この世界は…
「変身が解けたら、衣装が変わるだけなのかい?」
あたしはアカネに聞いてみた。
「?そうよぉ?…タエちゃんは違うの?」
「聞かないでおくれ…」
小鉄とくろぶちが実に微妙な表情になるのを横目に、あたしはガクリと肩を落として呟いた…。
アカネはそんな事には頓着せずに、この世界の”マモノ”に関して、知っている事を質問に答えつつ話してくれた。何度くろぶちに聞いても、みんな揃ってから…と言って詳しくは答えないらしい。
「…くろぶち、お前さん本当は知らないんじゃないのかい?それに、みんな揃ってからって…何人いるのさ?」
ニマッと笑って聞いたが、答えは素気無いものだった。
「あと、ふたり、くる よてい。いちいち せつめいするの、めんどう。それに、いちどにいったほうが きいた、きいてない なんてことにならないから」
…意外だが、くろぶちはしっかりと考えていた。意地悪な言い方して悪かったかね…。あたしは謝罪の気持ちを込めて、くろぶちの顔をわしっと両手で包んでもみくちゃにしてやった。くろぶちはコレが好きでね…良くおねだりされてたもんさ!
あたしが くろぶちをゴロゴロ言わせているのを嫉妬の眼差しで見ているアカネの顔が、ちょっと怖いけどなー…っと。
まあ、この時の話で分かった事は この世界に”マモノ”が発生したのは四年前からである事。
最初に発生したのは日本で、あっという間に全世界に発生するようになった事。そのせいなのか日本以外の国との通信や連絡が非常に取りにくくなっていて、今では日本は ほぼ完全な鎖国状態になっている事。
更には電波が弱くなったせいで、通信機器は使えなくなった事。食料物資もほぼ自給自足で何とか賄っている事などを知った。
なるほど、物価と消費税が高い訳だね。ウチの駄菓子、10円で買えるはずの うま〇棒が一本70円(税込157円)で驚いたんだよ。お菓子は嗜好品に分類されて高い税率らしい。食料品や日用品は少し安くて、例えば100円の物が税込で200円になる。いや、それにしても…。
おっと。話が逸れた。
で、当初は現在レベル1と言われている”マモノ”しか出て来なかったそうだ。
所謂、霊能者や霊媒師や陰陽師や…果ては宮司やサイキッカーやヒーラーなんかまでを巻き込んで、なんやかんや色々とやらかした挙句に現状になっている事。
レベル5が出る条件は月の位置が低く赤い事。ここ二年は赤い月が多くて発生率が上がっている事などが分かった。
ちなみにレベル5が出るのは日本だけで、一度に一体しか出現しないそうだ。
「それで、わたしたちみたいなのが いろんな所から集められたみたいねぇ」
アカネは軽く肩をすくめて見せる。
「えぇと…あたしたちみたいなのって…」
「…愛と正義の使者って感じ?」
あたしはつい、呆れた顔でアカネを見てしまった。だって、なあ…。
お面付きなのであたしの表情はわからないはずだが、馬鹿にされたと感じとったのだろう。アカネは むくれて黙り込んだ。これはマズかったね…どう取り成そうか…。
と、思っていたら くろぶちが口を挟んできた。
「…アカネも、ばーちゃんも、みんな、そうぞうと、もうそうがすごい。それが げんどうりょく になる」
「…つまりヲタクっぽいと言いたい訳かい…」
「ひていしない。おもう ちからつよい、つかえる ちからもつよい」
「だから、ばぁちゃん、つよい!」
「嬉しくないわい!」
ぷふっ
小鉄との間髪入れぬ掛け合いに、アカネが耐え切れずに噴き出した。あたし自身も、猫二匹相手に何やってんだか…と可笑しくなって笑い出してしまう。
「ああ…面白かったわぁ。小鉄ちゃんも可愛いわねぇ」
機嫌の直ったアカネは、小鉄を撫でながら 自分はこの世界の住人ではなく 一年ほど前に他の世界から呼び出されて”マモノ”を退治するまで戻れないのだと説明してくれる。
「…何で、そんな事になってんだい…?」
「ん~。アラミスちゃんが言うには、この世界の人たちと”マモノ”って異質なんですって。それこそ、三次元と四次元みたいな…重なってるけど、本来は相容る事は出来ないはずの空間の生き物で。なのに余計な事して…バランスが崩れて?もっと深刻な事態になっちゃったんだって。でも、この世界は壊しちゃダメな世界だから仕方なく対抗出来る人を集めているんだって。
多分、ここに来る人は皆…なんかしらの約束をして来るんじゃないかしら?”マモノ”を退治したら、望んだモノが手に入る…そんな約束…」
アカネの表情が一瞬であるが、暗く陰った。その表情を見て、アカネが見た目通りの性格ではないようだと感じた。
「望んだモノ…」
はて。あたしは何か望んだっけ?小鉄たちに「ゆめ、みる?」と聞かれただけだったような…。え、それが望みなの?うわ…勿体なくないかい?あたしってば…。




