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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隠れられない果実

作者: おんぷがねと

 これは俺が夏の暑い日に経験した恐怖体験だ。


 俺はカボス。10歳だ。その日は同い年の友人たちとかくれんぼをやったんだ。


 友達はスダチとユズとミカン。スダチは男でユズとミカンは女。それと俺を含めた4人で神社に向かいそこでかくれんぼをやったんだ。


 「夏休み中に、かくれんぼをやろう」と俺たちは約束した。それは、学校の宿題で出された夏休みの思い出を作文にして書いて来るように言われたからだ。



 昼下がりの午後くらいかな、俺たちは神社を目指して歩いていたんだ。


 夏ということで、みんなの格好は半袖にハーフパンツ、それとサンダルだった。


 スダチはショートヘアーでメガネを掛けている。


 ユズはストレートの長い髪。


 ミカンはポニーテール。



「なあ、こんな暑いのにかくれんぼやるのか?」


 スダチが汗を腕で拭いながら俺に言った。


「うん、だって担任が宿題やってこいっていうからさ」


 俺はそう返した。すると今度はユズが面倒くさそうに言った。


「別に良くない。宿題を忘れて行けばいいし」

「えー? あの先生こえーんだよな。いつも怒鳴るしさ」


 俺はそう言って手で汗を拭った。それに呆れたユズはミカンに顔を向けて聞いた。


「ミカンはどう思う?」

「……わたしはどっちでも」


 ミカンはそう答えて下を向いた。ミカンを見ると額に汗は掻いているが涼しい表情をしている。


 そうして、神社に着き俺たちはかくれんぼをやった。


 するとその途中で雨が降ってきてしまったんだ。俺たちは神社の境内に集まり雨宿りをした。


「雨止まねーかな……」


 俺がそうつぶやくと、スダチがメガネを整えながら言った。


「止みそうもないね」

「もう、早く帰りたいんだけど」


 そう言って、ユズは自分の髪を手でとかしながら空をにらみつける。


 ザーザーと雨は止まずに降り続けている。


 俺は言った。


「じゃあ、続きを誰かん家でやんねぇ?」

「誰かって?」


 スダチが聞いてきた。俺は3人を見ながら言った。


「うーん、誰か家が大丈夫な人いない?」


 3人はお互いに顔を見合った。


「あたしパス」


 ユズがそっぽを向いて言った。


「ぼくも」


 スダチが腕組みをして答えた。

 ミカンは首を横に振って答えた。


 みんな自分の私生活をのぞかれるのが嫌なのだろう。誰もその話に乗って来なかった。


「えー? 誰もいないのかよー? 俺も嫌だぜ」


 雨が激しくなっていった。


「わかった。じゃあ、じゃんけんで決めようぜ。それなら文句ないだろ?」


 俺が提案を出すと、早く家に帰りたかったのか、みんな素直に受け入れてくれた。


「じゃーん、けーん」


 俺の掛け声でみんなが一斉に手を出した。

 俺はチョキ、スダチもチョキ、ユズもチョキ、ミカンはパーだった。


「ミカンの家で決まりだな」


 そう言って俺はミカンのほうを向いた。


「わりーな、ミカン」

「……べつにいい」


 ミカンは斜め下を向きながら答えた。


 こうして、俺たちは雨に濡れながらミカンの家に行ったんだ。



 ミカンの家に着いた。


 彼女の家はごくありふれた洋風の2階建てだ。


「じゃあ、みんな入って」


 俺たちはミカンに誘われるまま、家の中に入った。


「ただいま」


 その玄関さきでミカンが言う。


「お邪魔しまーす」


 俺たちがそれぞれに言った。


 それからミカンの母親が部屋の奥から来た。俺たちの姿を見ると慌てながら言った。


「あらまあ、みんなそんなに濡れて、今タオル持ってくるわね。あがって待ってて」


 そう言ってミカンの母親は奥に行った。


 俺たち4人はときどきこうして集まり遊んでいる。


 だから、ミカンの家族とは顔なじみだ。ほかの家族とも同じ。


 

