改25話「消えた絵、悪天候、大時化の海」ざまぁ回
数時間後、リアーナの行方を追っていた衛兵が戻ってきた。
「陛下にご報告申し上げます!
リアーナ様はニクラス公爵家を出たあと港に向かい、港から船に乗ったようです!」
「船だと?
乗船券はどうした?
リアーナは金を持っていなかったはすだ!」
国内にいると思っていたリアーナが、海外にいると分かり国王は焦った。
「偶然知り合った夫婦と仲良くなり、乗船券を買ってもらったようです!」
国王は「余計なことをした奴がいるものだ! 見つけ出して八つ裂きにしてやる!」と呟き拳を強く握り壁を殴った。
「それでリアーナはどこに向かった!」
「はいブルーメ大陸のルーデンドルフ帝国行きの船に乗ったようです」
「ルーデンドルフ帝国だと……!」
国王は、リアーナの実母がルーデンドルフ帝国の側妃と仲良くしていたのを思い出した。
十一年前、国王はリアーナの実母が、
『ルーデンドルフ帝国の第四皇子が、ニクラス公爵家に遊びに来ました。二人はとっても気が合うみたいです』
と話しているのを聞いた。
その時、国王はリアーナを他国に取られるのではないかと強い不安にかられた。
国王はその時には既に、リアーナの価値に気付いた。
有り余る魔力量を持ち、描いた絵に不思議な力を宿らせることができる少女。
金の卵であるリアーナを、自国に留めその恩恵を最大限享受したいと考えた。
国王はリアーナの実母を殺し、王太子へーウィットと婚約させ、最高聖女として幽閉に近い形で城に住まわせた。
ルーデンドルフ帝国の側室と仲の良かったリアーナの母親を殺し、ルーデンドルフ帝国との縁を切った。
だというのに、十年以上経過してもその縁が続いていたとは……!
国王は苦虫をかみ潰し、床を蹴り飛ばした。
「ルーデンドルフ帝国の皇族を頼ったか……くそっ!
皇族に保護されていると面厄介だな!」
国王は眉間に深い皺を作り、奥歯をギリリと噛み締めた。
他国の皇族に保護されている者を、無理やり連れ戻せば戦争になる。
国王は、リアーナが別の知り合いを頼って海を渡ったことを願った。
だがずっと王宮に籠もっていたリアーナに、他に知り合いがいるとも思えなかった。
「リアーナがどこに逃げていても構わん!
泣き落としでも、脅迫でも手段は問わない!
リアーナを連れ戻せ!!
リアーナさえ連れ戻し結界さえ張ってしまえば、ルーデンドルフ帝国などどうとでも出来るわ!!」
元ニクラス公爵夫妻とミラを人質にすれば、リアーナは必ず帰ってくる。
心優しいリアーナは家族を見捨てられない。
自国にさえ連れ戻せれば結界を張らせるのは簡単だ!
……国王はそう考えていた。
その時、別の兵士が謁見の間に入ってきた。
「国王陛下に申し上げます!
船着場にあった海神ニョルズの絵が消えました!」
「なっ、何……!」
リアーナの描いた海神ニョルズの絵は、航海の安全を願い船着場に飾ってあった。
リアーナの描いた絵には神や精霊の力が宿る。
それを知っていた国王は、結界を張る為に祈りの間を訪れる時間以外は、リアーナに絵を描かせていた。
リアーナは絵を描くのが好きなので、無理やり描かされている感覚はなかった。
彼女は楽しんで絵を描いていたが。
国王はリアーナの描いた絵の価値を知る何者かに、絵を盗まれたと推測した。
「消えたとはどういうことだ!
額ごと盗まれたのか!?」
「いえ、額縁もキャンバスもそのままです!
中身の絵だけが魔法にかかったように消え、キャンバスが真っ白になっていました!」
「そんな馬鹿な……!」
額縁もキャンバスはそのままなのに、消しゴムで消したみたいに絵だけが消えた。
にわかには信じがたいことだが、リアーナが国を出たことが、絵の消失と関係しているならありえない話ではなかった。
人知を超えた力を持つ絵が、人知を超えた力で消えても不思議ではないからだ。
「国王陛下に申し上げます!
海が大荒れに荒れており、船を出すことが出来ません!!」
「なんだと……!」
その時、別の衛兵が入ってきて国王に海が荒れていることを報告した。
国王には、海神ニョルズの絵が消えたことと、海が荒れていることが無関係には思えなかった。
「絵を調べろ!
今すぐリアーナが描いた全ての絵を調べるんだ!!
それと絵の飾ってあった場所の異変も報告しろ!!
ニョルズの絵が消えたのだ!
他の絵も消えた可能性が高い!」
国王は怒鳴りつけるように衛兵に命じた。




