改6話「港、鍛冶屋夫婦との出会い」
・いつ
女神暦818年5月2日
・どこで
ハルシュタイン王国・港町、港
・誰が
リアーナ、ドミニク、ゲルダ
・服装
リアーナ→白地のローブ(木綿製)、ローブの上にエプロン(絵画用)
ドミニク→鍛冶屋っぽい格好、白いシャツに茶色いズボン
ゲルダ→お針子っぽい格好、茶色と緑の普段着用のドレス
※ニクラス公爵家から港まで、馬車で30分、歩いて1時間半。
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・帆船(ガレオン船)
500人乗り
船員は50人から60人
乗客450人ほど
1日120キロ(24時間)進む(追い風、順調な航海時)
・役割ごとの船員の内訳
・船長 (Captain): 1名
・一等航海士 (First Mate):1名
・甲板員 (Deckhands):20〜30名
・操舵手 (Helmsmen):2〜4名
・機関士 (Engineers):2〜4名
・炊事係 (Cooks):2〜3名
・船医 (Surgeon):1名
・船大工 (Carpenters):1〜2名
・水兵 (Sailors):10〜20名
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・初級回復魔法
回復
・中級回復魔法
中級回復
・最上級の回復魔法
最大・回復
「クシュン!」
朝日が山の峰から顔を出す。
昨日、ニクラス公爵家でアルドリック様から手紙を受け取った私は、彼に会うために港町を目指した。
ニクラス公爵家から港町までは歩いて一時間半ほどで着いた。
アルドリック様の住むルーデンドルフ帝国は、南の海を越えたブルーメ大陸にある。
徒歩で港町に向かったので、港町につく頃には日が暮れていた。
宿代が無いので、親切な方にお願いし、民家の軒先を借り夜露をしいだ。
早朝の港町の空気はとても澄んでいた。
遠くからカモメの鳴き声が聞こえ、潮風がとても心地よい。
平民の朝は早く、日の出とともに始まると聞く。
もうすぐ、通りも賑わうでしょう。
昨日までの私は、この時間最高聖女として水晶に祈りを捧げ結界を張っていた。
今日からは、妹のミラがその役目を担う。
十四歳の彼女にそのような重役が務まるか不安でしたが、考えてみれば私は八歳で最高聖女に任命され、それから一人で結界を張り続けてきました。
ミラには魔力量を百倍にするアンドヴァラナウトの指輪もある。
傍で支えてくれる王太子殿下もいる。
彼女は両親からも愛されていますし、彼女に任せても問題ないでしょう。
それはそれとして、一晩経ったので私の魔力が回復した。
今までは魔力を、結界を張るのに使っていた。
今日からは、回復魔法や他の魔法を使える。
昨日、歩き通しで足がパンパンだったので、自分に初級の回復魔法をかけることにした。
足の裏は擦りむけ、踵に靴擦れができ、足の指と足の甲が痛み、ふくらはぎはパンパンに膨らんでいる。
船に乗るにもお金が必要。
こんな足では働くどころか、仕事探しもままならない。
「回復」
呪文を唱えると、みるみる足の痛みが取れていった。
足だけでなく、体全体の疲れも取れたみたい。
これなら、今日一日お仕事を探せます。
船に食料などを積むような重労働は無理ですが、私でも食堂の皿洗いや、子守りくらいならできるはず。
回復魔法が使えることを伝えれば、船医として雇ってもらえるかもしれない。
船医になれば、船にただで乗れます。
ルーデンドルフ帝国のあるブルー厶大陸まで、すいすいと行けます。
ルーデンドルフ帝国行きの船を探し、船長さんに交渉してみましょう。
私は軒先をお借りした民家の女将さんにお礼を伝え、大通りに向かった。
港町の人は早起きで、船に荷物を運ぶ人や、市場に商品を並べている人などを見かけた。
市場にはフルーツや、魚を扱う店が多く並んでいた。
新鮮な林檎や苺やチェリー、サバやアジやエビを眺めていたら、「ぐ〜〜」とお腹が鳴った。
そういえば、昨日の朝から何も食べていないわ。
「きゃっ……!」
「うわっ……!」
よそ見をしながら食べ物の事を考えて歩いていたので、人にぶつかってしまった。
私がぶつかったのは四十代前半位のがっしりした体型の男性だった。
真っ赤な髪に同色の濃いあごひげの、気難しそうな職人風の男性。
彼の隣には、彼と同じくらいの年齢の女性がいた。
オレンジ色の髪にオレンジ色の瞳で、温和そうな顔をしていた。
「すみません!