 部屋の一角まで行き、しばらくすると、ミカンの母親は大きなタオルを持って来て俺たちにそのタオルを渡した。


「ありがとうございます」


 とそれぞれが言った。ミカンは何も言わない。


「母さん、トイレ掃除終わったよ。次はどこの掃除をやろうか」


 部屋の外からミカンの父親が顔をのぞかせる。


「そうねぇ、それじゃあ……」

「お!」


 ミカンの父親は俺たちを見ると笑顔になり言った。


「あーミカンのお友達かぁ、いらっしゃい、ゆっくりしてって」

「お邪魔しまーす」


 とそれぞれが返した。


「じゃあ、お風呂の掃除をおねがいするわ」

「風呂掃除? わかった」


 そう言ってミカンの父親はそこから離れた。


「お母さん」

「なに? ミカン」

「わたしたち、これから宿題のため、かくれんぼをするの」

「かくれんぼ?」

「雨が降って来ちゃったから、じゃんけんでわたしの家でやることに決まったの」

「まあ、そうなの。いいわ、家の中を自由に使って遊んでも。お父さんには言っておくわ」

「うん」


 それから、一度2階にあるミカンの部屋に行き、話し合うことにした。


 ミカンの母親は途中でおやつやジュースなどを持って来てくれた。


「で、どうする? 家を自由に使っていいんだろ?」


 俺がミカンに聞くとミカンは頷く。


「早く始めて帰りましょ」


 クッキーを食べながらユズが言った。


「じゃあ、このおやつ食べたらさっきの続きやろうぜ」


 俺がそう言うとスダチが聞いてきた。


「いつまでやるんだ? 全員が一通り鬼をやったら終わり?」

「そうだな、雨が降ってきて途中でやめたからな、もう1回やり直しだ」


 こうして俺たちはかくれんぼをやった。

 一通り終わると、すっかり外は夜になっていた。


「お邪魔しましたー」


 俺たちが帰ろうとしたとき、ミカンの母親に呼び止められた。


「あら、帰るの? もう遅くなっているし、うちでごはんでも食べて行きなさい」

「あ、いえ、俺たち帰りますので」

「いいから、みんなの家族には連絡しておくから」


 俺たちは顔を見合わせた。


 かくれんぼをさせてもらったので、せっかくの誘いを断るのも悪いと思った俺たちはその言葉に甘えることにした。


 それから食卓を囲んだ。


「みんなはもう宿題終ってるの? ミカンは終わった?」とか「ミカンが迷惑かけてないか?」などミカンの両親と何気ない会話をしながら食事をする。


 俺たちはそれを適当に返しながらミカンの家のごはんを食べた。


 ふと、周りを見ると、ミカンの家族写真が棚の隅のほうに載せてある。


「夜も遅くなったし、みんなを車で送って返すわ。外はまだ雨降っているから」


 とミカンの母親が言う。


「ありがとうございます」


 とそれぞれが返した。


 すると、ミカンが言った。


「ねえ、みんな。うちで作文書いてっちゃわない?」

「作文?」


 俺はそう聞き返した。


「うん、家帰って書くのも面倒でしょ? 作文1枚書けばいいわけだし。用紙もあるし」


 俺たちはお互いの顔を見合わせた。


「あら、いいんじゃない。書いてっちゃいなさいよ。そのあと送っていくわ」

「そうですね……」


 俺がそう答えて、ほかのみんなに尋ねた。


「スダチとユズはどうする?」

「家に帰っても、やらないかもしれないから、やっていくわ」

「ぼくも同じ」


 ふたりはそう答えた。


「じゃあ、言葉に甘えて」


 それから俺たちはミカンの部屋に行って作文を書き始めた。


 みんな面倒くさそうに作文を書いている。


 すると。


 ピーンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。


「はーい」


 ミカンの母親の声が下から聞こえる。


「どちら様で……」


