改10話「ロイヤルブルーのドレス」
ゲルダさんの部屋に行くと、ゲルダさんが船員さんに大きな樽とお湯を用意させた。
「これは帝国で流行しているシャンプーとトリートメントだよ。
ちょっと奮発して買ったバラの香りのする石鹸さ!」
大きな樽の中に座るようにいわれ、花の香りのする石鹸で体を洗われ、髪にはシャンプーやトリートメントをされた。
お風呂が終わると、ゲルダさんはバスタオルを使い髪を丁寧に乾かしてくれた。
誰かに髪を乾かして貰うなんて、母が亡くなってから初めてかもしれない。
久しぶりに、穏やかで懐かしい時間を過ごした。
私の髪を乾かし終えると、ゲルダさんは私の体を採寸した。
「リアーナはスタイルがいいね。
でもちょっと痩せすぎだね。
ルーデンドルフ帝国に着いたら、お魚だけでなく、お肉も食べさせないとね」
スタイルがいい……?
私が……?
採寸を終えると、ゲルダさんがトランクからドレスを取り出した。
「この色なんて、リアーナに合うと思うんだけどね」
それは海のように深く濃く鮮やかなブルーのドレスだった。
「あの……そんな素敵な服をいただく訳には……」
「遠慮しなくていいよ。
実をいうとあたしにはちょっときつくて着れないのさ」
ゲルダさんが目配せをする。
「もっとも、リアーナにはゆるゆるだろうけどね。
あたしがちゃちゃっと直すからそこにかけて待ってな」
私は言われた通り、椅子に座り、ゲルダさんがドレスを手直しするのを待つことにした。
流石皇族専属のお針子。
ゲルダさんは目にも止まらぬ速さで、あっという間にドレスを直してしまった。
仕上がったドレスには、リボンやフリルやカフスなども足されていた。
「ちょっと地味だったから、飾りを足してみたよ」
ゲルダさんが目を細めニコリと笑う。
「ありがとうございます!
とても素敵なドレスです!」
ドレスを着るなんて何年振りかしら?
「さぁ、あたしの手直ししたドレスを着ておくれ」
「はい」
ゲルダさんにロイヤルブルーのドレスを着せてもらった。
「髪型もドレスにあったものにしようかね。
化粧もした方がいいね」
ゲルダさんは私の髪をハーフアップにし、顔に軽くお化粧を施した。
「どう、あたしの傑作!
新生リアーナ!」
全ての準備が終わると、ゲルダさんは部屋にドミニクさんを招き入れた。
「おおーー!
これが本当にあのリアーナなのか?
別人じゃねぇか!」
ドミニクさんが目を見開いている。
そんなに変わったでしょうか?
自分ではよく分かりません。
「もともと美人だったけど、こうして飾り立てると、華やかさが増すだろう?
あたしは一目見たときから、リアーナが美人だと気づいていたよ。
飾り立てたら、誰もが振り返る絶世の美女に変身するともね!」
ゲルダさんが胸をはり、得意げな顔をした。
「あたしに息子がいたら、リアーナを息子の嫁にするんだけどね」
「いや〜〜。
ハルシュタイン王国で会ったミラって聖女も美しかったが、リアーナもそれに引けを取らねぇな」
「あんたの目は節穴かい?
あんな高飛車なだけで魔法の腕が未熟なへっぽこ聖女より、
リアーナの方がずーーっと華麗だよ!」
まさか見目麗しいと評判のミラと比べられる日が来ようとは……。
私がミラより綺麗だなんて、お世辞にしても言いすぎだわ。
平凡な容姿の私が、ミラのような華やかな顔立ちの可憐な少女にかなうわけがない。
彼女と自分を比べるなんておこまがしい。
「よし! 食堂に行って乗員の船員に綺麗になったリアーナを見せびらかそう!」
「バカなことはおよし!
変な虫が着いたらどうするんだい!」
ゲルダさんがドミニクさんの頭を軽くパシッと叩く。
「リアーナは気品があるんだ。
そのへんの男にはくれてやれないね。
騎士以上の男じゃないとね」
ゲルダさんに叱られ、ドミニクさんは大きな体を丸め小さくなっていた。
ドミニクさんとゲルダさんの夫婦は、かかあ天下のようだ。
「おい誰か! 船医を! 船医を呼んで来い!」
「早く! 血止めのタオルを!」
その時、廊下をバタバタと走っていく音と共に、船員の焦った怒鳴り声がドア越しに響き渡る。
平穏な時間は終わりを告げた。
8〜10話。
・リアーナ、ハルシュタイン王国からアルドリック帝国への船に乗る。
・リアーナは甲板で海神ニョルズへ航海の安全を願う。
・食堂で、ドミニクとゲルダと共に魚料理を食べる。
・ゲルダがリアーナの体を洗う。バラの香りのする石鹸。帝国で流行しているシャンプーとトリートメント。
・ゲルダがリアーナの採寸をする。
・ゲルダが自分の服をリアーナのサイズに合わせて仕立て直す。
・ゲルダがリアーナにドレスを着せる。
・ゲルダはリアーナに青のドレスを着せ、髪をハーフアップにし、薄くメイクをした。
・着替えたリアーナを見て、ドミニクが驚く。
・リアーナは褒められても、あまりピンと来ていない。
・そのとき、船が慌ただしくなる。