よそ見をしていたものですから!」
「いたた……!」
赤い髪の男性は顔を顰め、腰に手を当てた。
そんなに強くぶつかったのでしょうか?
「申し訳ありません!
そんなに酷いんですか?」
どうしましょう?
不注意から相手の方に怪我を追わせるなんて……!
「お嬢ちゃん、この痛みはあんたのせいじゃねぇんだ」
「この人、鍛冶屋をやってるんだけど腰をやっちまってね。
魔女の一撃ってやつさ」
魔女の一撃……急性腰痛症のことをそう呼ぶと聞いたことがある。
「それで、この国の聖女様を頼ってはるばるルーデンドルフ帝国から来たんだけどね……」
オレンジの髪の女性が顔を曇らせた。
「だが、評判の割には効果は今ひとつだったな。
金色の髪でドリルみたいなツインテールをした緑の瞳の若い聖女様に、
回復魔法をかけてもらったんだが……。
一時的に痛みが和らいだだけだったよ」
「ミラ様とかいったかね?
腕はいまいちなのに、態度は尊大だったねぇ」
外見の特徴と名前から推測して、お二人を治療した聖女は妹で間違いないようだ。
「わざわざ隣の大陸から足を運んで、
大金を払って聖女様に治療してもらったのにこのざまさ」
男性が眉間に皺を寄せ、再び腰に手を当てた。
「あたしも亭主のついでに、
手のしびれを治療してもらったんだけどね。
治ったのはほんの一瞬。
数時間したらまたしびれてきたよ。
これじゃあお針子の職を辞すようかもしれないねぇ」
女性の右手を見ると、小刻みに震えていた。
「それは申し訳ありませんでした」
この国の聖女を頼って遠くから来てくれたのに、お役に立てなかったなんて……!
ミラの姉として、元最高聖女として責任を感じます!
「なんでお嬢ちゃんが謝るんだ?」
「あんたが気にすることじゃないよ」
キョトンとした二人が私を見る。
「もしよかったら、私にお二人の治療させてもらえませんか?」
「えっ? お嬢さんも回復魔法が使えるのかい?」
「はい、少しですが。
お二人にぶつかってしまったお詫びもかねて、治療させてください」
このまま二人を国に帰すなんて、私にはできない。
「俺は別に構わねぇよ。なぁゲルダ?」
「あたしもあんたがいいなら、構わないよ」
「ありがとうございます」
お二人に許可を頂いたので、早速回復魔法をかけた。
「旦那様は腰でしたね?
最大・回復」
男性の腰に手を当て呪文を唱えると、淡い光が男性を包み込んだ。
「嘘だろ……!
こんなに若い娘が最上級の回復魔法を使えるなんて……!」
男性は目をぱちくりさせている。
「奥様は手のしびれでしたね?
最大・回復」
私が呪文を唱えると、女性の手と腕を淡い光が覆った。
「お二人とも、患部の調子はどうですか?」
他人に回復魔法をかけたのは約十年振りなので、正直自信がない。
「全然痛くねぇ!
それどころか腰を痛める前より調子がいいぞ!
二十代に戻ったみてぇだ!」
「手や腕が自由に動くよ!
しびれや震えはどこにいってしまったんだろうね?」
男性は腰を後ろに反らしそのままバック転をした。
女性は手を上下に振ったり、腕をぐるぐる回したりした。
彼らの表情がほころんだのを見て、私はホッと胸をなでおろす。
どうやら二人を完璧に治療できたようです。
「お嬢ちゃんありがとな! その年で最上級の回復魔法を習得してるなんて、あんたすげぇな!」
「長年のしびれが嘘みたいに治ったよ! 本当にありがとう!」
二人は私の手を握り、嬉しそうに笑った。
彼らの笑顔を見ていたら、自然と顔が綻んだ。
誰かに素直に感謝を伝えられるのは久し振り。
なんだか背中がむず痒いです。
でも、とっても心地が良いです。




