改9話「お魚料理」
食堂には木製のテーブルが並べられ、乗船客に混じり、船員さんも食事をしていた。
船の食事はお魚料理がメインです。
お城ではパンとサラダと水しか口に出来なかったので、お魚を食べるのは久し振りだわ。
祈りを捧げる聖女は、肉や魚を食べない方がいいと言われ、限られた食材しか口にできなかった。
「アジのムニエル、バターの風味が効いていてとても美味しいです」
「エビのガーリックソテーと、海藻のサラダもなかなかいけるな」
「魚介のスープも絶品だね。
サバの塩焼きもレモンをかけるとさっぱりと食べられるね」
ドミニクさんとゲルダさんと食卓を囲む。
誰かと一緒に食事をするのも久しぶり。
いつも部屋で一人で食べていたから。
「リアーナ、食事が済んだらあたしの部屋に来ておくれ」
「えっ?」
「腕も元通りになったし、あたしの服をあんた用にリメイクしようと思ってね」
ゲルダさんはふくよかな顔に皺を作り、楽しそうに笑う。
「心配しなくてもいいよ。
ほとんど袖を通してない服だし、若い女性でも着れる色とデザインだからね」
私が返事をしないので、ドレスの色やデザインの心配をしていると思われたらしい。
「勘違いをさせてしまったのならすみません。
そういう心配をしている訳ではないのです。
その……私の服、そんなにみっともないですか?」
自室で絵を描いているときに王太子殿下に呼ばれ部屋を出て、その後すぐ城を追い出された。
なので私は、聖女の使う白いローブの上にエプロンを身に着けたままだ。
エプロンのあちこちに絵の具がついていて、お世辞にも綺麗な服とは言えない。
お城を出て約一日が経過し、服についた絵の具の匂いはだいぶ薄らいだと思う。
昨日ほど臭わないはずだが……。
「そういうわけじゃないんだけどね。
職業柄、服を沢山持ってるから余り気味でね。
ねぇ、あんた」
私が不安げに問うと、ゲルダさんは苦笑いを浮かべ、話をドミニクさんに振った。
「リアーナ、気にするな。
こいつは職業柄服装にうるさいんだ。
俺は今の服のままでも悪くないと思ってるぜ」
「あんたは本当にいいカッコしいだね」
ゲルダさんは、ドミニクさんの頭をポカリと叩くと、ため息を吐いた。
ゲルダさんのお仕事は、お針子でした。
「リアーナ、気を悪くしないでおくれ。
こんなに素材のいい美人さんが目の前にいるのに、
そのままにしておくのはもったいないなくてねぇ。
着飾ってやりたくなるのさ」
ゲルダさんが片目をパチンとつぶる。
美人とは……誰のことだろう?
「そういうわけだから、あたしの部屋に来ておくれ!」
「……はい?」
ゲルダさんの勢いに押し切られ、彼女の部屋に連れて行かれてしまった。