 パンッと部屋に響くような音が下から聞こえてきた。そのあともう1回パンッと聞こえてきた。


 俺たちは顔を見合わせた。


「なに今の音?」


 ユズがそう言うと俺たちは首を傾げた。


 しばらくして、何も聞こえてこない。ただ、ガタガタと下で物音が聞こえて来る。


 俺たちはそーっと部屋を出て階段下をのぞいた。


 そこにはミカンの母親が頭から血を流し仰向けで倒れていた。


 目は見開かれて天井を見ている。


「……あ……あ」


 隣にいたミカンが驚きながら今にも叫びそうだった。その体は震えていて目を見開いている。


「あっ……」


 とっさにユズがミカンの口を手で押さえた。


 すると下から聞き覚えのない男たちの声が聞こえてきた。


「ん?」

「どうした?」

「今なんか聞こえなかったか? 子供みたいな」

「さあな、猫でも飼ってんだろ。それより何か見つかったか?」

「何も、そっちは?」

「いや、ない。シケてんなー」


 ゴソゴソとタンスの引き出しを開ける音がする。


「しかし、いい世の中になったもんだぜー」

「ああそうだな」

「政治家はいなくなり、犯罪が合法化されるとはな」

「ああ、俺たちを取り締まるやつはいない。サツもいないしな」

「そうだ、それになんつっても、俺たちをまとめるやつは、AIだからな」


「ああ、AIが言っていたな。『犯罪を許可します。ですから自分たちの身は自分たちで守ってください』だとよ」


「俺たちにとっちゃあ、まさに天国だぜ」

「そんなことより、早く金目のもん探そうぜ」

「ああ」


 俺たちはミカンの部屋に戻った。


 しばらく俺たちはお互い何も言えなかった。


 ミカンは涙をためて、喚きそうなのをこらえている様だった。


 ユズはミカンの頭をなでながら落ち着かせている。


「あいつらなにもんだ?」


 俺が言うとスダチが答えた。


「強盗みたいだね」

「ごうとう?」

「彼らはミカンの両親を銃で撃って家の物を盗もうとしているんだ。2回銃声があったから、ミカンの父親も」


 俺はミカンの優しかった両親を思い出した。


「クソッあいつらゆるさねぇ」


 俺はそう言って部屋を出て行こうとした。するとスダチがドアの前に来て俺を止めた。


「カボス落ち着け。出て行ったら殺されるぞ」

「ミカンの両親が殺されているんだ、黙ってられねー」

「それはわかる。だけど、もっと冷静になってやつらを仕留めよう」


 俺は拳を強く握りしめてドアから離れた。


「ねえ、あいつらに目にものを見せてやろうよ。あたしたちで」


 ユズはミカンの頭をなでながら言った。


「ああ」


 俺は闘志を剥き出しにして答えた。スダチが俺たちに言った。


「どうやって、やつらをやっつける?」

「そうだなぁ、まず下に何人いるんだ?」


 俺が聞くとスダチは答えた。


「会話をしていたからふたりはいるだろうけど。ほかにもいるかもね」

「うん」

「何か武器みたいな物を持っておいたほうがいいかも」

「そうだな……ミカン」


 俺はミカンに何かないか聞こうとしたが、とても聞ける状態ではなかった。


 だから、俺は声だけを掛けた。


「ミカン、武器を探すため、引き出しなんかを開けるけどいいか?」


 ミカンは力なく頷く。


 俺たちはそれから一通り部屋をあさった。


 見つけたのはハサミ、カッター、彫刻刀セットなど。武器として使えそうなのはそれくらいだった。


「おい、俺は上を見て来るぜ」と下から聞こえてきた。それから階段を上がってくる音がする。


「まずい、奴らが階段を上がってくる」


 スダチがそう言ってドアにカギを掛けた。


 俺たちはそれぞれ武器を取った。

 俺はカッター、スダチは彫刻刀、ユズはハサミ。

 ミカンに彫刻刀を渡したけど首を振って受け取らなかった。


 ガチャガチャと強盗はドアノブを回してくる。


