上げて答える。


「…とけい、このせかいの、いのちづな。レベル5…このせかいの、かけらのいちぶ…」


「命綱?欠片の一部?」


小鉄が更に答えようと口を開いたが、そのまま閉じてしまった。


「小鉄?」


「…ばぁちゃん、ごめん…」


「…ああ、そういう事か。あたしこそ、ごめんな?言えない事があるのに答えてくれてありがとう」


項垂れた小鉄を再び抱き締めて、首元の匂いを嗅ぐ。

…誰だい?変態なんて言うのは?良い匂いで癒されるじゃないか?猫飼いだって犬飼いだって関係なく嗅ぐだろ?ちなみに小鉄は全体的に甘い匂いなんだけど、肉球は香ばしい匂いでね!ちょっと甘めなポップコーンみたいなんだ!


小鉄の喉がゴロゴロと鳴り、可愛らしく甘えてくる。あたしは小鉄を胸に抱いたまま寝転がった。そのままスウスウと寝息を立てる小鉄に和みつつ…気が付いたら一緒に寝入っていたらしくて柱時計に起こされた。

一時間近く寝ていた事になる…やれやれだ。さて、今夜の仕事の為に腹ごしらえをしますかね!


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