改7話「困ったときは相身互い」
「本当にありがとう!
何かお礼をしたいんだが、お嬢ちゃん何か欲しいものはないか?」
「欲しいもの……ですか?」
私としては姉として元最高聖女として、妹《ミラ》の治療のフォローをしただけなのですが。
「こう見えてこの人は、ルーデンドルフ帝国の皇族専属の鍛冶師をしてるんだよ。
あたしは皇族専属のお針子をしてるんだけどね」
まさかこのようなところで、ルーデンドルフ帝国とゆかりのある方と会えるなんて。
「あの人が魔女の一撃をくらい、あたしは手の痺れが治まらなくて、しばらく休業してたんだよ。
だけど、あんたのお陰で怪我が治った!
これからは前よりもバリバリ働くつもりだよ!
だから、欲しいものがあったら遠慮なく言っておくれ!」
女性は、ニコニコと笑いながら自身の胸をたたいた。
「ではお言葉に甘えて……。
お二人はルーデンドルフ帝国に帰るんですよね?
私の目的地もルーデンドルフ帝国なんです!
お二人が船に乗るとき、一緒に船に乗せて欲しいんです!」
夫妻が顔を見合わせる。
「ルーデンドルフ帝国行きの船に、乗せてもらえるだけでいいんです。
食費は、船内でお掃除や皿洗いをして稼ぎますから!」
私は全力で頭を下げた。
……しばしの沈黙。
やはり無謀でした。
ちょっと回復魔法をかけたくらいで、船に乗せてもらおうなんて……。
図々しいお願いだった。
ずっと王宮にいたので、ルーデンドルフ帝国までの船賃がいくらかかるか分からない。
でも安くはないはず。
それを会ったばかりのお二人に、出してもらおうだなんて浅はかだった。
「アハハハハハ!」
「フフフフフフ!」
突如笑い声が聞こえ、私は顔を上げた。
「なぁんだそんなことか!」
「もちろん構わないよ!
あんたの言う通り、あたしたちはルーデンドルフ帝国に帰るところなのさ!
あたしたちがあんたの分の乗船券も買ってあげるよ。
一緒にルーデンドルフ帝国へ行こう!」
今度はこちらがポカンとする番です。
まさかこんなにあっさり了承されるなんて……!
「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」
私はもう一度、深く頭を下げた。
「頭を上げておくれ。
お礼を言うのはこっちの方だよ。
亭主の腰の痛みと、あたしの腕のしびれを治してくれたんだからね」
「全くだ。
怪我のせいで働けなくて商売上がったりだったからな」
良かった。
お二人ともとってもいい人みたい。
グーキュルル……!
その時、また私のお腹が音をたてた。
昨日から何も食べていないからって、鳴りすぎ!
羞恥心で頬に熱がこもる。
「ご飯の心配もすることないよ!
あんたはあたしたちの恩人なんだからね!
船に乗ったら、美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげるよ!」
「そうだ遠慮するなよ!
男にとって仕事が出来ないのは死んだも同然!
ということは、あんたは俺の命の恩人も同然ってことだ!
魚でも肉でも果物でも、腹いっぱい食わせてやるよ!」
港町で出会った夫妻は優しくて、気前の良い方たちでした。
「あたしはゲルダ。
こっちは亭主のドミニク。
お嬢さんのお名前は?」
「私の名前はリアーナ・ニク……。」
リアーナ・ニクラスと言いかけて慌てて口を塞ぐ。
「リアーナです、家名はありません」
私はお父様に勘当された身。
もうリアーナ・ニクラスでも、公爵令嬢でもない。
ニクラスの姓は名乗れない。
「リアーナ、顔だけじゃなく名前もお上品だね」
「まったくだ」
二人の言葉に私は首を傾げる。
誰かに上品と言われたのはいつ以来だろう?
6〜7話
・港町でドミニクとゲルダの夫妻に出会う。
・ドミニクはぎっくり腰、ゲルダは右腕の腱鞘炎
・リアーナは「最大・回復」で二人を治療した。
・ドミニクとゲルダは、リアーナが最上級の回復魔法を使えることに驚く。
・ドミニクとゲルダはお礼にリアーナの願いを叶え、リアーナを船に乗せた。