「おーい、ちょっと来てくれ。ここ鍵掛かってるぜ」


 するともうひとりが階段を上がってきた。


「どうする?」


 俺が聞くとスダチが言った。


「ブレーカーを落として停電にするんだ」

「停電か」

「うん。そのあと後ろから仕留めれば」

「なるほど」


 俺はミカンに聞いた。


「ミカン、ブレーカーはどこだ?」

「……げん、かん」


 ミカンは震えながら言葉を発した。


「よしわかった。俺がそこに行って、ブレーカーを落としてくる」


 するとスダチが心配といったような顔で聞いてきた。


「1階だぞ、ここは2階だ?」

「ああ」

「どうやって下まで行くんだ?」


 俺は窓に指を向けてい言った。


「そこから下に行く」

「飛び降りる気か? ケガするぞ」

「ヘーキだ」


 するとドアの外から声が聞こえてきた。


「開かねーのか? 俺に任せろ」


 そのあと、ドンッドンッとドアを蹴り壊すような音が部屋に響いた。


「じゃあ、みんなは隠れて。俺はブレーカーを落としてくるから」


 そう言って俺は窓を開けようとした。


「待って」


 スダチが俺の腕をつかんだ。


「ぼくが行く。ぼくがブレーカーのこと言い出したから」


 俺はその手をそっとどけた。


「心配するな。大丈夫だ。それにこの中じゃ、俺が一番運動が得意だろ?」


 スダチは下を向いた。俺はスダチとユズに言った。


「もし、この部屋に奴らが入って見つかりそうになったら、ふたりでミカンのことを守ってやってくれ、頼む」


 ふたりは意を決したような顔で頷いた。


 それから俺は窓を開けた。


 外は小雨になっている。


 2階の屋根から芝生の地面に着地した際に少し足をくじいた。


 でも、ミカンの両親のことを思うと、そんなことには構ってられなかった。


 俺は玄関まで行きドアを開ける。


 そして、そーっとドアごしから中の様子をうかがった、強盗がいないか確認しながら中にしのび込む。


 花瓶がのせてある棚の上にブレーカーがあった。


 俺は棚の上に乗りブレーカーを落とした。



 途端に真っ暗になった。



「なんだ!?」

「停電か?」


 強盗たちの騒ぐ声が上から聞こえた来た。


「おい! 下に行ってブレーカーを見てこい!」

「ああ」


 強盗のひとりが階段を下りて来た。それはとてもゆっくりと階段を下りてくる。


「クソッ、なんで停電なんか……」


 愚痴をこぼしながら強盗はゆっくりと歩いていく。


 俺はキッチンにあるテーブルの下に隠れて息をひそめた。


 強盗の隙をうかがいながら様子を見る。


 強盗は玄関前まで来てブレーカを戻そうとしていた。


 俺はその強盗の足をカッターで思いきり切った。


「あああああーー!! なんだ!? クソー足がっ!」

「どうした!?」


 もうひとりの強盗が階段を下りて来た。俺はまたテーブルの下に隠れて様子をうかがった。


 ほかにはいない。どうやら強盗は2人だけのようだ。


「足が何かに切られた! 何かいやがる! 猫じゃねー!!」


 俺はみんなが心配になり2階に向かった。念のために、階段からそーっとのぞくとドアのところには誰もいなかった。


 その側まで行き、俺はドアに向かって声を掛けた。


「おい開けろ、俺だ。カボスだ」


 ドアが開いて、そこからスダチが顔を出す。


 俺は部屋の中に入った。


「大丈夫か?」


 とドアにカギを掛けながらスダチが聞いてきた。


「ああ、ひとりのやつに傷を負わせた」

「そうか」

「強盗はふたりだけみたいだ」

「ふうん、そうなんだ」


 すると部屋に明かりがついた。強盗たちがブレーカーを戻したのだろう。


 俺は部屋の中を見回した。スダチとユズが俺を心配そうに見ている。


「……ミカンは?」


 俺が聞くとユズが答えた。

 

「それがね、あたしとミカンは同じクローゼットに隠れていたの。停電になったとき、急にミカンは変なことを言い始めて……」


「変なこと?」


「うん、とても小さな声で『ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない』って」


「ゆるさない? それで?」


 ユズは窓のほうに指を向けながら言った。


「そんな風につぶやきながら、その窓から出てっちゃったの」


 俺は窓をあけて下の様子を見た。ミカンの姿はない。周りを見ても同じだった。


 俺は窓を閉めた。


「なんで止めなかった?」


 ユズは首を横に振って答えた。


「できなかったの」

「できない?」

「だって……怖かったんだもん」

「……そんな」


 ドンッドンッドンッとドアを蹴り破ろうとする音が聞こえてきた。


「おい! そこに誰かいるんだろ! 出てきやがれ!」


 強盗のひとりが怒鳴るように言った。


 ドンッドンッドンッと再び蹴り破ろうとしてくる。


「なあ、おじさんたちは何もしないから出て来てくれないか。足の傷のことは怒ってないからさー」

「こんなんじゃ、(らち)が明かねぇ……どいてろ」


 パンッと音がしてドアのノブのところを銃の玉が貫通してくる。


 俺は小声でみんなに言った。


「みんな、その窓から逃げるんだ!」


 スダチは首を縦に振るけど、ユズは首を横に振った。


「ユズその窓から逃げるんだ」

「嫌よ。怖いもん。高いから」


 ユズは屈みこんで縮こまっている。


「早くしないと!」


 スダチが焦ったように言う。


「わかった、みんな隠れよう。もし、奴らがドアを開けて俺たちが隠れている目の前まで来たら、奇襲をかけるんだ」


 その提案にふたりは頷いた。


 そうして俺たちはバラバラに隠れた。


 俺はタンス、スダチはベッドの下、ユズはクローゼットにそれぞれが隠れた。


 タンスの隙間から部屋のようすをうかがう。


 パンッと銃声が聞こえるたびに、木のドアが砕かれる音が聞こえて来る。


「もうちょっとで空きそうだ」


 ドンッドンッと何回か蹴りを入れてそのドアは破られた。


 俺はカッターを握りしめる。額からは汗が流れ出る。


「あれ? 誰もいねーなー」

「隠れているんだろ、探せ」


 俺は飛び出そうとした。


 そのとき突然停電になった。


 部屋は途端に真っ暗になる。


「チッ、またか! おい、見てこい」

「ああ」


 すると階段から誰かが上ってくる音が聞こえてきた。


 ググッ……ググッ……と階段のきしむ音が段々上がってくる。


「誰か上がって来るぜ」

「おまえの足を切ったやつが隠れてたんだろ。消せ」


 強盗のひとりが部屋から出て行った。


「ギャー―――――――!!」

「おい! どうした! ……返事をしろ!」


 部屋はしーんと静まり返る。


 それからまたググッ……ググッ……とゆっくりと階段を上ってくる音が聞こえてくる。


「……ない、……さない」


 耳を澄ましてみると、囁くような声が聞こえてきた。


 最初は何を言っているのかわからなかったけど、次第に耳が慣れて、それが聞き取れるようになった。


 『ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない』と何度もその言葉が繰り返される。


 その静かな足音が部屋の前まで来た。


 ゆっくりとドアが開きそこにはミカンが立っていた。


 ミカンは不気味につぶやきながら何かを手に持っていた。


 薄闇の中。その手からポタポタと何かが落ちていく。


「お、おまえ……」


 強盗は驚きながら少し後ずさりをする。


 ミカンは部屋に入って来た。そのとき月明かりでミカンの手から何かが反射した。


 よく見てみるとミカンは包丁を持っていた。そこから赤黒い何かがしたたり落ちる。


 ミカンの体は全身赤黒いものを浴びたように濡れている。


 ミカンは引きつったような正気を失ったような顔で言った。


「みーつけた」



 それからのことは俺はもう思い出したくない。


 ミカンはそれ以来俺たちの前から姿を消した。


 どこに行ったのかもわからない。


 もしかしたら、その強盗の家族を探しに行ったのかもしれない。


 見つけるために。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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